吸血鬼
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神谷さんと私は窓口に向かっている途中だ。歩きながら神谷さんは色々説明してくれている。
「今から会うのは予約してくれた怪異だ。基本的には飛び込み歓迎でやっているが、予約してくれれば優先的に相談に乗って、問題解決に取り組むことになっている。そして今から会うのは吸血鬼だ。」
「この現代に吸血鬼・・・ん?今太陽出てますよ?どうやって来るんですかその吸血鬼?」
そう、吸血鬼と言えば太陽、十字架、ニンニク、etc・・・と苦手なものが様々ある。太陽なんて、浴びたら灰になって消えると言われている程致命的な弱点なのに、この春のポカポカ陽気の日にどうやってここまでたどり着くというのだ。
「確かに純血の吸血鬼ならここまで来る間に灰になってしまうだろうな。だけどな、吸血鬼って大昔からいる怪異が純血を保っていられると思うか?しかも眷属を作る方法が血を吸うだけの怪異だ、純血種なんて超貴重なわけ」
「なるほど・・・」
「それにだ、今現在国の管理下にある怪異は何種類かいるが、吸血鬼もその一つだ。そして、その吸血鬼リストの中には純血種はいない。つまり今から会うのは人と吸血鬼のハーフ、もしかしたら吸血鬼成分なんて10%もないかもしれないってことだ」
「となると、ほぼ人間と変わらないってことですか?」
「そうなるな」
そんなプチ知識を身につけ、私と神谷さんは窓口につく。窓口につく直前神谷さんに、とにかく最初はメモをしろ。何かして欲しい時は俺から指示を出す。とだけ言われた。なんとなくだが、余計なことはするなと言われた気分だ。そう捉えるのは、ひねくれているだろうか・・・だが、新人に余計なことをされるのは困るというのは、新人側の立場からしてもわかる。だからこそ、心が痛むというものだ。
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「どうも、おはようございます」
吸血鬼の第一声はそれだった。もっと高貴な感じで来るかなと思っていた私は拍子抜けしてしまった。見た目も普通の痩せ型の中年だ。
「今日はお越しいただきありがとうございます」
神谷さんがお辞儀をする。私もそれにつられて頭を下げる。
「いやーすいませんね、朝早くに予約してしまって。夜になると、吸血鬼性が強くなってしまうので、昼間しかこういうところ来れなくて」
「それは大変ですね、それで今日はどう言ったご相談で?」
「話すと長くなるのですが・・・」
彼の話は本当に長かったので、簡単に要約する。まず吸血鬼の主食である血液だが、勝手に人を襲って吸血されても困るので、国から支給されているそうだ。だが最近になって、その血が本当に不味いらしい・・・血に美味いや、不味いがあるのかとも思ったが、どうやら、血の提供主の生活でだいぶ変わるらしい。最初は偶然おいしくない血液なのかと思ったのだが、提供される血液がここ数カ月ほぼ確実に不味いらしい。そのせいか、吸血鬼は少しやつれて見える。つまり今回の相談内容は、国から提供される血液の味の改善と、不味い理由を突き止めてくれとのことだ。
神谷さんは「承知しました」と言い、書類に名前、住所、電話番号、あとは指定怪異登録番号という項目を書かせていた。
「では、先程伺った、支給血液の味の問題が解決しましたら、連絡するのでよろしくお願いします。期間としては1週間を目安に連絡しますので、よろしくお願いします」
神谷さんがそういうと、吸血鬼は丁寧にお願いしますと、頭を下げ帰って行った。
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