1話 復讐の始まり
その日も昨日と同じ日々が繰り返される。
何回も繰り返した日常に、疑いをもつことはなかった。
その日もいつもと同じ光が一筋漏れる小さな部屋にいた。
彼らの和気あいあいとした声が聞こえる。
自分がとても小さく思えた。そして、この部屋と同じで、彼らと自分は分離しているのだという無自覚に思った。光が零れている。それは自分とは関わりがないのだと。手に届かないものであるという意味では。
この日もいつもと同じ日々が繰り返されると思っていた。
固くて、それでもボロボロと崩れ落ちるパンを口に含みながら。
その日は来客が訪れた。
光の向こう側にいる人たちが寄生をあげた。ものが砕ける音がした。
日常を壊す音だ。
叫び声がする。はじめて聞いた声だった。
人ってあんな声を出せるのだということを初めて知った。
わたしはなぜ、なぜかはわからないけれど。
関わりのない彼らの世界を覗いていた。左目を押し付けて。
隙間から零れる光は目に眩しかった。目を細めると…
「ぐぁいいいやぁぁあああああ…」
自分の中から、こんな声が出るとは思わなかった。
いつも与えられている痛みとは違う。直接的な痛みだった。
床を転げ回った。硬いものが床に接触して、そのたびに尖った痛みが追加されていく。
「こんなところにも人が…気づかなかった」
「注意不足よ。背後から刺されたらどうするのよ」
「さて、どうするか?」
「殺すに決まってるでしょ」
「どうやって殺すかだよ。殺し方もいろいろじゃん?ーーーーー治りが早い」
と。殺し屋のひとりは投擲したナイフを回収しつつ、素の声音で呟いた。
「治りの問題じゃないでしょ。吸血鬼だったのね」ともうひとりが感心しつついう。
「ターゲットにいたっけ、吸血鬼」
「いないわーーーでも殺しておいて困ることはないわ」
「あー待って待って待って」
「玩具じゃないのよ」と弟の悪癖に怒りをにじませる。
「違う違う。神の選別だよ」と弟はにんまりと口元を意地悪く緩める。隠された目元は見えないが、長年の付き合いで、彼が今どんな表情をしているのか想像できる。
「とある格闘家の吸血鬼の一族の中でも異端の選別方法があってね」と弟はファンタジーに書いてあった、ありもしない内容を史実のように言う。
丁寧で繊細な動作で迷いなく、ナイフの刃で少女の皮膚を縦に切り裂く。
「うわっ…悪趣味」
「3つ取り出そう。どれがいい」
弟の問いかけに姉は態度とは裏腹に意気揚々と答える。
「心臓、腎臓、膵臓」
「いい趣味してるね」
「なに言ってるのよ。どの部品を選んでも命に関わるじゃない」
★
熱い。
目の奥が熱い。
視界がぼやけてなにも見えない。
瞼を瞑ると押されてぐちゃりとなにかが崩れる。
今度はおなかだ。
皮膚が切られてる。
この痛みは知っている。指の皮膚を切ったときと同じだ。
でもずっとずっと痛い。
これはなんだろう。
おなかの中がかき回されている。
なんだろう。引き抜かれていく。わたしのなにか。
今度は口だ。
唇と前歯に指が当たり、無理やり開けられる。顎が痛い。
痛い部分が増えていく。
そして。
口の中は血と臓物の味がした。
★
「燃えしちゃうのに。趣味が悪いわね」と殺し屋の姉は弟に聞こえない程度に呟く。
弟は唇の端でうすく嗤う。姉はそんな弟の笑みを似合っていると思った。
「だからこそ”神の選別”さーーーーああそうだ。家族全員殺しちまって悪いと思っているから」と男はプレゼントを入れ込む。
「どっちの目玉か忘れちまったけど」と。
https://youtube.com/@suko-pionnnn?si=ezOgYbW-PiOzRkGX
お絵かき系ユーチューバーもやっていますので
よかったら是非。