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そうだ! この龍を討とう!
北龍と鬼姫さんの方は、まだ大丈夫だと思うから。俺は西龍と地姫さんの海より遥か西側へ行くことにした。
逃げ惑う人々の合間を走り抜けていると、途中で、人にぶつかってしまった。
「痛ったいわねー! どこへ行こうとしているのよ! この一大事に! みんな避難しているのに! そっちは逆方向よ!」
見ると、金色のチャイナドレスの美しい女性だった。
長身で切れ長の目をした派手な衣装の女性だ。
「すいません! 俺、急いでいます!」
「え、そっちの方角は! あ、あなた武様でしょ!」
女性の声を聞き流して、俺は西へと向かった。
竜宮城の城下町の人々で、武装していない人は避難している人たちだ。
徐々に人がいなくなり、付近のがらんとした出店の暖簾は寂しそうに揺らいでいた。
「ねえ、避雷針って知ってる?」
さっきの女性はまだ俺についてくる。
これだけ急いで走っている俺に追いつくなんて……。
「え! いや、ごめん! 俺、急いでるんだ!」
「あなた武様でしょ。これを持って行って!」
女性から一本の何の変哲もない小枝を持たされた。
北西の砂浜が見えてきた。
竜宮城の城下町の空を腹で覆った数多の龍の頭が見える。
それぞれ海水を飲んでいた。
「じゃ、またね! 武様!」
女性は避難のため竜宮城方面へと向かったようだ。
あんな派手な人には似合わないこの小枝は? 一体なんだろう?
俺はどうしても気になって、走りながら小枝をチラチラと見てしまう。その時また、人にぶつかってしまった。今度は短めの赤い髪のチャイナドレスの女性だ。
城下町はもう過ぎて、砂浜の砂粒が所々に見え隠れする道を走っていた。逃げ惑う人々はもういない。
「うーん……。躱し損ねたわね」
ぶつかった時にドンっという音がしたけど。
妙な感覚だった。ぶつかったようで、ぶつかっていないような感じだ。
「うっ……」
俺は女性に当たってしまった肩を摩った。
少し痛くて腫れているみたいだ。
「私は姉と一緒にクンフーの道場を営んでいるから、ぶつかったことは気にしないでね。ごめんなさい寸でのところで当身をしたの」
当身を瞬間的にしていたなんて、気がつかなかった。
俺の師範の一人。麻生 弥生の父親みたいな人だった。
相手がぶつかる時に、寸でで膝、肘を軽く当てて衝撃を抑えたんだ。
この人は強い。
俺の直観がそう告げている。
「あなた。山門 武でしょ。これを……? あら? もう持ってるの? それじゃあバイバイ! 頑張ってね!」
赤色の髪の女性は竜宮城方面へと走った。




