第4話:絶対許さねぇ!ナオキ.怒り爆裂!
パルフェの口から衝撃的な事実が伝えられ、俺は耳を疑った
「お金盗られたって...いつ!?」
「さっき気付いた...」
「心辺りは!?」
「ショー見終わってすぐだから、多分その最中...」
マジかよ
まさかこんな事になるなんて...
「何やってんだよお前!?」
俺は声を荒げた
「うっ...怒らないって言ったじゃん...」
「流石にこれはしょうがないだろ!」
「なんだよお前、俺にあれだけ偉そうに言っておいて自分はそのザマかよ!」
「あんたと違ってそこはしっかりしてるだぁ?全然駄目じゃねぇかよ!」
「謝って損しちまったよまったく!」
俺はここぞとばかりにパルフェに強くあたった
さっきまではパルフェへの申し訳なさでいっぱいだったが、今はそんな気持ち吹き飛んだ
「まったく、お前ってホント...!」
ふとパルフェを見ると、身体を小刻みに震わせている
「あ、やべ...」
間違いなく怒ってる
自分のミスとは言え、ここまで言われる筋合いなどパルフェには無いからだ
ましてや自分が散々良くしてやった奴から言われたんだ、怒って当然だろう
だとすれば、この後に来るのは恐らく鉄拳制裁、もしくは最初に俺にやった火球による火炙りか
「わ、わりぃ!言い過ぎたよ!」
俺はパルフェの顔を覗く
だが、俺の目に映ったのは予想外のものだった
普段の小生意気なパルフェからは予想出来なかった光景だ
目を潤わせ、口を緩ませ、鼻をすすり、涙をこぼしそうになっているパルフェの顔がそこにあった
「あっ...!?」
ヤバい、これはヤバい
泣く、絶対泣く、間違いなく泣く
号泣する以外、今のパルフェがする事はないだろう
「パ、パルフェ!?ちょっとまった...!」
そう言い終わる前に、パルフェの泣き声が響く
「うぇぇぇぇぇぇん!!」
パルフェが大声で泣く
普段俺をからかい、自信満々な生意気なパルフェが泣きじゃくる
「怒らないってぇ!言ったじゃなぁぁぁぁぁぁい!」
「い、いや!それは!」
「うそつき!うそつき!!うそつきぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
パルフェが更に泣きじゃくる
「ごめんって!でも、お金盗られたなんて流石にそれは!」
「あたしだって!こんな事になるなんて思わなかったんだからぁぁぁぁぁ!」
パルフェの言い分は正しい
ただ軽い気持ちで出店を回ったり、催しを楽しんでいたら大事な物を盗られるなんて夢にも思わなかっただろう
それも、世間を知らないが故に見聞を広める為に旅に出てきた箱入り娘なんだから、そう思って仕方ない
「うぇぇぇぇぇぇん!!」
パルフェは泣き止まない
「パ、パルフェ!いやパルフェさん!いえパルフェ様!お願いですから泣くのはもうおよしになってください!!」
「その様なお顔ではなく!いつもの可愛らしいお顔をわたくしめにお見せください!可愛い可愛いパルフェ様!」
だがパルフェは泣き止まない
ふと周りを見ると、人集りが出来ている
集まった人々は、泣きじゃくるパルフェを心配そうに見つめる
それ以上に、そのパルフェを泣かした俺へと軽蔑の眼差しが向けられている
「おい見ろよ、あの兄ちゃんあんな小さい子泣かしてるぞ」
「ひどいわ、何があったのかは知らないけど、あそこまでいじめる事ないじゃないね」
「何あれ、サイテー」
「男の風上にも置けねぇな」
そんな声が俺の耳に入る
だが俺は言い返せない、今の俺にはそんな資格ないからだ
「まずい、このままじゃ俺...」
その時、俺に話し掛けてきた者が1人
「おいあんた、一体どうした?」
声の主はあの武器屋の店主だった
「あ、あなたは」
「泣き声が聞こえたから店を開けて見に来たら、人集りが出来ていて、その中心にあんた達がいたから気になったんだ、一体何があったんだ?」
「あーそのこれは、えっと、なんて言えば良いのか...」
俺が言葉に困っていると、店主が言う
「まぁなんだ、ここじゃ人の目があるしうちの店に来いよ、話はそこて聞いてやるから」
救いの手が差し出された
俺は泣きじゃくるパルフェの手を引き、武器屋に向かった
「パルフェ、落ち着いたか?」
「ぐすっ...うん...」
「ホントか?」
「うん...」
「良かった」
パルフェがやっと泣き止んでくれた
これでいつものパルフェに戻ってくれるだろう
「ごめんね」
「え?」
「こんな事になっちゃって、ごめんね」
パルフェから謝罪の言葉が出た
「おまえが謝る事じゃないよ」
「でも...」
「もう気にしてない」
「本当?」
「ホント」
パルフェと仲直りが出来てホッとした
しかし問題はまだ残っている
「それにしても、一体誰がパルフェの金を盗ったんだ...?」
それに対して、店主が話す
「その事なんだがな、1人思い当たる奴がいるんだ」
「え?」
店主が続ける
「この町にはな、ドランって奴がいるんだよ」
「ドラン?」
「あぁ、手癖の悪さで有名なチンピラさ、いつも子分を引き連れて恐喝やら物を壊したりしていた野郎でな、誰がやったか?って聞かれたら間違いなく名前の挙がる奴さ」
「じゃあそいつが...?」
「だがよ、ここ最近はあまり激しい事はしやがらない、せいぜい酒代をツケまくったり物を借りパクし続けたりそんぐらいさ、それで皆もあんま強く言えなくなっちまって困ってんだまったく」
「チンピラドラン、か」
現状パルフェの金を盗ったのはそいつの可能性が一番高い、だがそいつがやったという確たる証拠はない
第一、俺はそいつの顔を知らない
手がかりはそいつが子分を連れているぐらい
パルフェもいつの間にか金を盗られてたんだ、顔がわからなくて当然だ
「くそっ...」
俺がそう呟いた時、1人の男とぶつかった
「おい、痛てぇぞにいちゃん」
「すいません...」
「あ?おめぇ何だその態度!アニキに失礼だろ!?」
「よせよせ、にいちゃんも謝ってんだ、大目に見てやれよ」
見るからに柄の悪そうな男だ
もしかしてコイツがドランか?子分も連れてるし
しかし確証がない
「じゃあなにいちゃん、次からは気ぃ付けるこった」
男達が去っていく
去り際に男達の会話が聞こえた
「しかしまぁ、今日は中々に大量でしたね」
「あぁ、久しぶりに結構な額になったぜ」
「特にあのガキンチョ、見た目によらず中々に持ってましたねぇ」
「...え?」
「あぁ、パッと見身なりは良い方だったしな、どっか良いとこのお嬢様なんだろうな」
「...」
「町に出てきたのは良かったけど、貰っただろう大事な金なくなったからびーびー泣いてんでしょうねぇ今頃」
「それか、パパやママに泣きついてんだろうな、見るからにそんな甘ったれな顔してたしよ」
「まぁ何にしろ、あぁ言う金持ちのガキンチョが一番のカモなんだよなぁ」
「ですねぇ」
男達がゲラゲラ笑っている
間違いない、コイツらだ
「おいあんた」
「あん?何だにいちゃん、何か用か?」
「あんた、ドランって人か?」
「ほう、俺様も有名人になったもんだな、だったらどうした?」
「返せよ」
「あ?」
「パルフェから盗った金、返せよ」
「何だてめぇ、アニキが金盗ったって言いてぇのか?」
子分の男が突っかかって来た
「ずいぶんな言い方してくれるなにいちゃん、証拠はあんのか?」
「さっきあんたらが言ってたろ、子供にしちゃ持ってるだのああ言うのがカモだのって」
「その程度の事で犯人扱いかよ?やられた本人じゃああるめぇし、だいたいそのパルフェって奴がいるんならまだしも
よ」
子分の男が呆れた顔で言う
その言葉に釣られて、パルフェが俺の後ろから出てくる
「っ!」
二人の男達の眉が少し動いた
コイツらで間違いない、確信した
「なんだ、後ろにもう1人いたのか、チビだから気が付かなかったぜ」
「この子に見覚えは?」
「さぁなぁ、そんなガキンチョ見たことねぇや、ちいせぇから視界にも入らねぇだろうしよ」
「そうそう」
嘘だ、さっき眉を少し動かして多少動揺してただろうに
それにさっきから、パルフェの方を見ようともせずにそっぽを向いているじゃないか
俺達が問答していると、人集りが出来ていた
「お、おい、あいつドランじゃねぇか?」
「ホントだ...また何かやらかしたのか?」
悪評で名が知れているためか、住人達がドランに疑いの目を向ける
だが、それ以上に周囲の目が俺に向いている
「ねぇでも、ドランと話してるのってさ...」
「うん、さっきの人よね...」
野次馬の目が、俺に向いている
その野次馬の様子を見ていた子分の男が、俺に向き直って言った
「あん?おめぇ誰かと思ったら、さっき広場でやらかしてた奴じゃねぇかよ」
「っ!!」
痛い所を蒸し返される
「何だ?コイツ何かやらかしたのか?」
「えぇ、さっき広場でそのガキンチョ大泣きさせてましたよ」
しまった、見られていたのか
「なるほど、そうだったのか」
ドランがニヤリと笑う
まずい、弱みを握られた
「おいおいにいちゃん、自分はそこの譲ちゃん泣かしておいて、そのくせ俺達を犯人呼ばわりしてヒーロー気取りかぁ?そりゃ無いんじゃねぇか?」
ドランがしたり顔で俺に言う
「俺達がやったかどうかは事実かどうかは知らねぇが、おめぇが譲ちゃん泣かしたサイテー野郎なのは事実じゃねぇかよ、そうだろみんな!?」
子分の男が周囲の人々に語りかける
人々は何も言わずに黙って俺の方を見やる
「ぐっ...」
俺は歯を食い縛り押し黙った
こいつらの言う通りだ
こいつらがパルフェの金を盗った事実は照明されてない
それに対して、俺が自分を棚にあげてパルフェを責め立て泣かしたのは事実
それを周りの人達が見ていたのも事実だ
証人ならいくらでもいる
「今まで散々他の人達に迷惑かけてたろうに...!」
俺は声を振り絞った
「あぁ?確かに昔はだいぶヤンチャしてたかもしんねぇが、昔の話さ、今はしちゃいねぇよ」
「そうさ、第一よぉ、昔してたから今でもおんなじ様な事してるとは限らねぇし、それが譲ちゃんの金盗った証拠にはならねぇだろ?」
ドラン達が俺に吐き捨てる
悔しいがその通りだ
「いい加減疑うのはよしてくれや、まだ疑うってんなら、さっさと証拠やら証人出してくれよにいちゃん」
「そうそう、出せるもんならなぁ」
ドラン達が俺を笑い飛ばす
何も言い返せない
こんな奴らに何も言い返せない自分が腹ただしい
だがその原因を作ったのは、間違いなく俺自身だ
悔しい、悔し過ぎる
1人の女の子を泣かせて、その事に関して弱みを握られ、こんな奴らに好き勝手言われて何も言い返せないでいる自分が情けない
「ナオキ...」
震えた手でパルフェが俺の服の裾を掴み、心配そうな顔で俺を見つめる
普段の生意気なパルフェには似つかわしくない気弱そうな顔で見ている
こんなか弱い女の子さえも守れやしないのか、俺は
「くそっ...!」
俺が困り果てたその時、1つの声が響いた
「見ました!」
「!?」
「あぁ?何だぁ?」
ふと見ると、1人の子供がいた
小柄で大人しそうな男の子だ
「何だぁこのガキ?何を見たって?」
「そ、その人が、その女の子の財布を盗った所を見ました!」
少年がドランを指差す
「おい坊主、ホントに俺が財布を盗ったって言いたいのか?見間違いじゃあねぇのか?」
ドランが彼に詰め寄る
「ほ、本当です、嘘なんて言ってません...!」
「何で言いきれるんだぁ?」
「だっ、だって、あの財布は女の子が使うような見た目で、あなた達が使うような物じゃないから!」
「おいおい坊主、財布なんてもんは金を仕舞えればそれで良いもんだろ?だったら俺達がどんなもん使ってたっておかしくねぇだろ?」
「そうさ、人の使うもんにケチつけるもんじゃねぇだろうがよ」
ドラン達は彼にそう言い放った
「で、でもあれは!」
「まだ言う気かぁ?」
「だいたいなぁ、ピンク色で動物の絵が刺繍された、緋色の留め具が付いた財布なんて...」
ドランがそう言った時。パルフェが口を開いた
「待って!」
「あん?何だ譲ちゃん」
「何であんたがあたしの財布の見た目知ってんのよ!?」
「あ?あ、あぁ、たまたま店にあったから気に入って...」
「嘘よ!」
パルフェが続けた
「あの財布はね!」
「あたしが旅に出るときに、ママが作ってくれた手作りの財布なんだから!」
「お店に売ってる訳ないのよ!」
パルフェがそう言い終え、少年がドランに言った
「や、やっぱり!」
「やっぱりあなたが財布を盗ったんじゃないですか!」
そう言った少年の胸ぐらをドランが掴む
「おい坊主!さっきから言わせて置けば!」
ドランに対し、近くの青年がドランに食ってかかった
「おい、見苦しいぞてめぇ!」
青年に肩を強く押されたドランがよろける、その時
ドランの胸元から何かが落ちた
あれは...
「あたしの財布!」
パルフェの財布がそこにあった
更に、ドランの胸元から次々と財布が落ちる
「あ、ありゃ俺の財布だ!」
「わたしのも!」
「やっぱりアイツらだったのか!」
人々が次々と声をあげる
これでもうドランは言い逃れ出来ない
これも全て、最初に声をあげてくれたあの男の子のお陰だ
だがドランは食い下がる
「こ、これはな!たまたま落ちていたのを拾ってやっただけさ!後でちゃんと返すつもりだったんだよ!」
「噓つけ!今まで散々酒代やら食事代やらツケまくって返さなかったじゃないか!」
「そうだ!俺達から半ば強引に借りた物だって未だに返さないくせに偉そうにすんな!」
「そうだそうだ!」
人々がドランを責め立てる
「くそが...」
「あ、アニキ...」
狼狽える二人に、パルフェが話し掛ける
「これでもうあんた達は言い逃れ出来ないわね」
「ナオキに言ったわよね?証拠やら証人を出せって、ちゃんとあるじゃない」
「さ、あたしの財布は返して貰うわよ」
パルフェが財布を拾おうとした時、ドランはパルフェを睨んだ
「このガキ...!」
「何よその態度?まだ何か喚くわけ?」
「てめぇのせいでっ!!」
次の瞬間
ドランが、パルフェを叩きやがった
小柄でか弱い女の子を
自分に対して、証拠や証人がある事実を突き付けた女の子を
そして
俺の仲間であるパルフェを
叩きやがった
その時、俺の中の何かが弾けた
「こ、こいつ!女の子に手をあげやがった!?」
「何て野郎だ!」
「最低!」
周囲から非難の声が殺到する
それに対してドランが叫ぶ
「黙れてめぇら!俺様が何しようが勝手だろうが!!」
その瞬間、1つの影がドランに迫る
「パルフェに...」
「あぁ!?」
「何しやがんだてめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ナオキの拳がドランの頬に直撃する
頬に重い一撃を食らったドランは、吹っ飛んだ
「あ、アニキィ!てめぇ!アニキに何しやがんだ!」
そう言う子分に俺は言った
「何しやがんだ、だと?」
「そいつが今さっき言っただろうが」
「俺が何しようが勝手だろ、って」
「だったら」
「俺がそいつに何すんのも勝手じゃねぇのか?」
そう言い放った俺に、起き上がったドランが呟く
「このガキ...ずいぶんな真似してくれるじゃねぇか...」
ずいぶんな真似?
女の子に手をあげる様な奴がどの口でほざいてんだ
「痛ぇか?でもな、お前に叩かれたパルフェはもっと痛い思いしたぞ」
両親に可愛がられ
大切に育てられて
痛い思いなんてろくにした事なんてないだろう女の子にとって、叩かれるなんてどれだけ辛い事か
「久しぶりに、マジで切れちまったぜ...もう謝っても許してやんねぇぞ?」
「なんだ気が合うな、今俺も同じ事考えた所だ、俺達似た者同士だな」
俺はドランを煽った
「調子に乗んなよ...このクソガキがぁぁぁぁぁぁ!!」
ドランが立ち上がり、俺に向かってくる
俺は木の棒を構えドランに振るう
「そんなもんで俺様に勝てると思ってんのかぁ!?」
ドランは木の棒を腕で受け止め、払い除ける
奴の放ったパンチが俺の頬を掠める
流石に分が悪過ぎる
こっちは武器とは言え、何て事のない木の棒を持っただけの高校生
かたや向こうは、素手とは言え俺よりもガタイの良い喧嘩慣れしてるであろチンピラ
どう考えても向こうに軍配があがる
だけど、そんな事関係ない
俺はこいつを許さねぇ
パルフェを傷付けたこいつを、絶対許さねぇ