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ヴァンパイア・メタリック  作者: すこーぴおん
15/24

15話 ディルVSストーカー男①


シャワーを浴びたディルの前髪からは雫が伝り落ちる。


「僕に露出の趣味はないんだけどな」


「俺もだ。男の裸を見る趣味はなかった」


(なかったって何っ!?)


ディルはいつもへらへらとしているが、素で驚いたのは久々かもしれない。


(こいつ…僕を超えるぶっ飛んだ奴なんじゃ…!?)


ディルは精神的に圧されているのを感じて、体が呼応するように、無自覚に後ろに後ずさった。


(あっ…やべぇ武器…ナイフナイフナイフ~~~~~~~~!!!!)



「リツコが人食いなんだ。人を喰うときは裸だろっ…? あいつは普段は上品なくせに、食い維持は汚かった。加工されている肉を食べればいいのに。鮮度と生き食いにこだわっていた」


(あ…そういうことね。それで見たくもない裸を見ることになったのか…)


なるほどなるほど、と口の中で呟く。

が納得したところでディルの精神的な不利が解決するわけではない。


(例の吸血鬼のストーカー男のことをすっかり忘れてたな、とディルは自分の情けなさを悔やむ。


(ゼロウ・レクタールさんの馬鹿が移ったせいだ)


他人のせいにする。


(あの人が吸血鬼以外に興味がないから、この好きな子のために殺人を犯すような馬鹿なただの人間を忘れてたよっ)


ディルはゆっくりと動きながら、頭に置いていたタオルで下に持ってくる。


「なんでさ、僕が裸のときを狙うの? 食べるつもりじゃないでしょ?」


自分の声が上ずっていたみっともない。

人は裸になるとこうもみっともなくなるものなのだ。

裸になろうが服を着ようが、アーマーじゃない限り、戦闘能力は理論上は変わらないはずだ。


(僕の戦闘能力は変わらない…僕の強さも相手の強さも変わらない)


だから怖気づくことはないのだ、と自分を慰める。

相手はただの吸血鬼女のストーカー。

ただの人間だ。

吸血鬼と死闘を繰り広げる僕がてこずるような相手じゃない。


ディルの思考はバカみたいによく働くもので。

(水着で試験を受けると点数が下がったとか、そんな心理実験あったような…)


こんな緊迫した場面で、どうでもいいことを考えてしまう。


改めてストーカー男の顔を見る。

青みを帯びた黒髪に、凛々しい輪郭。眉と目元を隠す長すぎる前髪が、彼のミステリアスな部分を引き立てる。

筋肉質でもなければ、がりがりでもない。標準的な体系だ。

身長の低いディルよりは背が高い。

表情に乏しい口元や潤ってギラりと光を放つ眼光が彼を強くは見せている。


「こんなタイミングで来るなんて…困っちゃうなぁ。僕、裸だし。着替えてないし。僕ナイフだって持ってないのにィ。着替え終わるまでさ、出てってよ」


「なぜおまえの裸を見たいと思う? たまたまだ。それになぜ俺がおまえが着替え終わるのを待たなきゃいけない」


(ええ~~~~)


ディルは素で悶絶した。

驚きと絶句の余りに顔が垂れて、瞳孔が見開く。

間抜けに口をぱかんと開けた様は主人公であることが悲しく思える。


(既視感っ..........!!!)


これはまさしく既視感。

ディルの脳内に、ディルが敵わない相手アイシャ、アイリス、ゼロウ、ステファンの横顔が浮かんだ。

彼らの実力は素晴らしい。暴漢に遭おうとも、倍以上の力で理不尽なまでにねじ伏せるだろう。

だが、それ以上に、我の強さで彼らには敵わないと感じる。

それに追随するなにかを彼は秘めていた。その断片を目の当たりにしたディルは、絶望を垣間見てしまった気がした。

ディルの額から冷や汗が一筋、滑り落ちる。


「おまえのせいでリツコは死んだんだ。弔いにおまえの死は必須だ」


「僕のせいなのっ?」


ストーカー男フレイは突進した。


ディルはよかった、と内心、安堵する。

これは素人の動きだと。

度胸と自分の身を顧みないところは恐ろしいが、それ以外の技術に値するものは素人だと。

普段、ブレインでありながら前線で戦うことになる自分には及ぶまい。


「ん? あれ?」


ディルは返り討ちにしようとして、身を躱した拍子に拳を叩きこもうとするが。


(僕ってこんなトロかったっけ?)


次の瞬間には逆に拳を入れられた。体が受け止めきれずに吹っ飛ぶ。


飛ぶってこんなかんじかなー、とディルは置かれた状況にも関わらず、ゆるくそんなことを思った。頭の中は緩いが、体が受けた打撃は緩くない。壁に衝突し、背中を打撃した。

鼻から血が出る。


ディルは顎をあげた。

(相手はただの人間なのに..........)

瞼の裏に人間の顔が思い浮かんだ。

(そっか…僕より強い人間なんて、普通にいたなぁ)

昨日も会ったし、とディルは観念したように呟いた。

(だからと言って負ける理由はないけど)

頭を掴まれて、振り回される。口の中になにかが入る。

口内の皮膚が破れて、血の味と匂いで満たされる。


(ボロ雑巾になった気分だな)


ディルはうっすらとした意識の中で、そんなことを思った。

今度は地べたに身体を振り落とされる。


(死んでもいい気がする)


こういうとき、生きる気力も死に対する恐怖も抗いもなにもない。

ただ生死の流れに流されるほうがいい。

未練はない。

(未練なんて…)


水と血が混じりあい、床に広がっていた。自分の死んだ魚のような顔が赤い水面に映る。

窓ガラスの奥は暗い。それでも室内の光を反射して、外の世界は伺えない。

ふと顔をあげてみた自分の姿はやはり死にきった鯉同然。

けれど。


(裸で死ぬのやだなぁ…)


ディルの脳裏に瞬発的に浮かんだのは、憎き愛しい妹の姿だった。


(あいつに知られるのが一番、嫌だ)


青みがかった白髪が美しい、灰と翡翠のオッドアイの妹。

冷たい氷にようなまなざしでディルを見下ろす背の高い、あの妹。


(生きなきゃ…)


ディルの中で力があふれ出す。


(まだ意識がある)

(心臓が動く)

(まだ動ける)

(無理をして体がおかしくなってもいい)

(体が壊れてもいい)

(壊れるまでは動ける)


謎理論でディルは生きることを、抗うことを決意した。

留めの人蹴りが加わる。直前に身体を回転させよける。相手の足を不意打ちで掴み、相手の勢いを利用して、吹っ飛ばす。窓の外に。

窓ガラスが割れて、破片が散る。



「はぁ..........はぁ..........」


ディルは肩で息をする。

ナイフがないとこんなにも弱いのか、と己の弱さを嘆いた。

思考が朦朧としてる。

ここから落ちたくらいじゃ相手は死なないだろう。

相手が引かない限り、戦いは続く。

ディルは立ち上がる。


武器を手にしようとしたところで、今度はディルが不意打ちを食らう番だった。


「なんで生きてるんです..........?」


「死ぬかっ! バカ野郎っ!」


熱く迸るようなセリフ。

どちらが主人公かといいたくなるほどに、彼は我慢強く、忍耐強く熱かった。


ディルはナイフを愛刀を手にしたまま、地上100Mから振り落とされた。



フレイは地上へと降りた。

見失ったあいつを探しに。

普通に目の前で殺せばよかったという後悔とともに。


猫と目が合った。

しばらくじっ、と見つめ合う。

紅い双眸が特徴的な大きな猫だ。

どのくらい大きいかというと1Mを超えるほどだ。

フレイにとって大事なことは敵か味方か好きか嫌いか。

この猫は好きでもないし嫌いでもない。敵でもないし味方でもない。


「獣臭いのは嫌いだ。あっちいけ」と猫にひらひらと手を向けて追い出せうとするが、猫は動かない。

ムカついたが、こんなのにかまっている暇はないと思い、フレイは睨みつけたあと、去っていった。




「クソがっ!」


猫の声帯で悪態をついた。

周囲にはニャーとしか聞こえない。

へらへらと緩く生きるディルが、久々に怒りをあらわにした。

ちなみにこの猫は血だらけで、しかも1M以上もあり、普通の観察力のある人間ならば異常だと思っただろう。


「あの男、馬鹿みたいに疎いな」とディルは内心、冷や冷やしていたことを忘れたふりをして、嗤った。

ディルは半魔だ。この世界には人食い以外の種もいる。

猫族。ディルは化け猫の一族の血を引いている。


①があるってことは②があるってことですよねっ!?

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