朝子さんと食べぐるみ
『ガチャ』が大好きな朝子さん。
今回のガチャは「居酒屋メニュー」にチャレンジ。
コンプリートできるでしょうか?
「はぁ、もぉ、なんだってのよ。まったく・・」
仕事を頑張って早10数年。中堅どころのポジションが見えてくると、自分だけ頑張ればいいというのよりどれだけ後輩を伸ばしていけるかも試されるようになる。
「今日締め切りだってあんなに言ったのに」
仕事を頼んだ後輩に書類の提出を促すと「あれ?今日でしたっけ?」とあっけらかんとした返事が返ってきた。
「お前の耳は節穴かー――!」と言いたかったが、そんなことを言ってしまうと違う問題が発生するので、そこは我慢。
「明日の昼までにはよろしくね」となんとか笑顔をつくろって言い、その場を離れる。
離れる背中に「えーっ、俺今日の夜予定あるのになー」とブツブツ言うのが聞こえたが、そんなのは知ったこっちゃない。
(後3秒でもいたら怒りの鉄拳制裁をしたかも・・・)と怒りモードのまま課長の机に向かう。
「すみません。今日は定時で上がらせていただきます」
あまりの迫力に課長も「あぁ、いいよ。最近残業が多かったからね。早く帰ってゆっくりするといいよ」
「そうさせていただきます!」とカバンと上着をつかみ、カツカツとエレベーターホールに行く。
下りのボタンを押し、待っている間にちょっと怒りが治まってきた。
(あんな奴のせいでいつまでも怒ってるなんて損だわ)
エレベーターで下に降り、ビルを出る。
「怒ったら何だかお腹すいちゃったな」と周りを見る。
会社は都心にある為、食べるところには困らない。
「どうしようかしら・・・・。まだ時間早いのよね」と、とりあえず駅の方に向かう。
「そうだ、久しぶりにあそこ行こう。早く帰れる時にしか行けないし」と突然思いだしたかのように足取り軽く歩き出した。
・・・・・・・・・・ついたところは。
「じゃじゃーん。『ガチャガチャセンター』久しぶりだわ」と入口を入る。
「あ、朝子さん。久しぶりですね」と店員のお兄さんが話しかける。
「最近忙しくて夜が遅いのよ。休日も出かける元気が無くてねー。今日は早く上がったから久しぶりに来てみたわ」
「そうなんすね。最近来ないなーって思ってました。いいの入ってますよ」
とお兄さんが勧めてくれたのは『居酒屋メニューのぬいぐるみ』
「朝子さん『食べぐるみ』好きでしたよね」
(ここで言う『食べぐるみ』は食べ物を模したぬいぐるみです)
「かわいいー。よーし、今日はこのコンプリートを狙うぞ」
「はははっ、頑張ってください。小銭の両替はばっちり用意してますから」
とりあえず3000円分両替する。
「えーっと、何があるのかしら。『えだまめ・やきとり・たこわさ・冷ややっこ・ビール・軟骨唐揚げ』王道だわね。負けないわよ」と小銭を入れて、レバーを回す。
『ガチャン』という音がして『コン』とカプセルが落ちてくる。ただの何ともない遊びだが、そこに何が出てくるかの「夢」がある。
「『こんなのもったいない』って人もいるけど、好きなんだからしょうがないのよねー」
「さぁ何かしら」『フフン』と楽し気に開けると「おっ。まずはお通しの枝豆ね」と初めは枝豆だった。カプセルはその場で開けて確認する。開けてみると房が少しけば立った触り心地でちょこっと豆がのぞいている。
「なかなか可愛いじゃない。よし、次ね」とまた『ガチャン』
「今度はビール。わかってるじゃない」とパンパンにふくれたジョッキを思わずフニフニつまむ。
目標はコンプリートなので次々に『ガチャン』と回していく。
出てきたのは
・やきとり・・・ネギの緑と焼き鳥の艶が見事に表現されている。串ももちろんぬいぐるみなので刺さらず安全
・ビール・・・2杯はいくでしょう
・冷ややっこ・・・上に乗ったおかかのフワフワまで見事に再現されている。寒い季節は温奴も有り
・えだまめ・・・箸休めにぴったり
・ビール・・・まだ飲みますか
・軟骨唐揚げ・・ゴロッとした唐揚げが絶妙にくっついていて離れない。カバンにも付けられるぬいぐるみです
「何だか私が吞兵衛みたいだわ・・・・。この『たこわさ』っていうのがでないわねぇ」
何度も頑張ってると、お兄さんが「どうですかー?」とやってきた。
「この『たこわさ』っていうのが出ないのよ。入ってるわよね」と聞いてみる。
「ちょっと待ってくださいね。入ってるはずなんですが、見てみます」とお兄さん。ガパッと開けて確認してくれる。
「取りにくいかもしれないですが、入ってますね。頑張ります?」
「ここまで来たら取れるまでやるわ。ありがとう」
「じゃあ、あっちにいるんで何か困ったら呼んでください」
「さぁ、どっちが根負けするかしらね」と腕まくりをする。
『ガチャン』と回して何回目だろうか、『コロン』と出てきたものに赤紫っぽい色が見えた。
「出た!?」と慌ててカプセルを開ける。
出てきたのは小ぶりの青い小鉢に入った赤紫のタコわさ。
「やったぁー」と思わず両手を挙げてしまった。
それを聞いて、奥の方から「出ましたー?」とお兄さん。
「えぇ、やっと出たわ。これでコンプリートよー」と返事をする。
カバンから溢れそうなくらいになってしまったので、持ち歩いているエコバックに入れる。
「何だかスーパーの帰りみたい」
中身は枝豆に冷ややっこ焼き鳥にビール・・・・確かに買い物帰りのようだ。
店員のお兄さんに声をかけて店を出る。
会社は早く出たはずなのに街は夜の賑わいをみせ、もういい時間だ。
「私も飲みたくなっちゃった」
フニフニの食べぐるみを抱えて、「一人なんですけど、空いてますかー?」と暖簾をくぐる朝子さんでした。
また別のガチャネタを書いても面白いかなと思ってます。
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