今、おばあちゃん探しています。
ショートショートです。
結末に驚き、呆れてください。
朝6時、いつも通りの時間に起きてしまった。
今日は日曜日だっていうのに。
特に予定はないし、とりあえず顔を洗って、歯磨きをする。
朝ごはんは、まあ適当に。
市販のミネラルウォーターをコップに入れ、電子レンジにかける。コップはもちろん耐熱グラス。500Wで3分。
その間にトイレに行く。
戻ってきて、少し経った頃…。
ピピピピッピピピピッ
電子レンジからコップを取り出して少し冷ます。
次に丸いロールパンを1つ袋から出し、何もつけずにかぶりつく。バターのいい香りが口の中に広がる。
50℃ぐらいになったところで白湯を飲む。体がぽかぽかする。
別にダイエットとか便秘解消とかではない。何となく、白湯が体にいいって聞いたから。
ぼーっとしていて何分経っただろうか。
おばあちゃんに顔見せとくか。
おばあちゃんは私が住んでいる家の隣の建物に住んでいる。母屋っていうのかな。そんな感じの建物。
おじいちゃんは早くに死んでしまったらしい。
ここ最近仕事が忙しくて顔を見れていなかった。
サンダルを履き、勝手口のドアを開けて外に出る。
家の敷地を出ずとも、おばあちゃん家には行ける。庭からつながる通路を進み、おばあちゃん家の勝手口を開ける。
「おはよー、おばあちゃん久しぶりに顔見に来たよ」
返事はない。
サンダルを脱ぎ、リビングに足を進める。
リビングの大きめの座椅子に目を向ける。
おばあちゃんはいない。
いつも大体ここに座っているのに。
「どこ行っているんだろう。探してみるか」
その時。
ニャッ、ニャッ
「えっ猫?」
なんと座椅子には猫がいた。
オレンジがかっていて、さらに濃いオレンジの縞模様がある。暖色系でぬくもりを感じる猫だ。鼻筋が通っていてスッとした顔立ち。猫には詳しくないから種類は分からない。大きさ的には大人猫かな。
ニャーン
つぶらな瞳でこちらを見ている。
「どうしようか」
とりあえず、抱きかかえてみた。正しい抱き方は分からないけど、右手でお尻を支えて左手で胸の後ろを支えてみる。
そんなにモフモフしていないんだな。毛は短めなのか。
ニャオォ
喜んでくれているのかな。また目が合う。こんな至近距離で見られたら思わずにやけてしまう。
抱きかかえたまま外に出る。
「ごめんな。うちペットの世話できる余裕ないんだよ」
その猫をそっと下ろす。
「バイバイ、元気でな」
おばあちゃん家に戻ろうとした時。
アオーン、アオーン
さっきとはまるで違う鳴き声で鳴いている。何か訴えかけているのだろうか。
アオーン、アオーン
「はいはい、なになに?」
もう一度、抱きかかえた。
ニャオォ、ニャオォ
安心したようだ。
ニャオ、ニャーオ
「ん、なんだって」
鳴くことしかできない猫に問いかける。
あ・み・も・の
えっ。そう伝わってきた気がする。確信ではないけど、そんな気がした。
猫を抱きかかえたまま商店街に出る。ダークグレーのルームウェアに白のサンダルで。
商店街の1番端の建物で週に3回、編み物教室が開かれる。小さな町だから編み物教室はここだけ。
建物1階のレンタルスペース。おばあちゃんと同じぐらいの歳の人が数人集まっている。1人30代ぐらいのお姉さんもいる。たぶん先生だろう。
猫はぴょんっと私の腕の中から飛び出した。てくてく進んでいき、椅子に飛び乗る。
あの椅子おかしいぞ。脚が長すぎないか。人が座ると明らかに机とのバランスが合わない。この場所にそぐわない椅子だ。
さらに驚いたことに、猫が慣れた手つきで編み物の準備をする。思わず目を丸くしてしまう。
「こんにちは。お連れの方ですか?どうぞおかけ下さい。」
編み物の先生が声をかけてくれた。猫の座っている椅子の横にもうひとつ椅子を用意してくれたらしい。
「あ、ありがとうございます」
人が座る用の椅子であることを確認して腰を掛ける。
編み物教室が始まると、もう驚きの連続。
猫は器用に編み物を編んでいく。
編んでいるのはニット帽だろうか。いや、そんなことどうだっていい。
猫でしょ。指あるの?指はあるか。いや、あるかじゃなくて!おかしいでしょ!みんな普通に編み物してらっしゃいますけど。
心の中で何回つっこんだことか。
どれぐらい経ったのか、編み物教室が終わろうとしている。
「はい、お疲れ様でした。皆さん今日もいい作品ができましたね。次回は火曜日です。次からは何日かに分けて大きな作品を作っていきましょうかね」
先生がそう言うと片付けが始まる。
猫は躑躅色の可愛らしいニット帽を被りながら片付けをしている。その光景をもう見慣れたと言ったら嘘になる。私はまだ戸惑っていた。
猫を再び抱きかかえると外に出る。
「お前、すごいなあ。よしよし。次はどこ行くんだい?」
猫の耳の付け根を人差し指で撫でながら聞いた。
ニャーオ、ニャオ、ニャーオ
す・い・み・ん・ぐ
間違えない。スイミング。そう伝わってきた。
驚きを隠せないまま、かさやまスイミングスクールにやってきた。駅前にあるプール施設。この町のプールと言えばここだ。子どもからシニアまで誰もが通うことができる。
施設の中に入ると、猫は腕の中から飛び出し、受付カウンターの方へ向かう。受付カウンターの横にある機械にカードのようなものを差し込んだ。スタッフから鍵をもらうと猫は奥へ進んでいった。
入口付近で突っ立っていると、スタッフが声をかけてきた。
「お客様どうかなさいましたか?」
「あっいや、水泳教室の付き添いに…」
「左様でございましたか。2階に見学スペースがございますので、ぜひご利用ください。よろしければご案内致します」
「あっ、大丈夫です。場所は分かります。ありがとうございます」
スタッフは一礼をして去っていった。
私は小学生の時、ここに通っていたのだ。すぐに辞めてしまったけれど。
階段で2階に上がり、少し進むと向かって右に見学スペースがある。変わってないな。1階のプールからここにいる親に向かってよく手を振っていたことを思い出す。
しばらくするとシニア向けの教室が始まる。
若い男のインストラクターを前にして数人が準備運動をしている。参加者は全員60代以上だろうか。1列目の右から2番目にいるあの猫を除いて。
猫は後ろ足で立つと、前足をバンザイさせて伸びをしている。猫の伸びといえば、前足を伸ばし、お尻を突き上げ、背中を反らすあのポーズではないのか。
準備運動が終わると、みんなプールの中に入っていく。水中ウォーキングが始まった。胸を張り、骨盤から前に出ることを意識する。インストラクターがそう教えていた。そうなると、目が行くのは1番端のレーンにいるあの猫だ。そのレーンは水深15cm。乳児、幼児用のレーンだ。ここのプールは設備がいいと町では有名なのだ。
猫は前足で水面を掻きながらゆっくりと歩いていく。外に搔く時に胸を突きだし、澄ました顔で何往復もする。猫って水が嫌いなんじゃ…。もう驚くというより思考が停止してしまうぐらいに呆れていた。
「はぁ」
私は目を細め首を横にかしげていた。
教室が終わると、階段を降りて1階の受付カウンターの近くに向かった。なんかどっと疲れていた。頭をすごく使ったような気がする。
椅子に腰を掛けて少し休む。そういえば、朝ごはん以降何も食べていない。
目を閉じ、休んでいると。
ニャーン
目を開けるとあの猫がお座りして、こちらを見つめている。
「お疲れ様」
私は当たり前のようにそう言うと、三度猫を抱きかかえ、ある場所に進んだ。
歩いて、約10分。
向かったのはNPO法人キャット倶楽部。
猫の里親が見つかるまで面倒をみてくれる場所だ。
愛情を持って育てられ、これまでに数十匹の里親が見つかっていると聞く。
担当の人に猫を預ける。野良猫に近いとうまく説明すると本来の寄付金より安くで引き取ってくれた。
アオーン、アオーン
猫は朝の玄関先と同じような鳴き声で鳴いていた。
「バイバイ」
もう疲れていた私は躊躇いなく建物を出た。
戻ってきた私は、フラフラになりながらおばあちゃん家の玄関を開けてこう言った。
「おばあちゃん探さないと」
あなたは大事なものを見落としていませんか?