ルームメイトは大忙し♪
瞼の裏側を、寝ぼけ眼でハッキリと意識する。
12月25日の夜という特別な日を主張する、陽気なテレビ特番の音が耳へと届いた。
眼を閉じたまま体の節々に意識をやると、古く錆びついたダイヤルを回す様な、ギシギシとした軋みを感じる。
いい加減ベッドで寝ないとな、と思うが、疲労で移動するのも億劫だ。あたりをまさぐり、手に当たったコートと思われる厚手の布で、体をくるりと包み込む。
そのまま暗闇に身を任せ、テレビは耳だけで楽しむ事にする。
「あーもう、だらしないなぁ」
台所とリビングを繋ぐドアが開く音と共に、香しい匂いが漂ってきた。
コトコトと、テーブルの上に料理が置かれていく気配を感じる。
「そりゃ~仕事はお疲れ様だけどさぁ。ホントは午後休取って買い物付き合ってくれるはずだったんじゃん」
その上、一緒に料理をする約束も守れず、こんな時間である。
テーブルに並ぶ豪勢料理は、2人分の作業を彼女、早苗1人でこなしたものだ。頭が下がる。
早苗には非がまったく無いため、ただただ平謝りする他ないだろう。
「よし許すっ! 今度、新しくできたケーキ屋さんを奢ってくれたらチャラにして進ぜよう」
芝居じみた物言いに胸をなでおろす。
しかし、それはそれとして、一緒に買い物に行かなかったのは本当に良くなかった。
「あー……最近この辺物騒だもんねぇ~。つかアンタも気をつけなさいよ」
ここ数日、通り魔による刺殺事件が立て続けに起こっていた。報道番組は「被害者は漏れなく女性の2人連れである」という点を殊更に取り上げて、世間の注目を集めている。
「変な事件よねぇ。何でわざわざ2人で居るところを狙うのかしら?」
わからない。理屈じゃない、何か内に秘める執着があるのだろう。
「そう考えると、午後一緒に出かけなかったのは正解だったかもね」
いや、一緒に出掛けてさえいれば、早く仕事が片付いたのだが。
「もう着く? りょーかい! 料理が冷めないうちに早く帰ってきてね、玲子」
どうやら、ルームメイトがもうすぐ帰宅するらしい。
仕事の時間である。
ガチャリ、とドアの開く音が聞こえた。
「はいは~い♪」
早苗の足音が、玄関へと向かうのを確認する。
軋む体を壁から起こす。
俺は、ゆっくりと、クローゼットの扉に手をかけた。