第3話:マーレ到着!さらば、色々な物たちよ!
「はぁ~...」
俺はため息をつく
「どうしたのよ、ため息なんてついて」
パルフェが首をかしげ俺に訪ねる
「別に...」
「あ~わかった、可愛いパルフェちゃんと一緒に冒険出来てるから緊張してるんでしょ~?」
「あ?」
「でも大丈夫よ、すぐに馴れても~っとパルフェちゃんの可愛さに魅了されちゃうから☆」
ため息の原因はこいつである
俺の最初の仲間であるこのちんちくりん、自己評価の塊パルフェだ
「あーうんそうだよ、可愛いパルフェちゃんに緊張してるよ」
「や~んやっぱり~、パルフェちゃんの可愛さがこわ~い☆」
何でよりによって最初の仲間がこいつなんだか
そうこうしてる間に町に着いた
「ここが宿場町マーレよ」
「ここが...」
ここがマーレか
思ってた以上に結構広いな
人も大勢いて大小様々な色んな船が停まっている
ここなら武器や道具、宿に困る事も無いな
「よし、そうと決まれば早速!」
俺が一歩踏み出そうとした時、パルフェが尋ねた
「何するつもり?」
「何って、武器やら道具の調達とか宿の確保だが?」
「それは良いけどさ、あんたお金持ってるの?」
「あっ...」
そうだ
俺は一文無しだ
金なんて持ってない
スライムを倒した時に手に入るんじゃないかなと期待したが甘かった
「持ってない...」
「でしょ?」
「どうするかな...」
「言っとくけど、あたしの時みたいにこそ泥するなんて考えないでよ?」
「し、しないって」
「どうだか」
パルフェは俺に疑いの目を掛けている
俺はパルフェに聞いた
「そういうお前は?」
「ちゃんと持ってるわよ、旅に出る前にパパとママに貰ったから、どっかの誰かさんと違ってその辺はしっかりしてるのよ」
「悪かったな」
「あのー、ところでパルフェさん?」
「何よ」
「物は相談なんですが、いくらかお金恵んで頂けないかと...」
「はぁ!?ご飯食べさせてあげて、この世界の事を教えてあげて、可愛いあたしと冒険も出来てるのにその上にお金恵んでですって!?なんて強欲なの!?」
なんかデジャブ
「い、いや、そんな事言われても」
「はいはいわかったわよ!じゃあ何かあんたに買ってあげればいいんでしょ!それで満足でしょ!ぷんぷん!」
やっぱりなんかデジャブ
「ほらさっさと行くわよ!」
「ま、待ってくれ」
怒るパルフェを追いかける俺
「色々な店があるなー」
「ここは武器屋とか道具屋とか薬屋とか豊富だからね、大抵の物はここで揃うわよ」
「お前はここ詳しいの?」
「んー、3年前にパパと来て、1年前にママと来たっきりだから今日で3回目、だからあんまし」
「あぁそう...」
ガイドは期待できないな、こりゃ
「とりあえず武器屋辺りに行きたいんだが」
「はいはいわかりまちたよ~、パルフェちゃんママがおもちゃ買ってあげまちゅからね~」
「イラッ」
「色んなのあるなー」
武器屋に来て様々な武器や防具に目移りしまくる
剣、槍、斧、槌、兜、鎧、盾
どれもこれもファンタジー世界ではお馴染みの存在達だ
「どれが良いか...」
パルフェが俺の手をひく
「ん?」
「一応言っとくけど、あんまり高いの選ばないでよ?」
「わかってるよ」
「ホントに?」
「うん」
「あらそうなの~、ナオキちゃんはお利口さんでちゅね~」
「イラッ」
ホント何なんだよこいつ
俺がパルフェと話していると、店主が話掛けてきた
「お客さん、珍しい服装だねぇ」
まぁ珍しいだろうな、トレーナーにスウェットにスリッパ、こんな服装の奴はこの世界に俺ぐらいしかいないだろうしな
「えぇまぁ」
「特にその靴みたいな物、そんな物今まで見たことがない」
そりゃピンク色でうさぎの絵が描かれた、男子高校生が履く様なデザインじゃないスリッパなんて見たことないだろうよ
店主が続ける
「どうだいお客さん、もし良かったらそれを譲ってくれないかい?」
「え?」
「もちろんタダとは言わんさ、このブーツと交換ってのはどうだい?」
店主が出して来たのは、ファンタジー世界お馴染みといった茶色い革製のブーツた、シンブルなデザインながら丈夫そうで履き心地も良さそうだ
「良いんですか?」
「あぁ、そんな珍しい物となら構わないさ」
なんて事の無いスリッパがブーツと交換して貰えた
さらばだ、母の買ってきたうさちゃんスリッパよ
店を出た俺とパルフェ
スリッパよりずっと歩きやすいブーツに心踊らせる俺にパルフェが聞く
「あんたよかったの?ブーツだけで結局武器とか買わなかったけど」
「構わないさ、動きやすくなったからとりあえずそれで、それに俺にはこいつがいるし」
俺は木の棒をパルフェに見せつける
「ずっと思ってたんだけど、あんたのその木の棒なんなの?」
「ふふん、よくぞ聞いてくれたな、何を隠そう、こいつこそが俺をここまで導いてくれた存在なのさ!」
俺はしたり顔でパルフェに自慢し更に続けた
「迫り来るモンスターをなぎ倒し、民を守る偉大なる武器、名付けて」
「高貴なる英雄の聖剣!!」
俺は言った言葉を後悔した
ダサい、ダサすぎる
あまりにもダサい
何がエクスカリボーだよアホらし
口から発した言葉をここまで後悔した事は無いだろう
「ふーん」
そんな俺にパルフェは興味無さそうにつぶやいた
それでいい、それでいいんだパルフェ
こういう時は無駄にリアクションされるのが一番傷付く
そんな俺にパルフェは続ける
「でもまぁ、その棒があるおかげで可愛い可愛いパルフェちゃんと出会えたんだから、あながち間違いじゃないわよね、その」
「エ・ク・ス・カ・リ・ボー☆」
言わなきゃよかった
「...」
「ほらほらそんな顔してないで、もっと色んな物見て回りましょうよ」
「エクスカリボーに導かれし、こそ泥勇者くん☆」
ホント言わなきゃよかった
「わぁ~キレ~イ」
アクセサリー屋で様々なアクセサリー達に目を輝かせるパルフェ
お嬢様だからこういうアクセサリー自体は見慣れてるだろと思ったが、箱入り娘でこういう場所に来て直接見る機会なんてほとんどなかったろうしな
「これ可愛い~、こっちも可愛いな~、あっ、これも良いなぁ~」
「...」
しかしまぁ、こうやって見てる分には、綺麗なアクセサリーに目を輝かせて、楽しそうにしてる年相応の可愛い女の子なんだよな、口さえ開かなきゃ
「はぁ...」
俺がため息をついてパルフェを見つめる
それに気が付いたパルフェは、俺に対して舌を出してウインクしてきた
どうせ
「可愛いパルフェちゃんに見とれちゃった~?可愛すぎてごめ~ん☆」
とか思ってんだろうなコイツは
次に俺達は薬屋にやって来た
赤や青や緑といった、色鮮やかな薬達が並んでいる
「やっぱ回復と言えばこういうのだよな」
やはり回復と言えば、こういった薬による物だろう
飲んだり塗ったりして傷を治す薬の類い
回復手段なら既に持ってはいる、だがその手段が問題だ
なんせそれは薬草だからだ、あのくそまずい薬草だから問題である
回復薬は大抵薬草を煎じた物であろうが、直接食べるよりは遥かにまともだろう
何より咀嚼する必要が無いからだ
その薬草の束を俺は持っている、ポケットの中にそれは入っている
あの親子か善意でくれた物でなければ、さっさとその辺に捨てていたてあろうあの薬草を
「あれはもう体験したくない...」
ふと思い浮かんだ
ここである程度薬を買い込んでおけば、薬草を食わなくても大丈夫という事に
さっきの武器屋で金を使わせなかったから、パルフェもそれに承諾してくれるだろ
「そうと決まれば...」
「パルフェ!」
パルフェが横に居ない
「あれ?」
その時、後ろから声が聞こえた
「何やってんの?早く行くわよ?」
少し開いた扉の向こうから、顔を覗かせたパルフェが言う
しまった、既に会計済ませていやがったかこいつ
「あのー、パルフェさん?俺ちょっと欲しいものが...」
「はいはい、また今度にちまちょうね~、次来た時に買ってあげまちゅからね~」
「イラッ」
「さーてと、次はどこ行こうかしら」
人差し指を口に当て、パルフェが考える
パルフェの荷物的に回復薬は買ってないと見えた、買ったであろう物はさっきのアクセサリー屋で買ったペンダントぐらいかよ
て言うかこいつ、よく考えたらとても冒険するような格好じゃないな
お世辞にも防具とは言えないような服装、最低限の物が入りそうなぐらいなポシェット、そもそもひとり旅して大丈夫なのか?と、不安になるようなちんちくりんな身体
こいつ冒険舐めてんのか?
そう思ったが、この言葉は一瞬にして俺に跳ね返ってきた
トレーナーにスウェット、なんて事のない木の棒にくそまずい薬草の束、まともな物はさっき交換して貰ったばかりの貰い物のブーツぐらい
パルフェからしたら
「あんたにだけは言われたく無いわよ」
と思う存在が俺だ、到底言える立場ではない
「はぁ...」
俺はまたため息をつく
それに気が付いたパルフェは、両手の人差し指を両頬に付け、首をかしげながら俺に向かって微笑んだ
あれは間違いなく
「どうしたの~?可愛いパルフェちゃんでも見て癒されなさいな~☆」
というサインだろうな
俺がそう確信し頷く
それに対してパルフェは、口を緩ませて鼻を膨らませ、したり顔をした
あれは
「あらあら、やっと理解したの~?パルフェちゃんの可愛さを理解出来たなんてえら~い」
という勝手な解釈による顔だろうなと、俺は確信した
ムカつく
少し歩いた俺達は広場にやって来た
人々が集まり、様々な食べ物の屋台が並ぶ憩いの場だ
俺の鼻腔を旨そうな匂い達が刺激する
香ばしく焼かれた肉、色とりどりの野菜が入った暖かそうなスープ、たくさんの果物をあしらったパフェ
どれもこれも美味そうた
俺は生唾を飲み込んで口を緩ませた
それに気付いたのか、パルフェが尋ねる
「何よ、お腹減ったの?」
パルフェが俺を見つめる
「...うん」
「まったく、しょうがないわね~」
そう言い、パルフェが肩をすくめる
多分パルフェは最初に会った時同様、俺に何か食べさせてくれるんだろう
「いやぁ~、悪いなぁパルフェさ~ん」
そう言いパルフェの方に向き直った俺に、パルフェは何かを差し出している
手の平に乗っているそれは、小さな球体だった、パッと見それは飴玉に見えた
「何これ」
「魔法の丸薬よ」
「あぁ、うん、...で?」
「で?って何よ?」
「いやあの、何でこれいきなりくれたの?」
「お腹減ってるっていったから」
「は?」
まさかこれが俺の食事か?
あり得ないだろ、こんなもんで腹が膨れる訳ないだろうがよ
おまけにこれは丸薬、傷を治したりなんなりする為の物だ
どこの世界にそれで腹を満たせる奴が居るってんだよ
「まさかこれが俺の飯じゃないよな?」
「そうよ?」
「はぁ!?馬鹿にしてんのかお前!?」
「ご飯恵んで貰った上にお金頂戴とかたかってきた奴が何言ってんの?」
「...」
何も言い返せない
まったくもってその通りだ
「くぅっ...」
俺は歯を食い縛った
悔しい、悔しすぎる
こんなちんちくりんに何も言い返せないでいる自分が情けない
しかしその原因を作ったのは正真正銘自分自身なのである
「恵んで貰っただけありがたいと思う事ね、それじゃあたしは...」
「どこ行くんだよ?」
「決まってるでしょ、ご飯食べにいくのよ、あたしだってお腹減ってるんだから」
「どっかの誰かさんに食べ物分けてあげたせいでね」
「うっ...」
再度痛い所を突かれた
育ち盛り真っ只中の女の子から食べ物を恵んで貰い、それのせいで腹を空かせてしまわせたんだ、返す言葉もない
「そういう訳だから、じゃ」
パルフェは去っていく
そんな彼女の背中を、俺は黙って見送るしかなかった
「はぁ~...」
俺はベンチに腰掛け、大きくため息をついた
あんだけ言われまくってだいぶ堪えたし、言われても仕方のない自分の情けなさにも堪え、ため息をつくしかなかった
「俺ってホント、情けないなぁ...」
俺は再びため息をついた
女の子の食べ物を横取りしようとしておいてそのくせ恵んで貰い、この世界の事を色々教えて貰い、あまつさえその子にお金を恵んで貰おうとした、情けないったらありゃしない
ここはしっかりと謝るべきだな
そう誓った時、ふと前を見るとパルフェが俺の前にいた
「パルフェ!」
「...」
パルフェはばつの悪そう顔をしている
「パルフェ、その...」
「ごめん!俺が悪かった!」
俺は立ち上がり、パルフェに謝った
「色々と良くしてくれたお前に、調子に乗ってあれこれ言って本当にごめん!」
パルフェはばつの悪そうな顔のまま俺を見ている
許してくれないんだろうな
そうであっても、俺は文句の言える立場じゃないからな
「その、えっと...」
俺が次の言葉に詰まっていたら、パルフェが口を開いた
「ナオキ...」
「どうした!?」
「あたしも...言いたい事あってさ...」
「何だ!?言ってくれ!」
俺はパルフェに詰め寄る、そんな俺にパルフェが続ける
「...怒ったりしない?」
「怒んない!」
「ホントに?」
「いいから言ってみろ!」
「...無いの」
「は?」
「お金が、無いの」
「はぁ?」
「誰かに盗られた...」
「...」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
今日1日で、色々と失い過ぎじゃねぇかな...
色々と