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第1話:シュバーン!勇者ナオキ、異世界に立つ!

「こ、これは...」


俺の目の前に広がる広大な大地


見たことのない景色、見たことのない動物、見たことのない自然

間違いなくここは異世界

ゲームなどでしか体験したことのないファンタジー世界、それが今、俺の眼前に広がっている


「す...」

「スッゲぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


俺は今モーレツにワクワクが止まらない!

そりゃ当然だ!こんな夢にまで見たファンタジー世界に来たんだからテンションが上がるに決まってる!


すげぇ!すげぇよ異世界!

俺が求めてのはまさしくこれだよ!


「こんな日が来るなんて!ありがとう異世界!ありがとうイルク様!」



俺はテンションが冷めやまぬまま、辺り一帯を跳ね回った




どれくらい経ったかはわからないが、はしゃぎ疲れて近くの木陰に入り、木にもたれ掛かり休んだ


「はーっ、はーっ、」

息を切らし、汗を掻き、瞳を閉じる


「流石にはしゃぎ回り過ぎたか...」

普段体育の授業以外でろくに運動してない癖に、こんないきなりはしゃぎ回れば当然か


「この世界でやってくなら、もっとちゃんと運動やらトレーニングしておくべきだな」

と俺は重要な事を考えたと同時に更に重要な事を思い出した


「あれ、そう言えばこの世界の事何もわからないぞ俺」


そうだ、そうだった

俺はこの世界の事を知らないままやって来たんだ

本来なら女神であるイルク様に聞くべき事だが彼女からは

「百聞は一見にしかず」

と言われたのである


「イルク様、結局教えてくれなかったな」

俺はふと思った

「もしかして最初の方の性格が本性で、俺はまんまと騙されたってのか?」


その時ひとつの言葉と光景が脳裏をよぎる


「期待していますよ、私の愛しい勇者ナオキ♥️」


俺に優しく微笑んで慈愛に満ちた顔で甘く囁くイルク様の姿だ


そうだ、イルク様は愛しい存在である俺に期待してそんな言葉を掛けてくれたんだ、そんなイルク様が俺を騙す筈がない!

なんか記憶に差異が有る気がしないでもないが多分気のせいだろう!



「そうだ、これは俺に偉大な存在になって欲しいからというイルク様からの試練に違いない!少しでもあなたを疑ってしまった俺が恥ずかしい!」




俺は立ち上がってイルク様への感謝と謝罪の言葉を叫んだ



だが、結局の所この世界の事を知らないままで現状は変わらない

どうするかなと思った時、横から声がした


「何か楽しい事でもおありですか?」

「おありですかー」


横を見ると、何やら見たことのない生き物がいた

二本足で立ち、簡素な服を来た狐の様な生き物だ、いわゆる獣人と言う奴だろう

それの親子が俺に話し掛けて来た


「えぇまぁ、色々と」

「そうなんでしたか、それにしてもあなた、ここら辺では見ない様な変わった格好してますね」


言われて気付いたが今の俺はトレーナーにスウェットのズボン、そしてスリッパである

普段ならこの親子の方が奇抜な存在だが、この世界においては明らかに俺の方が浮いた存在であるのは間違いない


「どこから来たのー?」

「えっ」


言葉に詰まった、堂々と異世界から来ましたなんて言ったら怪しく思われるだろうし、黙っていても同じく怪しく思われるだろう


「あー、えっと...」


俺が言葉に困っていたその時、木々の方から音がした

ふと目をやると、そこには緑色のぷにぷにした何かがいた


間違いない、スライムだ

RPGゲームお馴染みの存在であるスライムが俺の前にいる

「うぉっ、マジかよ」


スライムは俺の姿を見てから親子を見てまた俺に目を移し、不思議そうに見つめてくる

やっぱスライムにとっても俺は珍しいんだなって


にじりよって来るスライムを見て俺は思った

「こいつ、どうやって倒すべきだ?」


ゲームなら剣や魔法で倒せば良いが、今の俺は何にも武器を持っていないし、戦闘なんてやった事のないただの高校生だ

どうすりゃ良いんだ?

ふとひとつの考えが浮かんだ


闘うのではなく、歩みよって和解しあい仲間にするという考えだ

ゲームでよくあるモンスターを仲間にして一緒に冒険するという王道展開だ


「よし、そうと決まれば...」


「そんなに警戒しなくても良いんだ、さぁこっちにおいで...」


ドカッ

「ぐぇっ」


スライムの体当たりが俺に当たった


「いって...」


ぷにぷにした体の割には痛い一撃だ

例えるなら子どもがわりと強めに殴ってきたぐらいには痛い


「このやろう...」

歩みよって仲間にする作戦は止めた、絶対ぶっ飛ばす

て言うか身体がもたん


いざスライムと闘おうとするが、本当に俺が勝てるんだろうか?と思う

相手はゲームにおける弱キャラ筆頭とはいえれっきとしたモンスター

それに対しこっちは武器も戦闘の心得もない一般人、どちらに部が有るかと言えば間違いなく向こうだ


「とりあえず一撃入れてみるか...」

俺はスライムに蹴りを入れてみた


ブニュッ

何とも言えない感触が俺の足に伝わった

効いてるのか?これ


俺は不安になったが、スライムは若干顔をしかめている

どうやら多少は効いているようだ


スライムは負けじと俺に再度体当たりを仕掛けて来た

やはり思っているより痛い一撃だ

このままやりあったらほぼ間違いなく俺がやられるだろう


「そういや、親子はどうしたんだろうか」

周りを見たが親子は見当たらない

おそらくはスライムを見て逃げたんだろう


親子を気にしていた隙にまたスライムに体当たりされる

「ぐぅっ...」


ダメージが蓄積されているからか身体が少しよろける

「もう2、3発食らったらまずいな...」


せっかくイルク様に異世界転生させてもらっておいて、ここで死んだら永遠の笑い者だ

しかしこのままじゃまずい


どうすりゃ良いんだと思った時、足元に何かが転がってきた

見れば、振り回すのに丁度良い位の長さと形をした木の棒だった


「これは...」

その時横の方から声がした


「それを使って!」

あの親子だ、逃げたと思っていたがどうやら俺に武器になりそうな物を探してきてくれた様だ

「ありがてぇ!」


俺は木の棒を構え、スライムと再度対峙する

スライムは変わらず体当たりを仕掛けて来た


「いつまでも喰らうかよ!」

振り下ろした木の棒がスライムに直撃、スライムは地面に叩き付けられ、大きくバウンドする

蹴った時よりも顔を大きくしかめている


「よし、この調子なら行ける!」


俺は勝利を確信した、するとスライムは踵を返して俺から逃げるように大きく跳ねた


「ん、諦めたか?」

そう思ったつかの間、俺は気付いた

逃げるんじゃない、標的が変わったんだ


俺に勝てないとわかったから、あの親子を襲う気だ


スライムが親子目掛けて飛び掛かる


「させるかぁっ!!」


スライム目掛けて木の棒を投げつけた

木の棒がスライムの体を貫き、スライムの体が溶けて行く


「やった、やったぞ...」

俺は勝った、モンスターとの闘いに勝利した

ろくに喧嘩もしたことのない俺がモンスターに勝ったんだ



木の棒を拾いあげ、一息ついた所に親子が歩みよって来た


「大丈夫ですか?」

「まぁ何とか、ちょっと数発喰らいましたが」

「それは大変です、よろしければこちらを」


そう言って差し出して来たのは謎の葉っぱ

これはアレだな、薬草って奴だ

体力回復でお馴染みの薬草だ


「じゃあ遠慮なく...」

俺は薬草を食べた


「うげぇっ...」


まずい、とてつもなくまずい

昔興味本位でお茶っ葉をそのまま食った事があったがそれを越えている


「うぅっぷ...」

「だ、大丈夫ですか?」


親狐が心配そうに声を掛け、腹や背中を擦ってくれた

「おにいちゃんかっこわるーい」

子狐がそんな俺を見て言った


「なんて事を言うの!」

親狐が叱る

正直言われても仕方ないと思った


「お兄ちゃんが助けてくれたのを忘れたの!?」

「わすれてないよ、さっきのおにいちゃんすごくかっこよかった」


カッコいいお兄ちゃんか、そんな事言われたのなんて初めてだ

イケてないお兄ちゃんからカッコいいお兄ちゃんになれたって事かな



「でもやくそうたべてきもちわるくなって、ママにおなかとせなかなでてもらってるおにいちゃんかっこわるい」

「だからやめなさい!」


イケてないお兄ちゃん卒業はまだまだ先だなこりゃ




それから少しして、親子とは別れた


「今日はありがとうございました」

「いえいえこちらこそ」


俺はさっきの薬草の束を親狐からもらった

スライムから受けたダメージもさっき食った薬草のおかげで既に治ってるので効果は充分だ


傷やダメージの心配は要らなくなったが、しばらくはこのくそまずい薬草に頼らなければいけないのが課題だな



「それじゃあ私達はこれで...」

「おにいちゃんばいばーい」

「バイバイ」


親子に手を振り、見送った



俺は岩に腰掛けて、戦闘の事を振り返った


「まさか俺がモンスターに勝っちまうなんてな」

親子がくれたこの木の棒のおかげとはいえ

素人の俺がモンスターに勝ったんだ、未だに実感がわかない


俺はふと思った

「そういやイルク様、俺に能力くれたっけ?」


出発前の押し問答の中、何かしらの能力をくれると言っていたがそれらしい能力をもらってない

戦闘中も特にそれらしい能力が発動していなかった

俺は本当に能力を貰ったのか?


「やっぱイルク様、俺の事騙したんじゃ...」

その時、脳裏にまた言葉と光景がよぎった



「頑張って下さい、私の愛する勇者ナオキ♥️」


俺に優しく微笑んで愛する俺への労いの言葉を呟く麗しいイルク様だ


あんな麗しくて優しい微笑みで愛する俺への労いの言葉を掛けてくれるイルク様が俺を騙す筈がない!

俺が能力を発揮出来るほどではない未熟な存在なだけだ!

やっぱり何か差異が有る気がしないでもないがおそらく気のせいだろう!


「イルク様!また麗しいあなた様の事を疑いかけてしまいました!申し訳ありません!」


俺は立ち上がり、イルク様への謝罪を叫んだ

そしてスライムを倒した木の棒を掲げた


「俺は絶対に!あなた様に相応しい勇者になって見せます!」

イルク様への敬愛と忠誠を更に高めた




「いざ、次の場所へと出発だ!」


俺は意気揚々に歩み始めた時、重要な事を思い出した


「......あ」


そう、狐の親子に出会う前に俺自身が発した事である


「この世界の事!まだ何もわかってない!」


更にもうひとつの重要な事を忘れていた 


「あの親子に!!この世界の事聞いときゃ良かったぁっ!!」


今俺がわかっているのは

薬草のまずさと、当分その薬草に頼らなければいけない事である


「やっちまったぁぁぁぁぁぁぁっ!!」






俺がイルク様に相応しい勇者にも、カッコいいお兄ちゃんになるのは当分先である

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