表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ルームメイトは大忙し♪

作者: 夢民

 (まぶた)の裏側を、寝ぼけ(まなこ)でハッキリと意識する。

 12月25日の夜という特別な日を主張する、陽気なテレビ特番の音が耳へと届いた。

 眼を閉じたまま体の節々に意識をやると、古く()びついたダイヤルを回す様な、ギシギシとした軋みを感じる。

 いい加減ベッドで寝ないとな、と思うが、疲労で移動するのも億劫だ。あたりをまさぐり、手に当たったコートと思われる厚手の布で、体をくるりと包み込む。

 そのまま暗闇に身を任せ、テレビは耳だけで楽しむ事にする。


「あーもう、だらしないなぁ」


 台所とリビングを繋ぐドアが開く音と共に、香しい匂いが漂ってきた。

 コトコトと、テーブルの上に料理が置かれていく気配を感じる。


「そりゃ~仕事はお疲れ様だけどさぁ。ホントは午後休取って買い物付き合ってくれるはずだったんじゃん」


 その上、一緒に料理をする約束も守れず、こんな時間である。

 テーブルに並ぶ豪勢であろう料理は、2人分の作業を彼女、早苗(さなえ)1人でこなしたものだ。頭が下がる。

 早苗には非がまったく無いため、ただただ平謝りする他ないだろう。


「よし許すっ! 今度、新しくできたケーキ屋さんを奢ってくれたらチャラにして(しん)ぜよう」


 芝居じみた物言いに胸をなでおろす。

 しかし、それはそれとして、一緒に買い物に行かなかったのは本当に良くなかった。


「あー……最近この辺物騒だもんねぇ~。つかアンタも気をつけなさいよ」


 ここ数日、通り魔による刺殺事件が立て続けに起こっていた。報道番組は「被害者は漏れなく女性の2人連れである」という点を殊更に取り上げて、世間の注目を集めている。


「変な事件よねぇ。何でわざわざ2人で居るところを狙うのかしら?」


 わからない。理屈じゃない、何か内に秘める執着があるのだろう。


「そう考えると、午後一緒に出かけなかったのは正解だったかもね」


 いや、一緒に出掛けてさえいれば、早く仕事が片付いたのだが。


「もう着く? りょーかい! 料理が冷めないうちに早く帰ってきてね、玲子(れいこ)


 どうやら、ルームメイトがもうすぐ帰宅するらしい。

 仕事の時間である。

 ガチャリ、とドアの開く音が聞こえた。


「はいは~い♪」


 早苗の足音が、玄関へと向かうのを確認する。


 軋む体を壁から起こす。


 俺は、ゆっくりと、クローゼットの扉に手をかけた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ