自己紹介
「この部屋が事務所だから、最低限挨拶してから入るくらいはわかるな。じゃあ元気に行こう」
「はい!」
私は扉を開けて元気よく用意していた文言を言い放つ。
「おはようございます!今日からお世話になります桜井真那と申します!よろしくお願いします!」
決まった!完璧にすらすら言えた!そう思いお辞儀していた頭を上げると、そこにはデスクが4つ2つずつ向き合うように並んでた。そしてそのうち奥の二つには、黒縁の丸いメガネをかけている細身の男性と、アイマスクをして寝ている女性が居た。黒縁メガネの男性がP Cから顔を上げて私に微笑んできた。
「そう言えば今日からでしたね。神谷君から色々聞けましたか?」
「はい。色々と」
実際仕事については200字にも満たない説明で終わっているが・・・
「おはようございまーす」
私の後ろから、神谷さんが気怠げに入ってきた。
「ごめんね、神谷君。壊滅的に朝が弱いのに朝から色々任せてしまって。でも良い目覚ましにはなったでしょ」
「尾畑さん、あまり俺に意地悪すると残業変わってあげるのやめますよ」
「ハッハ、コレは耳が痛いことを言われてしまったな。でもまずは、新人の子にしっかりと仕事を教えてくださいね」
「はいはい、わかってますよ。でも実際に見てもらった方が早いと思うからこうやって早々に連れてきてるんじゃないすか」
私はこの二人のやりとりを見て、馴染めるか不安が募ってきた。すでにできているコミュニティに割り込むのは至難の技だ。そんなことをぼんやり考えていたら、神谷さんが私の方をむいて「じゃあ、メンバー紹介から」と言い出した。それに対していつの間にかアイマスクを外していた女性職員が「誰からするの?」と切り込む
「じゃあ、偉い順にいくか」
そう言うと、黒縁メガネの尾畑と呼ばれていた人が立ち上がる。
「それでは私から。尾畑明宏と言います。一応この相談所の所長です。基本的には直属の教育係の神谷君を頼るでしょうが、私もいつでも対応しますので、話かけてください。よろしくお願いします。」
「次、姉さんお願いします」
「はじめまして、新人ちゃん。私は森見灯、コレでも主任ってことになってるはず。普段は尾畑さんとペアで動いているから、何かあったら、尾畑さんにお願いね」
「で、2度目だが俺は神谷雪。実働係だ。この中だと一番若い。つまりまだ未熟だがよろしく頼む」
三人それぞれの自己紹介が終わる。私は名前と特長を軽くメモにとった。
「それで新人ちゃんの名前は?」
灯さんが聞いてきた。
「聞き逃しているの多分姉さんだけですよ」
「え、まじ?」
尾畑さんが笑顔でうなずいてる。どうやらアイマスクをしていただけあって寝てたらしい。私はもう一度名前を名乗った。
「ふーん、桜井真那さんね、わかったわ。まぁ色々話したいけど、私たちコレから、訪問しなきゃいけないとこあるのよね?尾畑さん」
「そうですね。行きますか、あの方は時間に厳しいところもありますし、余裕を持って行動しましょうか」
そう言うと尾畑さんは鞄を持って「また後程」と事務所から出て行ってしまった。その後ろを森見さんがついて行った。
「今のを見て大体わかると思うが、」と神谷さんが二人を見送ると唐突に話しはじめた。私はメモ帳を構え体を向ける。
「ここの相談案件は基本二人のペアで行う。片方が実務要員、もう片方がそのサポートと事務手続きだ。あの二人だと、尾畑さんが事務で、姉さんが実務要員だ。」
「と言うことは、私のペアは・・・」
「新人、察しがいいな。そうだ俺だ」
よろしく頼むと神谷さんは手を差し出してきた「こちらこそ」と私は手を握り返すが、その手はとても冷たかった・・・
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