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2-2

 そうだ。南龍は少年の姿をしているけど、決して油断はできないんだった。元は1万年も生きる超巨大な龍なんだよな。

 でも、俺はなんだか、そんな南龍にも好感が持ててきた。共に生死を賭けた戦いをしているからかな。


 喧騒の激しい店内には、大勢の魚人たちが皆こぞってお酒や食べ物にありついていた。ここ薄屋は皆にとりわけ好まれているみたいだ。老舗だけあって、客と客席は十分過ぎるくらいにある広い店だった。


 俺は何とも言えない美味い団子と饅頭とを食べながら、お茶で喉に優しく流していた。でも、周りと同じく食べているけど、もっぱらいつものように、ここでも気を極度に集中しながら食べていた。

 まだまだ修練をしなくちゃいけないんだ。

 いつだったか。独自で編み出した修練法。これをやると、いざという時に気を開放する場合に有利だ。気が常時体内を充満しているからだ。


 おや? ミンリンが俺たちの席に来た。

 すぐさま東龍はミンリンのお尻を触り、即座に頬や頭を叩かれてしまっている。


「あんたねー! いっつもいっつもー! 懲りないわねー!」


 ミンリンはとても怒っているようだけど、何やら照れてもいる。おや、気を集中していているからわかるんだけど、俺の顔を密かに盗み見ていた。


 外はもう真っ暗だった。けれども、ここ薄屋だけは明るく賑わっていて、その喧騒や仄かな光がそのまま外へと漏れ出していた。


 東龍はこともなく酒を飲んでいた。

 東龍から聞いたんだけど、恋人候補はここ城下町で100人はいるって聞いているし。東龍自身はそれでも少ないんだとも言っていた。あまりやきもちは焼かないんだとも言い。そんな東龍は俺にはあいつがいることを知っているからなんだろう。


「凄い技ね。何て名前の技なの?」

 ミンリンは俺の傍で幻の剣に興味津々のようだ。

「え?! ああ……。幻の剣っていうんだ」

 俺は極度の集中から平常へ戻りお茶と団子を楽しみながら話そうとした。

「へえ……。ねえ、まさかとは思うけれど、その技で水晶宮の竜王と戦ってくれるのよね」

「ああ。そうだけど」

 俺は自分でも落ち着かない態度をしている。気恥ずかしくて、とても嬉しかった。実は褒められ慣れていないんだ。

「やったわー! これで竜宮城も安泰ね。でも、3千年くらい生きてきたけど、本当に初めて見る技よ。海が全部無くなっちゃうんだもんね。あんたおいくつなの? え? 17? その若さで……。ねえ、当然、師匠はいるのよね?」

「はい……ちゃんといますよ」

 ミンリンが盆を珊瑚でできたテーブルに一旦置き俺の隣の席に座ると、東龍がミンリンの肩に勢いよく抱きついた。ミンリンはそれを軽くあしらいながら更に聞いて来た。

「ねえ、どんな人なの。その師匠って? きっと、あなたよりも数段強いのよね」

「ああ。鬼姫さんっていうんだ。当然、俺よりも凄く強いんだよ」


 俺はお茶で口に含んだ団子を押し流して、はにかんだ。

 南龍は黙々と食べていた。

 周りの魚人たちも、きっと俺には麻生がいることを知っているはずだし。でも、そういえば、ここ薄屋にいる女性も辺りを見回してみると、みんな俺を見つめていた。

「へえー」

 俺の顔を覗くミンリンの顔は朱色に染まっていた。


 東龍が言うには、水淼の大龍退治は城下町のどこからも見えたので。あんな凄い大技とあっては、皆の気を引くどころじゃないんだってさ。

 

 夜空に浮かぶ三つの月の中央に、一際大きな流れ星が落ちている。外はもう深夜の深い闇の中だった。薄屋の喧騒は夜通し賑やかで。

 俺も少しは酒を飲みたいなと思った。


 


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