第6話:マーレ出発!俺の冒険、こっから本番!
「はぁ~...」
俺は大きくため息をついた
ため息をつくのは仕方がない
なんせあれだけカッコいい事しておいて。そのすぐ後にあんな醜態晒しちまったんだ、無理もねぇよ
それのせいで、せっかく女の子泣かせで下がってたけど、ドランをぶっ飛ばした功績で上がった好感度がまた下がって
皆が俺の事を色々と同情する、不憫な奴扱いでよそよそしくなっちまった
「こんなの、カッコいい勇者でもなんでもない...」
俺はさらにため息をついて落ち込んだ
それに対して...
「...チラッ」
「~♪」
俺をよそに、楽しく食事を取り、幸せそうに料理を頬張るパルフェが俺の向かいに座っている
呑気なもんだぜ、人がへこんでる時によ
俺がパルフェを見てると、パルフェが俺に言う
「どうしたの?食べないの?」
「あ?」
「まぁあれよ、今日は色々な事があって、あんたもわりと頑張ったからね」
「ご褒美にお腹いっぱい食べてね☆」
俺は視線を落とし、自分の前に置かれた料理を見る
小さなパン1つ
切り分けられた肉切れ数枚と少量の果物と野菜
そしてコップ一杯の水
「これをどうやって食ったら腹いっぱいになるんだ!?」
あれだけ激しい事した人間に食わせる様なもんじゃねぇよこれは
「不満?」
「当たり前だろ!」
それに反して、パルフェの前に置かれているのは
ふわふわしていて柔らかそうなパン
食いごたえ抜群そうな分厚いステーキ
色鮮やかに盛られたサラダとカットフルーツ
口の中を癒してくれるだろう甘そうなジュース
月とすっぽん
ドラゴンとトカゲ
イルク様とこのちんちくりん
これぐらいの差だ
「何でお前だけそんな豪華なんだよ!」
「あたしがお金出してるからだけど?」
「...」
何も言い返せない
文無しの俺は文句を言える立場じゃないからだ
「だからってよ、俺だって腹減ってるし...」
「あら、さっきあたしが食べさせてあげた分はもう減らしちゃったの?」
さっきの?あの薬草の事か?
あれで腹が膨れる訳無いだろ、むしろ余計腹減ったわ
ぐきゅうううううううううう
そうこうしていると腹の虫が鳴いた
「あっ...」
「...ぷぷぷっ」
「笑うな!」
顔が赤くなる
こいつと最初に会った時と同じ状況じゃねぇかよ
「まったくしょうがないわね~、はい」
そう言いパルフェは、肉を手頃な大きさに切り、フォークに刺して俺に差し出してきた
「え?」
「ほら、あーんして」
これは
女の子からのあーんだ
夢にまで見たあの、女の子からのあーんだ
元の世界じゃ一度もその機会に恵まれなかった、あの
それが今、俺に起きている
相手はこの生意気なちんちくりんとはいえ、可愛いらしい女の子がしてくれるなんて思わなかった
俺は今、モーレツに、ワクワクが止まらない
「い、いやぁ~、でもちょっと恥ずかしいかな~」
「あっそ、いらないのね」
「要ります要ります!ありがたく頂戴いたします!」
「よく出来ました、はい、あーん」
「あーんっ♥️」
「え、きもっ」
差し出された肉が口に入り、俺は肉を噛み締める
美味い
美味すぎる
ただ焼いただけで味付けしてない肉でも美味かったのに、これは更に美味い
丁度良い焼き加減、塩などの調味料などで程よく味付けされていて、口全体に溢れ出る肉汁
そして何より、それを女の子からあーんして貰えた
こんなの美味いに決まってる
生きてて良かった
「うめぇ~」
「あらナオキちゃん、ママからのご飯はそんなに美味しかった~?」
「うん!すっごく美味しかった!」
少し間を置いてから言った事を後悔した
つい口走ってしまった、しかもそこそこの声量で
「やべっ...」
周囲にバレて無い事を祈ったが、願望に終わった
「あの二人って、そんな仲だったんたな」
「あらあら」
「見せつけてくれるねぇ」
周囲からくすくすと笑われる
恥ずかしくて顔から火が出そうだ
そんな俺にパルフェは
「そんなに美味しかったの~?もっと食べる~?」
と、再度俺に肉を差し出してきた
このやろう、調子乗りやがって
いつか覚えてやがれ
そう思った俺は、再度肉を噛み締めた
「食べるんだ...」
パルフェと周囲の声が重なった
その後、腹の膨れた俺達は宿の2階にある自分達の部屋にやって来た
部屋に着いた俺は疲れから背中を伸ばした
「はぁ~、あっ」
「やーね、親父臭い」
「ほっとけ」
俺は更に腕を回したり、身体をひねった
傷は治ったし、腹は膨れたから気分が良い
そんな俺にパルフェは尋ねる
「身体はもう平気なの?」
「へーきへーき、お前が治してくれたしな」
正確には薬草の束と、それをくれた狐の親子だけどな
「お前の方こそ、怪我はもう良いのか?」
「うん、回復魔法で一発よ」
やっぱ使えたんじゃねぇか
俺にも使ってくれりゃ、あんな地獄見なくて済んだのによ
「でも、あんたのそれは...」
「あ...」
パルフェの指差す方には、机に乗った2つの物、正しくは元は1つだった物
あの親子からもらった木の棒
スライムを倒し、この町にまで来れて
ドランをぶっ倒した木の棒
それが2つに折れてしまっている
「お前が気にする事じゃないだろ、この木の棒だってなんて事のない木の棒なんだし、それがあいつをぶっ倒すまで持ってくれたんだ、それで十分だ」
「でも、あんたの木の棒...エクスカリボーは...」
「やめろ」
このやろう、覚えてやがったな
しかし、困ったな
このままじゃ武器がない
流石に武器がないんじゃこの先どうにもならん、何か武器を手に入れなければ
かといってパルフェにねだるのもなぁ
散々良くしてもらって、食事も食わせてもらって、宿に泊まれて野宿しないで済ませてもらってんだ
これ以上贅沢させて貰う訳にはいかんし、どうするか
俺が困ってると、パルフェがどこかに行こうとしていた
「ん、どこ行くんだ?」
「内緒」
「別に隠す事ないだろ」
「いいから内緒」
どうせまたアクセサリー見たりなんなりとかだろ
「それじゃあママはお出かけしてくるから、良い子にして待ってるのよ~」
「...ママ」
「なぁに~?」
「もうお金盗られたり泣いたりしちゃ駄目だよ」
「もうしないわよ!」
そう言って、顔を赤くしたパルフェは部屋を出ていった
これまでのお返しだ
それからしばらく時間が経ち、パルフェが帰ってきた
「ただいま」
「ああ、お帰りパルフェ」
「ナオキちゃん、良い子にしてた~?」
「...してたよ」
「あら良い子ね~、そんなナオキちゃんにはご褒美あげる」
ご褒美?どうせあれだろ
「ほ~ら、ナオキちゃんの大好きな薬草いっぱい買って来たわよ~☆」
とかだろ
そう思い、パルフェの方を見ると意外な物を持っていた
「お前、それは...」
剣だ
パルフェが持っていたのは剣だった
手頃な大きさで振りやすそうな、シンプルながらも良さそうな剣だ
「どうしたんだよそれ」
「あんたにあげる」
「い、良いのか?」
「冒険するのに武器も持ってなくてどうする気よ、それに今日のあんたは頑張ってくれたし、それのご褒美よ、ありがたく受け取りなさい」
「...それと、ちょっとだけカッコ良かったわよ」
パルフェはつーんとした態度でそっぽを向いている
良く見ると、顔がちょっと赤い
何だよ、可愛い所あるじゃねぇか
「そりゃ良いぜ、サンキューなパルフェ!」
そう言い俺は手を差し出した
しかしパルフェは剣を渡してくれない
「...?」
「ちらっ、ちらっ」
ああ、「アレ」か
パルフェはアレをご所望している
「麗しくて可愛い可愛いパルフェ様、わたくしめに武器を授けていただける等と、なんたるありがたき幸せ」
「謹んでお受け取り致します」
「そうそう、良くできました」
そう言いパルフェは、放って剣を俺に渡した
「おわっと!あぶねぇだろ!もっと優しく渡せよ!」
「あら?返してくるわよ?」
「申し訳ありません、今のご無礼お忘れください」
「よろしい」
ホントに覚えてろよ、こいつ
俺は剣を眺めながらパルフェに聞く
「でもよパルフェ、この剣まぁまぁしたんじゃないのか?」
「あの武器屋の店主さんがね、値段おまけしてくれたのよ」
「マジか」
「それに言ってたわよ」
「あの兄ちゃん色々と大変そうだしな、だからおまけしてやるよ」って」
「...マジか」
ドランをぶっ倒した礼より、俺に対しての同情による値引きだなこりゃ
なんにせよ、武器が手に入ったのは何よりの収穫だ
満足でしょうがない
そう喜ぶ俺に、パルフェが近寄ってきた
「どうした?」
「あと、これもあげる」
そう言い、パルフェが俺の首に何かを掛ける
「何だこりゃ?」
見ると、木製のタグの様な首飾りだ
「もしかしてこれって...」
見ると、机の上にあった木の棒の片方がなくなっている
「アクセサリー屋に持って行って加工して貰ったの、あんたの木の棒...エクスカリボーの片割れ」
「やめろつってんだろ」
まだ擦るかこいつは
よく見ると、何か文字が書いてある
この世界の文字は読めねぇが、大きさや字数的に考えたら「ナオキ」なんだろうな
その横に書いてあるのはわからねぇけど
「わりぃな、色々と貰っちまって」
「べつに良いわよ、気にしなくて」
パルフェはふふんと得意気に鼻を鳴らす
こういう時は可愛いなこいつ
パルフェが小さくあくびをした
「そろそろ寝ない?あたし眠くなってきちゃった」
「あぁそうだな、んじゃそろそろ...」
ふと俺は気が付いた
部屋にあるベッドは1つ
あまり大きくなく、二人で寝れなくは無いぐらいのベッドが1つしかない
そして今、この部屋に居るのは俺とパルフェ、一組の男女
寝るのか?
俺とパルフェが?
出会って一日も経ってない俺達が?
思春期真っ只中の高校生と一応高校生が1つ屋根の下で?
「...ま、マジか...?」
顔が赤くなる
相手はちんちくりんとはいえ、可愛いらしい女の子と1つのベッドで寝る
これはマズイ、かなりマズイ
流石にマズ過ぎる
あーんして貰えただけじゃなく、一緒のベッドで寝るなんて
どうすりゃ良いんだ俺は...
「...」
「ナオキ」
「は、はいっ!」
パルフェが呟いた
まさかこれは
「恥ずかしがらなくて良いのよ、さぁ早く...」
という誘惑か?いっそう顔が赤くなる
い、いかん
俺にはイルク様という決めた存在が
そう思いながらも振り向いた俺に、パルフェが何か布を渡してきた
「何これ?」
「何って、掛けるようのシーツよ?予備用があったから貸してあげる」
「え?」
「流石にカーペットがあるとはいえ、床で寝るのは寒いわよね、だからよ」
「は?」
俺は床で寝るんか?
自分はベッドで寝るくせに?
「何で床で寝なきゃなんねぇんだよ!?」
「宿泊代」
「うっ」
「この宿の宿泊代、誰が出してんの?」
「...パルフェ様でございます」
「でしょ?野宿じゃないだけありがたく思いなさいよ」
その通りだ、言い返せない
早く文無しから脱出して言い返したい
だが俺は食い下がる
「ベッドぐらい良いだろ!一緒に寝させてくれよ!」
「いやぁ~ん、そう言ってパルフェちゃんを襲う気でしょ~?」
「だ、誰が襲うか!?」
「照れちゃって~、でもパルフェちゃんは可愛すぎるから~、そう思っても仕方ないわよね~☆」
「違うって!」
「またまた~」
パルフェは自分の世界に入っている
悔しい
悔し過ぎる
一時でもこいつにお熱を上げた自分が憎くてたまらない
「もういい!寝るぞ!」
俺はパルフェに背を向け、シーツを被って不貞寝した
「もう、照れちゃって☆」
パルフェがくすくす笑う
「...」
俺は目を開け、天井を見つめている
この世界に来て初めての夜が訪れた後に、初めて日が変わり、初めて夜が明ける
それを俺はこれから体験する
まさか俺が異世界に来てこんな事体験するなんてな
未だにあまり実感が湧かない
元の世界じゃ、ただのイケてない高校生だった俺が、ゲームとかでしか知らないファンタジーな異世界にやって来てスライムと戦ったり、チンピラをぶっ倒したり
そして、可愛い女の子と出会って冒険するなんて、夢にも思わなかった
まさかこんな体験出来るとはな
今ん所、退屈なんて微塵も感じてねぇ
だけど、このまま俺は上手くやって行けるんだろうか
このまま勇者としてやって行けるのだろうか
イルク様に相応しい、カッコいい勇者になれるんだろうか
そう心配になる俺の脳裏に、言葉と光景がよきる
「貴方なら絶対になれます、だって貴方は私の愛する勇者ナオキなのですから♥️」
相も変わらず麗しい見た目と甘い声で囁く愛しのイルク様だ
「イルク様!今にこのナオキ!あなた様に相応しい勇者になって見せます!あと俺もあなた様をもちろん愛しております!」
俺はイルク様への敬愛と期待に答える意思と、愛の言葉を発した
その瞬間、俺の頭にまくらが飛んできた
「さっさと寝ろ!」
「申し訳ございません...」
パルフェに手痛い一撃を食らわされ、俺は半ば気絶するように眠りに着いた
「ん、ふぁ~あ」
差し込む日の光と鳥の鳴き声で目を覚ます
もう朝か
「あ~、よく寝た」
正確にはよく寝かされただな、誰かさんの一撃で
そしてその誰かさんは、と
「すぅ...すぅ...」
まだ寝てやがる
いい気なもんだな
パルフェは幸せそうな顔をして、緩んだ口からよだれを垂らして夢の世界を堪能している
「ったく、どんな夢見てんだか...」
「えへへへ...もう食べられないわよ~」
「...マジでこんな寝言言うやついるんだな」
流石は異世界、期待を裏切らないな
「...」
「すぅ...すぅ...」
しかしこいつ
こういう顔をしてる時はホント可愛いな
普段は憎たらしい小悪魔のくせに、こういう時は天使の一言だな
「普段からこうしててくれっての...」
そう言ってパルフェの顔を除きこもうとした時、足元のシーツで足を滑らせてしまった
「っ!?やべっ!」
俺は間一髪パルフェに当たらずに済んだ
倒れ込みそうになった時にとっさに両手を出し、パルフェの顔の横に手をつく
なんとかなった、これでぶつかって起こしたら大目玉確定だからな
だか、今の状況もだいぶマズイ
少年が小柄な女の子を押し倒してるこの場面
客観的に見れば非常にマズイ
こんな場面人に見られでもしたら...
「誰も、誰も来ないでくれよ...」
だが次の瞬間
「ん...?」
パルフェが起きた
起きてしまった、眠り姫もとい眠れる獅子が
「...」
「あ、あはは~...おはようパルフェ...」
言い終わる前にパルフェが叫ぶ
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」
パルフェの叫びが轟く
「ま、待ってくれ!これは誤解なんだ!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
パルフェの叫びが続く
「バカバカっ!バカぁ!!」
「頼む信じて!落ち着いてくれ!」
「馬鹿!最低!変態!」
「うぇぇぇぇぇん!」
ついには泣き出してしまった
昨日とおんなじじゃねぇか
最悪な展開だ
やべぇ、早く泣き止ませないと
「お客様!どうなさいましたか!?」
その時、宿の従業員が扉を開けて駆け込んできた、その後ろには野次馬だろう他の宿泊者達もいる
「げぇっ!?」
俺は見られてしまった、この最悪の光景を
部屋にいるのは一組の男女
しかも片方は年齢よりもだいぶ幼い見た目の少女
その二人がベッドの上にいる
乱れたシーツ
ちょっとはだけた服
おまけに少女は泣いている
これを見て誤解するなと言う方が無理である
「いやあのですねこれはなんと言うかそのですねとにかく誤解でしてねその様な事があろう筈がございません」
俺は早口で言い訳を語る
「...お取り込み中失礼致しました」
俺の言い訳は空しく散った
その後ろにいた他の宿泊者達からも
「こんな朝っぱらから何やってんだか...」
「あらあら...」
「ホント、見せつけてくれるねぇ...」
という呆れの言葉と軽蔑の眼差しが向けられた
静かに閉まるドア
人生最大の絶望を味わう俺
未だ泣き止まないパルフェ
昨日以上の地獄が、マーレの1つ屋根の下で起きた
「...」
「うぇぇぇぇぇん」
泣きたいのはこっちたよ
「大体こんなもんか?」
「そうね、あと買うものは特に無いわね」
俺達は旅に必要な物をあらかた買って、準備を整える
さっきの出来事をなんとか終わらせ、俺達はいざ冒険に備える
「...いってぇ」
あと足りないのは、パルフェからの俺の信用と好感度ぐらいか
俺の頬が赤く腫れている
さっきの出来事は、パルフェからの強烈な一撃で何とか収まった
スライムの体当たりよりも、ドランのパンチよりも、ずっと痛いパルフェからのビンタで
「もう少し手加減してくれても...」
「うるさい」
「はい」
パルフェが冷たい視線を送りながら、低く小さい声で俺に言う
「ほら、さっさと行くわよ変態」
「誰が変態だよ」
「あ?」
「何でもございません」
昨日まではこそ泥、今日からは変態
どんどん勇者から遠退いて行く
俺はどうすりゃ良いんだ
「ほら、これよ」
「これが...」
俺達の目の前にはそこそこ大きな船がある
これが俺達の乗る船の様だ
「これに乗って次の町に行けるわ」
「中心にある大陸のか?」
「ちがうわよ、ここよりは大きな島に行くだけ、この船は流石にそのまま大陸に行けるほど立派じゃないから」
「なるほど」
船を眺めていると、後ろから声が聞こえた
「お兄ちゃん」
振り返ると昨日の少年がいた
「君は昨日の」
「お兄ちゃん達が冒険に出るって宿の人達に聞いて、見送りに来たんだ」
「へー、...宿の人達?」
「うん」
「他は何か聞いた...?」
「...」
「...」
「...何も、その、聞いてませんから...」
少年は顔を赤らめ、顔を反らし合わせようとしない
喋りやがったな
よりにもよって、こんな子供にあんな事を
「...そっか」
俺が言葉に困ってると、後ろの上の方から声がする
「さっさと乗りなさいよ、置いてくわよ?」
振り向くと、既に船に乗り込んだパルフェが言う
「あのやろう、人の苦労も知らないで...」
俺はそう呟き、少年の方に振り返る
「じゃあ俺達、もう行くから」
「うん、お兄ちゃん元気でね」
「そっちもね」
最後に、俺は少年に尋ねた
「そうだ、1つ聞きたい事があったんだ」
「?」
「これなんだけどさ」
俺は少年にあるものを見せた
昨日パルフェが俺にくれた、あの首飾りだ
「これに書かれてる文字なんだけどさ」
「文字?」
「うん、俺さ、その...ちょっと色々と事情あって文字が読めなくてさ、なんて書いてあるのか気になってさ、良かったら教えてくれないか?」
少年に首飾りの文字の所を見せる
少年はその文字をじっと見つめる
「えっと...えっ」
「どうしたの?」
「...言って良いんですか?」
「良いけど?」
「...本当に?」
「うん」
「じゃあ...」
「「ナオキ」世界の美少女パルフェちゃんのダメダメだけど忠実なしもべ☆」
「って書いてあります...」
「...は?」
その時、後ろからくすくすと笑う声が聞こえた
振り向いた先には、ひとしきり笑った後、人差し指で目の下を引っ張り、舌を出してあっかんべーをしながら俺を見下ろすパルフェがいる
「...」
「お、お兄ちゃん?」
「...あのやろう」
「え?」
「あんの腐れちんちくりんがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ひぃっ!?」
怯える少年をよそに、俺は階段を駆け上がる
「パルフェ!!てめぇこのやろう!!」
「いや~ん怖~い☆パルフェちゃん身の危険感じちゃ~う☆」
向かってくる俺から逃げ回るパルフェ
「絶対許さねぇ!制裁受けて反省しやがれ!」
「や~だ☆」
船の上で追いかけっこをする俺達に他の乗客達は
「まったく、あの二人は」
「あらあら」
「仲直りは出来たみたいだな」
馬鹿な事やってる俺達を見て誤解は解けたのか、呆れながらも温かく見守っている
「パルフェ!待ちやがれ!」
「しつこいわねぇ~、いい加減にしないと~...」
「あぁ!?」
「みんな助けて!この変態お兄ちゃんがパルフェに乱暴するの!!」
「馬鹿やめろオイ!!」
「あ、いえ!お止めくださいパルフェ様!」
「やだ☆」
「そこを何とか!」
「や~だ☆」
「わたくしめにお慈悲をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
周囲からの大きな笑い声が響き、船は大海原へと出発する
その船を1人見つめる者がいた
「お兄ちゃん...」
「...」
「その...」
「頑張ってね...色々と...」
宿場町マーレは、平和?であった