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1話 経費削減のために、聖女はリストラされました

「聖女イデアよ、もう祈らなくとも良くなった」

「一体どういうことですか陛下? 国の結界はもういらないということですか?」

「そういうことだ。永きに渡り、ご苦労さんであった」


 新米国王のロブリー=ブラークメリル陛下は、当然のことのような表情で私の任務を解任させてきた。

 今まで歴代の聖女が国中に結界を張っていたからこそ、危険なモンスターの侵入を防いできていた。

 その結果、国が荒らされることもなく地道に発展していたのだが……。


「結界を解いたことがモンスターにバレでもしたら、せっかく発展させてきた街が大変なことになるかもしれませんよ」


 私は、ロブリー陛下の考えを改めてもらえるように必死になって訴えた。

 ただでさえ、ロブリー陛下は部下や大臣の話や提案すら全く耳にしないことで有名だ。

 それでも大事なことなので真剣な顔をして言った。

 案の定、ロブリー陛下の顔色がどんどんと険しくなっていく。


「そんなことを言って、イデアもしょせん金目当てだったのか?」

「はい?」

「イデアの結界の力は当然私も理解はしている。だからこそ、年俸として国からの報酬を授けてはいた。だが、国として結界が必要もなくなったのに国の金を使うわけにはいかぬ。そんなところに経費などもったいない……」


 この世界じゃ結界は必要不可欠だと思っている。

 どの国でも聖女が結界を張ったり、それがダメでも騎士団の結成などを強化したりして、対モンスター対策は欠かせない。


「つまり、ロブリー陛下は今後は結界なしで国を発展させようとお考えなのですか?」

「もちろんだ。私が国王になったからには、ありとあらゆる無駄な経費を削除し、より豊かな国にしてみせようぞ。そもそも、結界をなくしてもモンスターが襲ってくるとはとても思えん。

 だからこそ聖女の力など経費として使うわけにはいかぬのだ。それとも、これからはタダで結界を張ってくれるのかね?」


 私にも生活がある。

 聖女としての年俸だって、一般的な民衆が毎日働いて稼ぐ額よりも少ない。

 しかも聖なる力を限界まで国中に発動しているため、他に仕事をするほど体力が残っていないのだ。


 頼みの綱のわずかな年俸で、毎日少しばかりの食事で体力を回復させてきたのに、それがなくなったら結界すら存続させることができなくなってしまうだろう。


「安心したまえ。今回の私の政策において、経費削減するのはイデアだけではない」


 それを聞いた瞬間、嫌な予感がした。

 私だけリストラのような状態になったわけではないのかもしれない。


「警備兵も今までのようにこんなに必要ない。九割は減らす」

「そもそも警備などボランティアのようなものだ。残った警備兵の報酬も八割カットする」

「そうそう、道路も今後は民衆たちに任せることにした。国からは一切の経費を出さぬ」


 私の胃が痛くなってきた。

 私はそこまで国のお金の使い方に詳しいわけではないが、ロブリー陛下の公言には賛同できなかった。

 むしろ、今すぐにでも国から逃げたくなってしまうくらい、今後のブラークメリル王国が心配になってしまう。

 前国王陛下さえ事故で亡くなっていなければ……。


「今まで国のために尽くしてきたイデアのために一つチャンスを与えよう」

「なんですか……?」

「キミの特技は所詮、祈ることだけだろう? 隣国では、聖女を喉から手が出るほど欲しがっていると聞いた。もしもイデアが望むのならば、早急に手配をするが」


 ロブリー陛下はニヤニヤしながらそう提案してきた。

 お金に執着しすぎているロブリー陛下のことだから、すでにその話が出ていたのだろう。


「つまり、私が隣国に移民することで……」

「我が国に大量の金が入ってくるのだよっ! 全くもってバカなホワイトラブリー王国よ。イデアを時期にリストラさせることを話した瞬間、目の色を変えて国に迎え入れたいようなことをお願いしてきたのだよ。その報酬はなんと、王金貨五十枚だぞ!?」

「ごじゅう!?」


 王金貨とは、ほとんど国規模の貿易でしか使われることもないほど価値が高い。

 一枚で民衆の生涯賃金に該当するほどの価値だ。

 それを五十枚も払うなんて、国が傾いてしまってもおかしくはない。

 いや、確実に傾く。


「つまり、すでに私はホワイトラブリー王国へ移民することが決まっていたということですね?」

「おいおい、まるで金の欲しさにイデアを売ったみたいな言い方をしないでくれたまえ。私だって、隣国のことを想って譲ることにしたのだよ」


 いや、金目当てだろ。

 これ以上文句を言うつもりはないし、もう勝手にしてほしい。

 それに遠回しに祈らなくて良いとか言わずに、素直に最初から隣国へ行って欲しいと頼んでくれれば良いのに。


「同意するのならば、特別に移動するための馬と、最低限の食料は経費で用意しよう」

「……わかりました。ホワイトラブリー王国へ行くことにします」


 どちらにしても、この国の将来が危険だということは目に見えてわかる。

 この国の民衆も、すぐに気がついてホワイトラブリー王国や他の隣国に逃げるような気はする。


 だったら、私は聖女として活動できそうな場所へ避難した方が得策かもしれない。


「決まりだ。ところで、今日まで働いてもらった分は移動経費や手続きの関係で報酬は払わないこととする。これも節約のためであるからな」

「……はい。わかりました」


 ドケチな陛下に文句を言っても体力の無駄だろう。

 何万回文句を言っても、陛下が首を縦に振ることはないのだから。


「明日、早速向かってもらう。イデアには最後の仕事として、頼みたいことがある」

「なんでしょうか?」

「ホワイトラブリー王国に着き次第、向こうの陛下と会ってもらうわけだが、その際に取引の王金貨五十枚を早急に送らせるように催促をしてもらいたい」


 そんな大事なことを伝えるのは、国の者を使って手紙を届けたり大使を間に入れるんじゃないのか?

 私が疑問になっていると、まるで私の頭が悪いかのような見下し顔をしながらため息を吐いてきた。


「経費削減に協力してくれたまえ」

「王金貨五十枚も手に入るのにですか?」

「なにもわかっておらんな。金はあればあるほど余裕が生まれてくるものなのだよ。もっと金を集め、余裕のある国にしたいのだ。ま、貧乏聖女のイデアにはわからぬだろうが……」


 年俸が少なすぎるから貧乏なんですけどとは言わないでおく。

 どうせ、私はここの国の人間でなくなるわけだし。


 さっさと国を出て、ホワイトラブリー王国で新しい人生を歩む。

 今まで社畜の如く聖なる力を限界まで使い続けてきて、他になにもすることができなかった。

 これで少しは楽になれるかもしれない。


 さて、念のために私は残りわずかな財産を全て持って、食料を買いに行くことにした。

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