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第8話:大ピンチ!?大きな海の、小さな激闘!


船が港を出発してしばらく

大海原を優雅に進む客船


その船の甲板に、1人の少女がたたずむ



「青い空、青い海、そこを優雅に進む客船、そして...」

「その船にたたずむ1人の美少女!」

「う~ん、あたしってなんて絵になるのかしら~☆」


自分の世界に入ってしまっている、船ではなく自分に酔いしれているこの1人のちんちくりんな少女の名はパルフェ

相も変わらず自己評価の塊である


「...何かスゴいムカついて気分悪いわね」


もとい、この世界に誇る、あらゆる者達を酔わせてしまうこの1人の麗しい美少女の名前はパルフェ

相も変わらずの美少女である


「あら、何か気分良くなった」



船は変わらず、大海原を進む


「ん~、しっかしホント気持ち良いわね~、心地良い風に、綺麗な青空に青い海、それから...」

「う、うぅっぷ...」

「あら、青い顔」

「ほっとけ!」


青ざめた顔をし、気分の悪そうな顔をしているこの少年の名はナオキ

つい先日からこの異世界フローリアにやって来た、フレッシュボーイである

まぁ、今はそんなフレッシュでも何でもないが


「うっ...」


愛しの女神様の為に頑張る、未来のカッコいい勇者様である


「...だいぶ気分が良くなった気がする」


現金な奴らである



「だらしないわね~」

「仕方ないだろ、船なんてほとんど乗った事ないんだからよ」

「船って言っても客船じゃないの、酔う程の物じゃないでしょ?」

「でも何か駄目なんだよ...」


おそらくこれは、昔の経験による条件反射であろう

ナオキは昔、船で酔いまくってしまった事により、反射的に船に酔ってしまうのだろう


「あんた船苦手だったの?何でさっき言わなかったのよ」

「お前が聞かなかったから...」

「あぁそう...」


こんな問答、昨日も見かけた気がする


「うぇっぶ...まだキツいな」

「ホントだらしないわね」

「なぁパルフェ」

「なに?」

「酔い止めの魔法とか無いのか?」

「ある訳無いでしょ」

当然である


「あーでも、代わりになるような事なら出来るわよ」

「マジ?頼むわ」

「ん~?」

「お願いいたしますパルフェ様」

「よろしい」

これもまた、昨日見た問答である



そしてパルフェの酔い醒ましが始まったが、まさかの光景がそこにあった


「ほ~らほ~ら☆」

「...」

「可愛いパルフェちゃんの姿で酔いよ覚めろ~☆」


パルフェは両手を頭の後ろに回し、誘惑するかの様に腰や身体を捻らせくねくね踊る

まるで自分がセクシーな踊り子の様だと言わんばかりに踊る、そのちんちくりんの身体からどうやってそんな自信が湧くのか不思議でしょうがない


「うっふ~ん♥️」

パルフェが言い終えた瞬間

「おぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」 


ナオキが近くにあった小タルの中に吐いた、トドメを刺されたのである

「何で吐くのよ失礼ね!馬鹿!」

無理もない、馴れない船旅と目の前の不気味な光景では仕方なかろう


「何かあんたもろとも、色々と船ごと沈めたいぐらいの気分なんだけど」

「申し訳ございません」

申し訳ございません


「良いわ、今日は見逃してあげる」

「ほっ」

「次は無いわよ」

「はい」

パルフェ、もといパルフェ様の恩情に感謝である






その時、二人の後ろの方から騒ぎの音が聞こえた

気になった二人は騒ぎの方へと向かった

そこで見たのは、海面に現れた巨大なタコの怪物、いわゆるクラーケンという奴だ

それを見て恐怖におののく乗客達


ナオキはクラーケンを見て

「生で見るとマジで迫力やべぇな」

「これ勝てんのか?」

と考えた、だがそれ以上に

「こいつ食えんのかな?」

と思った、彼はお腹が空いているのだ


そう思いつつもナオキは剣を抜いた

昨日の晩、パルフェが自分の為に買ってきてくれた剣、それの初お披露目である


「怪物に対峙して剣を構える勇敢な男、これぞ正しく勇者の姿!」

そう呟き、いざ勝負!と思ったナオキであったが

「この野郎!覚悟しやがれ!」

「この船を沈めさせはしないぞ!」


と、既に勇敢なる他の冒険者達がクラーケンと闘っていた

更には

「何ボサッとしてんの!?」

パルフェが他の冒険者達に火球で援護しながらナオキに檄を飛ばした


他の冒険者達はおろか、こんなちんちくりんにまで先を越されたのか...

と、ナオキは出鼻を挫かれたが、とにかく自分も闘うしかないと思いクラーケンに立ち向かう

これもカッコいい勇者になる為である



しばらく戦闘が続いた時、クラーケンが足を伸ばす

ナオキを含めた男の冒険者達以外の所に狙いを向けている

「どこに攻撃しようとしてんだアイツ?」


そう思った矢先、乗客の女性達の悲鳴が聞こえた


「しまった!」

「女を狙いやがって!」


男達がクラーケンの方を見やる

そこには、あられもない姿でクラーケンに捕らわれた女性達の姿があった



「いやっ、ぬるぬるしてる...」

「あぁ~ん、そこはダメぇ~」

「くっ!...んっ」



捕らわれた女性達は、あられもない姿であられもない声を出している




その光景に男達は

「こ、こりゃあ...」

「おぉう...」

「生きてて良かった...」


と、目の前の光景に釘付けになっている、ナオキも同じである


しかしその瞬間、後ろから伝わる凄まじい殺気により、ナオキは全身から汗が吹き出してきた


振り向けば、そこには小悪魔もとい悪魔

いや、それすら生ぬるい、魔王の如き恐ろしい顔でこちらを睨むパルフェの姿があった


彼女がナオキに対して殺気を送った理由は3つ

一つ、闘いに集中せずに目の前の痴情に現を抜かした事

一つ、命の危機に面した女性達のあられもない姿に目を奪われ、興奮を押さえられなかった事

そしてもう一つ、さっきは可愛い自分の姿を見て吐いた癖に、ああいった大人の女性達にはそんな態度を取るのかという劣等感と敗北感による逆恨みである

正直3つ目だけで事足りるだろうというのは言うまでもない



パルフェに怯えるナオキ

その時、クラーケンの足がパルフェに迫っている事に気が付いた

「しまった!」

ナオキが思った時には既に遅い

クラーケンの足がパルフェの目の前まで迫っていた


「パルフェ!」


ナオキが叫んだ時、クラーケンの足が止まった

今だ、そう思いパルフェの元に走りだそうとした瞬間、彼の目に映ったのは


ぱしっ


と、クラーケンがパルフェを軽くあしらった光景である

目を点にするナオキ、同じく目を点にするパルフェ


パルフェは

「え?何で...?」

という顔だ


他の女性達の様に扱われなかった事に対しての怒りもあった、だがそれ以上に期待の念があった


昨日の件だ、自分がドランに叩かれた時、普段はだらしなくて頼りないナオキが烈火の如く怒り、自分の為に力を振るった事を


今回も同じくそうしてくれる

そう期待の目でナオキを見る、しかし彼女が見たものはというと


「くっ...ぷくく...くふっ」


下唇を噛み締め、腹を抱え、必死に笑いを堪えるナオキの姿である

昨日自分の為にあれだけ怒りを震わせ、勇姿を見せてくれた彼の姿はそこにはなかった


そんな彼女を見てナオキが言う

「パ、パルフェ...くくっ...無事で...くふっ、良かった...んひっ」

こいつは本当に安否を心配してくれているのか?と疑う態度だ


更には

「よ、良かったな嬢ちゃん...」 

「怪我はないみたいだな...」

と、他の冒険者達が苦笑いをし目を背けている


その時、パルフェの中で何かが弾けた


「あんたのせいで...」


パルフェがクラーケンににじりよる


「あんたのせいで...!」

パルフェの拳が震える


「大恥掻いたじゃないのよ!!」




「何て事してくれたのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



パルフェは火球を放つ

それも一つや二つではない、数多の火球が彼女の凄まじい怒りによって放たれた

その火球達が彼女の全身全霊による怒りに対して、憎きクラーケンを倒せと言う期待に応えるかの様に勢いを増すばかりか、どんどん集まって行き

巨大な火の玉の集合体になり、クラーケンに襲い掛かる


その一撃により、クラーケンは大きく怯んだ

間違いなく一番大きなダメージを与えた 


それに対してクラーケンは、パルフェに狙いを定め複数の足を伸ばす

目の前にいるのはもはや色気足らずのちんちくりんではなく、自分の命を脅かす圧倒的脅威、真っ先に倒すべき存在だからだ


自分の足を火球に焼かれたがそんな事はお構いなしにクラーケンはパルフェに襲い掛かる


一本の足がパルフェを捕らえようとした時、すかさずにナオキが剣を振るい足を切った


「大丈夫か!?」

「平気よ」

「良かった」


「ナオキ」

「何だ?」

「さっきの事、後できっちりとお返ししてあげるから」

「...慈悲は?」

「ないわよ」

「...」


「返事は?」

「了解いたしました」

「よろしい」


ナオキは激しく後悔した


何故、目の前にいるクラーケン以上に敵に回してはいけない存在を煽ってしまったのか

昨日散々その理由を味わっただろうに


ナオキとパルフェが問答していた時、一人の冒険者が

「くそっ、これでも食らいやがれ!」

と、一つの小さなタルをクラーケンに投げつけた


そんなもんでクラーケンが倒せる訳が...

と思ったが、二人はそのタルを見て思い出した


あれは間違いなく、さっき俺が腹の中の物を出しまくったタルだ

不本意だったとは言え、その中身を満たした原因はあたしだ


それが怪物とは言え、一つの生命に対して投げつけられた

流石に同情の余地しかない、と二人は青ざめた顔で弧を描いて飛ぶタルを見つめた



その刹那、タルがクラーケンの顔に直撃した

そして中身がクラーケンにかかり、その直後、苦痛に歪み、悲痛の唸りを上げるクラーケンの姿が、犯人二人を含めた全ての乗客の目に映り

乗客達に見られながら大海原に去って逃げて消え行く、クラーケンの姿があった



呆然とする犯人二人

クラーケンが去った事を喜ぶ他の冒険者含めた乗客達

船に平和が訪れた、一体の尊い犠牲と引き換えに




二人が唖然としていた時、さっきのタルを投げつけた冒険者が話し掛けてきた


「兄ちゃん達、怪我はないか?」

「あ...はい」

「うん...」


「そりゃ良かった、しかし何でまたクラーケンはあのタルであっさり逃げてったんだろうな?」

冒険者がそう言った時、ナオキが言った


「あ、あの...」

「ん?」

「さっきのタル...その、俺が...ちょっとその」


「なに?もしかしてあのタル兄ちゃんが用意してくれてたのか!?」

「い、いやその...まぁ間違ってはないと言うか...」

「そうだったのか!よくやってくれたな兄ちゃん!」

「あ、いやそんな...」



「おい皆聞いてくれ!あのクラーケンを追っ払ったタルはよ!この兄ちゃんが用意してくれてたらしいぞ!」

「ちょ、まっ..!」


その冒険者の声を聞き、他の冒険者達や乗客達がナオキに寄ってくる


「マジかよ!?」

「すげぇなお前!」

「スゴいわ!どんな細工したの!?」

「やるなあんた!」


自分のやった事がきっかけで怪物を退け、周囲から賛美の声を浴びるナオキ

だが彼は素直に喜べなかった、理由が理由だからだ

どんな細工をした?言えるわけがないだろう

自分の吐いた嘔吐物を詰めました、だなんて



ナオキをよそに盛り上がる外野

どうすりゃいいんだ、と更に青ざめるナオキ


そのナオキに対してパルフェが呟く

「...ナオキ」

「...なに?」

「...二人の秘密よ、これは」

「...うん」


知らぬが仏

正しくその言葉が似合う出来事であった


「はぁ...」

ナオキがそうため息をついた時、パルフェが再度呟く

「ナオキ」

「ちょっとこっち向いて?」

「え?」

「いいから」


パルフェに向き直ると、ナオキに向かって手を伸ばすパルフェ

その行為に対してナオキは

「これはアレか?頑張ってくれた俺へのご褒美のチューか?」

と、勝手な妄想をし、勝手に顔を赤らめた


しかしその直後、彼の淡い期待は打ち砕かれた


ナオキの胸ぐらを掴んだパルフェが、その小さな身体のどこにそんな力が?

というパワーでナオキに見事な背負い投げを決め、海に投げ飛ばした


船外に投げ飛ばされたナオキは、さっきのクラーケンとの戦いの最中の会話を思い出した


「後できっちりとお返してあげるから」


その言葉を思い出し、それと同時に


走ってもっときらめいて

憧れにテイクオフ


という謎の言葉が過った刹那、彼は海に沈んだ


それを見ていた乗客達が叫ぶ


「お、おい!あの兄ちゃん海に落ちたぞ!」

「いや!正確にはあの嬢ちゃんに落とされたぞ!」

「おい嬢ちゃん!あの兄ちゃんお前の仲間だろ!?何してんだ!」


そして、再度パルフェの中の何かが弾けた


「...うるさい」

「は?」

「うるさいうるさいうるさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」


そう叫んだ後、パルフェは四方八方に火球を飛ばす


「うぉっ!?何すんだ嬢ちゃん!?」

「危ないだろ!?」

「俺達が何したって言うんだよ!?」


「あんた達も...」

「あんた達もあたしの事笑ったでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


パルフェが更に火球を飛ばす


「わ、悪かったよ!許してくれよ!」

「やだ!!」

「頼むよ!お願いします!」

「やだやだやだ!!」

「俺達にお慈悲をぉぉぉぉぉぉ!!」

「やぁぁぁぁぁぁだぁぁぁぁぁぁぁ!!」


パルフェの火球は止まらない


「おい!誰か嬢ちゃんを止めろ!」

「いやまて!まずはあの兄ちゃんが先だろ!」

「馬鹿!先に嬢ちゃん止めないと船が沈んで俺達も全滅だろうが!」



パルフェは止まらない、ナオキは浮かんで来ない

逃げ惑う乗客達と沈んだままのナオキは思った


船が次の港に着くのが先か、このまま船が沈んで全滅するのが先か

神様女神様、どうか前者であって下さいと



この惨劇はいつまで続くのか?

この船は無事に港に着くのか?

この先いったいどうなる事やら?


ナオキとパルフェの旅は、始まったばかりでこの始末

はてさてこの先、どうなります事やら...




「絶対許さないんだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

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