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私は1番の他人です。

 

 心臓をひと突きされた遺体には防御創が見当たらなかったそうです。照明を絞ったデスクでパソコンの画面に本日のニュースは淡々と事実だけを語る。

つまりはホテルに入った被害者はこれから良いことしようと思って気が緩んでおり背後の人間に殺されるとは露とも思わずに死に至ったということか。どれだけ鈍感なんだろう。同じ部屋に入る2人のうち1人は楽しい夢しか見えておらず、もう1人は殺すほどに憎んでいたなんて。少しは気づかないのだろうか。首を捻る。親密な関係だからこそ注意が必要なのだ。相手の考えていることがわからなくなったら終わりだ。そもそも怖いだろう。温度の無いキスに背筋は凍るはずだ。


 ネットのニュースは穏やかでなくよく鈍感な人間は殺される。頭の良い人間は殺しなんてしなさそうだけどキレるやつだからこそ人の気持ちがわからないクズが嫌いなんだらう。警察じゃ無いけどこの背景を深掘りして覗き見したい。残酷なニュースほど裏の背景がおもしろい。深夜に罪深きネットサーフィンは日常の疲れを何故か癒す。効果的だから試してみて欲しい。防御創を残さない殺し方と検索ワードに打ち込むと左手でワイングラスを傾ける。明日俺はもっと美味い酒を飲む予定だった。



 どうやら仕事は終えた様だ。彼女の専用の着信音が部屋に鳴り響く。それと誰かが聞き覚えのある女の泣き声が‥。

おや、隣には娘も立っている。




いつかはパパママに殺されると思ってたよ。


と、憐れみの言葉をかけている。ん?おかしいな、天井の上から見た様な景色に俺はやっと妻に背後からひと突きで殺されたと悟った。痛みを感じるヒマもなかった。あいつはプロの殺し屋みたいだな‥


物騒なネットニュースを検索しかけたパソコンの文字がそのまま自分の姿だなんて警察は笑うだろうか。この男は殺されることを察知していたんでしょうか?いやいやそれなら防御創が残るだろう。そうですね。馬鹿な旦那だったんですなぁ。探偵も雇われていたっていうのに。愛人が2人もいたんですよ。こんな冴えない男に、もったいない。俺の方がちゃんと働くし公務員ですよー笑い声


そんな声は幻聴にしては生々しかった。



 妻は嗚咽をあげて泣いているが次第に気味の悪い声で笑い出した。娘は尚不憫そうにその様子を眺めていた。愛されていた。だから恨まれた。恨みを手放した彼女は全身の力が抜けてやっと軽くなれた。掌からソムリエナイフがコトリと落ちて、あっ!あのナイフは俺がプレゼントしたやつじゃないかと大声を出した。誰も聞こえてないけど。


こんなに悪人なのに痛くも痒くもなく死ねるなんてやっぱ俺ってもってるなーと呟いていたら、いやいやもってないでしょ、これから大変なことになるよと聞いたことある声がした。

彼女1だ。あんた、いまあたしのこと1って言ったね。。そんなやつだったなんて、私馬鹿だったなぁー死ぬんじゃなかったよ。

何?お前死んだの?なんで?

なんでって、あんたと不倫してるのが会社中に怪文書が流れてきちゃって‥真っ赤な血文字で、指で書いてあったって。家にも送られてて、もう行くところもないなぁってね。


自殺しちゃった。


えーっ!


あんたってどこまでも他人事なんだね。本当に馬鹿だったなぁ。でもあのまま生きてたらニュースになったあんたを見た後事情聴取されて暫くはネットニュースの餌食だったんだろうし‥ふぅーっと長いため息を吐く。


足下では警察が来て妻が連行されているところだ。娘が通報したらしい。賢い娘だ。俺に似なくてよかった。


何も考えてないからこうなるのよ。殺意を抱かれるほど愛されていたんだねぇ、、


この後あの子高校生くらいでしょ?どうするのかなぁ。

パパを殺したのがママだなんて。


ひとり娘なんだ‥‥


それはお気の毒に。親切な親類の家へでも行くのかしら。それとも児童養護施設かな?


いや、この家があるだろうし‥


あんたの死に方じゃ生命保険は降りないよ。


頭のいい娘なのにこれから大変だろうね。


‥‥‥たかが親父の不倫如きで


口をつぐんで目を伏せていた。再び目を開けると部屋の中には部外者だらけで俺の関係者は姿を消していた。お隣の喋り過ぎる幽霊も消えている。


俺はこれからどうしたらいいんだ?

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