第2話:きみは誰!?運命の出会い、始まる?
「あぁ、やっちまった...」
肩を落とし、トボトボと俺は歩いている
異世界に来て、この世界の事を何もわからないまま狐の親子に出会い、出くわしたスライムと闘い、その親子にこの世界の事を聞かないまま別れて今途方に暮れている
最も重要で基本の事を知らないまま俺は彷徨う
しばらく歩いた俺は、近くの岩に腰掛けた
「こっからどうすりゃ良いんだ...」
これから先の事を考えたら色々と足りない過ぎる
この世界に関する情報、冒険に付き物の武器や防具、食糧や寝床を確保出来る村や町の場所、その他諸々...
色々考えていたら腹が減ってきた
そういや元の世界で最後に食ったのは母親の作ったおにぎりだけで、ここに来てから口にしたのはくそまずい薬草だけ、おまけにはしゃぎ回って更にスライムとの闘い、そりゃ腹も減るわ
「あぁ...腹へった...」
どうするかと思った時、俺の鼻にいい匂いがやって来た
「ん、この匂いは...」
匂い的に何かを焼いている匂いだ、それも何かの動物の肉だろう
俺は釣られる様に匂いの元を辿った
匂いの元を辿った先にあったのは、何がの動物の肉が木で作った肉焼き機によって焼かれている光景だった
「う、美味そうだなぁ...」
俺は生唾を飲み込んだ、なんせ目の前に有るのはファンタジーでお馴染みのいわゆるマンガ肉という存在だ
憧れの存在が目の前にあり、俺はより一層に腹が減る
しかしこの肉は間違いなく誰かのだろう、勝手に食えば泥棒だ
それだけでもアレだが、俺はイルク様に相応しい勇者になる存在だ
そんな事をしちゃイルク様に顔向けできない、だが腹は減る
「どうするかな...」
俺は迷った、勇者としての誉れを守るか、生き物としての生存を取るか
迷った末の結論が出た
食べる
勇者としての誉れも大事だ、しかし死んでしまってはもとも子もない
ここで餓死するぐらいなら、他人の物を横取りになってしまっても生存を選ぶ
イルク様への裏切りになってしまうのは間違いない、だが俺は生きてまたイルク様に会いたい
その為に他人の食い物を取ってでも生き延びる、結局俺は言った事すら守れないカッコ悪い存在でしかない
「イルク様、お許しください...」
肉に手を伸ばした時、俺に向かって何かが飛んできた
赤い球体だ、ボール?いや、あれは...
「火の玉!?」
俺は間一髪で火の玉をかわした
「な、何だぁっ!?」
慌てる俺の耳に声が聞こえた
「あーら、よくかわしたわね」
声からして子ども、それも女の子だ
辺りを見回したら一人の少女が立っていた
一言で言えば、まごう事なき魔女っ子
とんがり帽子をかぶって杖を持った、そんなお決まりな格好をした女の子がいる
「いきなり何すんだよ!」
「それはこっちの台詞よ!あんた、あたしのご飯横取りしようとしたでしょ!」
「うっ」
何も言い返せない、確かに俺はこの子の食べ物を横取りしようとした
腹が減っていたとはいえ、他人の物を、それも自分よりも年下の女の子の物をだ
「そ、それはその...」
「何よ、言い訳?」
「あー、いや、まぁ」
ぐきゅうううううううううう
俺の腹の虫が大きく鳴いた
「あっ...」
「...ぷっ」
「あっははは!」
「笑うな!」
腹の虫の音を聞かれ、大笑いされ顔が赤くなる
ここに来てから子どもにとってカッコ悪い存在でしかないな俺は
「何よ、あんたそんなにお腹減ってたの?」
「~っ!」
くすくすと笑う女の子に俺は顔を赤くしたまま口ごもる
「しょうがないわね~、ほら」
「えっ」
少女はそう言って、肉の一つを俺に差し出す
「い、良いのか?サンキュー!」
俺は肉を受け取ろうとしたが、少女が手を引っ込める
「え?」
「ちょっとちょっと、もっと言い方あるでしょ?」
「は?」
「お腹が空いてるとはいえ、人の物を横取りしようとしたわたくしめに食糧を分けていただけるなんてあなた様のお慈悲に感謝致します、慎んで頂きます、とかでしょ?」
何だこいつ
俺は嫌そうな顔をした
それに対して少女は言う
「何よその顔、じゃあ要らないのね、残念ね~こんな美味しいのに~」
少女は俺を尻目に肉を頬張る
だが俺は強く言えない
未遂に終わったとはいえ、人の物を盗ろうとしたのは事実だ
その俺に対して、この子は食糧を分けてくれるチャンスを与えようとしてくれてるのも事実
「...ください」
「ん?」
「どうかそのお肉を人の物を盗ろうとした情けないわたくしめにお恵みください、お願いいたします」
「ふふん、それで良いのよ、よく出来ました」
少女はしたり顔で肉を差し出して来た
俺は肉を受け取り食べる
美味い
美味すぎる
あこがれのマンガ肉はこんなにも美味かったのか
薬草というゲロマズなもんの後だからかより一層に美味い
「うめぇ、うめぇよ...」
美味すぎて涙が溢れる
「ちょっと、何泣いてんのよ!?」
少女が心配そうに見つめる
「わ、わりぃ」
「...あんた、そんなにお腹空いてたの?」
俺は頷いた
「しょうがないわね、ほら」
少女はもうひとつの肉を差し出す
「い、良いのか?」
「お腹減ってたんでしょ?いいわよ、餓死されても気分悪いし」
俺は再度肉を受け取り食べる
やっぱり美味い
こんな俺に施しを与えてくれるこの子はまさに天使だ
感謝の一言だ
「少しは落ち着いた?」
「あぁ」
腹がいっぱいになって気分が落ち着いた俺に、少女が聞く
「あんたこの辺の人間じゃないわね、どこから来たの?」
「えっ」
2回目のどこから来た?が俺に問われる
どうするか、本当の事を言うか適当に誤魔化すか
しかし、いつまでもこういった問答を続けるのもキリがない
俺は意を決して本当の事を言う事にした
「実は...」
「...つまりあんたは、元の世界で死んじゃった後に女神様が生き返らせてくれて、そのままこの世界にやって来たって事?」
「あぁそうだ、信じて貰えたか?」
「全然」
「えぇっ!?」
「当たり前じゃない、別世界からやって来ただのなんだの簡単に信じて貰えると思ってんの?」
全くもってその通りである
「いやまぁそれはそうなんだけど」
「おまけに人様の食べ物盗もうとしたこそ泥の言う事なんてね」
ホントそうだ、言葉もない
「...」
「まぁでも、この世界の事を知らずに困ってるってのはわかったわ」
少女は俺に対して呆れて言った
「だったらあたしが教えてあげてもいいわよ」
「マジか!頼むわ!」
「ん~?」
「え?」
「な~に?その態度」
「えっ」
「さっきみたいに相応のお願いの仕方あるてしょ~?」
「なっ!?」
「誠意を見せてくれないと、教えてあ~げないっ☆」
さっきの肉の時同様
媚びへつらった態度を所望してくる
「~っ!」
「ほらほら早く~」
「こ・そ・ど・ろ・くん☆」
「お願いします、どうか無知で哀れなわたくしめにご教授の程をよろしくお願いいたします」
「よく出来ました~、えらいえらい」
そう言い俺の頭を撫でる少女
どこが天使だ、完璧に小悪魔だわ
その後、俺はこの世界の事を教えて貰った
この世界はフローリアという名前である事
俺の居る場所は辺境の島ロロンである事
少し行った先に港のある宿場町のマーレがある事
色々と教えて貰ったが、重要な事はこの辺りだろう
「理解した?」
「大体な、ありがとう」
少女は俺に対して話を続けた
「そう言えばあんた、名前は?」
「あ」
そう言えばそうだ、俺達はお互いの名前を知らないまま話こんでいたんだ
もっと早くに言うべき事を忘れていた
「あぁそうだったな、俺は...」
ふと俺はイルク様との問答を思い出した
「ひ、人に名前を聞くときはまず自分から名乗るべきだろ!?」
「こそ泥くんがそんな事言える立場かしら?」
「人に物を言える立場ではないわたくしめの名前は桐島ナオキでございます」
「キリシマナオキ?変わった名前ねぇ」
「ナオキでいいよ、それでお前は?」
「あたしはパルフェ、未来の大賢者であり世界の美少女パルフェちゃんよ!」
何が世界の美少女パルフェちゃんだよ
まぁ可愛いのは否定しないけど
「それでさ、パルフェは何でこんな所にいたんだ?」
「今までずっと箱入り娘として大事に育てられて来ててあんまり外に出た事なくってさ、ほら、あたし可愛いから」
はいはい
「それでパパやママに冒険に出たいってお願いしまくって許可をようやく貰らえたの、16歳になって退屈しない自由の身にやっとなれて、で、その旅の最中にあんたと出会った訳」
「えっ?」
「えっ、て何よ?」
こいつ16歳だったのか
てっきり小学生、よくて中学生ぐらいかと思った
背も顔も性格もだいぶ幼いし
人は見かけによらないもんだ
「な、何よ」
「別に?」
「ふ~ん?」
「...何だよ?」
「あんたの事だからさ~、パルフェちゃんが可愛すぎてメロメロになっちゃったんだと思って~」
「はぁ!?」
「無理も無いわよね~、こんな可愛い女の子と出会えたんだから一目惚れもしょうがないわよね~」
何いってんだこいつ
「別にそんなんじゃねぇよ!?」
「またまた~無理しちゃって~」
なんつー自己評価マックスな奴だ
箱入り娘として育てられて膨張した結果がこれか
こいつの親には同情するぜ
だいたい、俺にはイルク様という心の底から決めた素晴らしい人が居るんだ
何が悲しくてこんなちんちくりん相手にお熱上げなきゃなんないんだよ
「あたしってホント、罪なお・ん・な☆」
こんな見た目じゃなければ今すぐにでもひっぱたいてやる所を、命拾いしたな小娘が
「それであんた、これからどうする訳?」
「そうだな、とりあえずはそのマーレって宿場町に行ってみるよ」
俺は立ち上がり、そう言った
そんな俺にパルフェがこう言った
「ねぇ、もし良かったらあたしと一緒に行かない?」
「え?」
「旅に出たとはいえちょっと心細くてさ、あんたみたいなのでも居れば少しは気が落ち着くし」
「だいたいあんた、そんな服装や装備で旅が出来ると思ってんの?」
確かにそうだ
今の俺はトレーナーにスウェットにスリッパ、手持ちは狐の親子に貰った木の棒と薬草だけ
どう考えても冒険を舐めている
「確かに...」
「でしょ?それに~、可愛いパルフェちゃんが一緒なら旅も毎日が楽しいわよね~」
ホントこいつは
「あー、うんうんそうだな、じゃあこれからよろしくなパルフェ」
「...」
「これからよろしくお願いいたします、可哀想なわたくしめに救いの手を差しのべてくれた麗しきパルフェ様」
「しょうがないわね~そんなに言うなら期待に応えてあげるわよ~、だってパルフェちゃんは見た目も中身も麗しい美少女なんだから~」
俺はあと何回このやり取りを繰り返さなきゃならんのだ
「さぁ、そうと決まれば出発よ!」
パルフェは意気揚々と歩き出す
「はぁ...」
「ほらほら早く、置いてかれても知らないわよ~?」
パルフェは俺を見てくすくす笑う
「どうしてこうなった...」
俺の異世界冒険ライフはこれからどうなってしまうやら
俺は本当にイルク様に相応しい勇者になれるのだろうか?
不安がよぎった時、またまた俺の脳裏に言葉と光景がよぎる
「無理をしないでくださいね、私の大切な勇者ナオキ♥️」
とろけてしまうような優しい微笑みと甘い声で俺にささやくイルク様の姿だ
俺は不安を吹き飛ばし叫ぶ
「大丈夫ですっ!イルク様!期待して待っていてくださいっ!!」
「え、何?きもっ」
パルフェが冷たくささやいた