あたらしい世界
朝になって目を覚ました。普通に俺の寝室で。がやがやと煩いので起きてしまった。紺色の作業着を着た男、身体中ラップを巻いた様に清潔に包まれた白衣の連中、そんなやつしかいない。昨日俺が死んだであろう書斎のデスクに白い線で人型がなぞられている。
ふうん。科捜研のドラマと大体一緒か。
ビーカーに何かをピンセットで落とし込む目の小さな女。白っぽい肌はファンデーションしか塗っていないのか、すっぴんと規則で決められているのか。これか警察の仕事なんだなぁ。気楽な幽霊身分なので顔を近づけて繁々と観察させてもらう。
あちゃーロッカーの出張用のトランクから大人のおもちゃが出てきたよ。(涙)調理器具かなんかと区別が出来ないのか無表情でジップロックへ回収。‥あ〜あ、死ぬって恥ずかしいな、、、
ふらふらとベランダへ出てタバコを火をつけた。当たり前だがライターが擦れない。それに鼻を近づけてもニコチンの香りがしない。幽霊って耳は聞こえるけど鼻は効かないのかあ。一戸建て、築12年の俺の建てた家はブルーシートで覆われて関係者以外立ち入り禁止のシマシマのテープが貼られてる。道路にはマスコミ‥近所の人たち、あっ!おはようございます!右手をあげて挨拶してみた。犬だけがキンキン声で鳴いた。鳴いてくれたというべきかな。
カメラのフラッシュに体がびくっとなる。いやだなーと空を飛んで死んじゃった彼女2の家へ行ってみることにした。
今日は立秋、今年は涼しくなるのが早いなぁ。トンボにぶつかりながら飛行して2号ちゃんのお家へ着いた。家のドアを開ける前に
何か用なの?と睨みをきかせてあの子が立っていた。ドアをすり抜けてお出迎えしてくれたんだな。
いやぁ
行くとこなくて。
斜め左下を睨み少しだけ落ち込んだ目をこちらへ戻すと
彼女は無理に笑いこう言った。
そりゃそうだね。私達は成仏出来ないんだから。
‥低級霊って聞いたことある?もうね、地獄の閻魔様からも相手にされてないの。罰も受けさせてもらえない。特に私は自分で、だから。誰も引き取ってくれないし
もう一生ふらふらこのまま、浮遊し続ける、らしいよ。
え‥それ、なんかやばいじゃん。なんでそんな扱いなわけよ。そこまで悪いことしてないよー。
それが多分低級ってことなんじゃない。秤にも乗れない。なんの重さもない、まあそういう人生を送っちゃって、この先どうするのか思春期の中学生みたいに自分でひたすら踠くの。そういう罰なのよ。
ていうか、おまえ、酷い顔だな。
これね、これは最後の姿なの。私はこんな罰もうけるのよ。つらいでしょ。
(ふうん、俺一応被害者でよかったな。)
全部聞こえてるわよ。だいたい加害者だと思い直しなさいよ。あなたを愛した人を刑務所へ送ったんだから。そんなことじゃこの地獄から抜けれないわよ‥
なんてわわかるんだよ。
反省しているの。毎日考えてばかりいたわ。死んでも。死んだらもうなんの楽しみもない。味も匂いもおしゃれも感触も人の温度も何も感じられない。あんなに好きだったラブホテルの夜ももう何もかも。幸せと呼ばれるもの全て(痛みや刺激も含め)不感症でいろということ。
そして、それは終わりが見えないらしい。