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 実は、この世界を冒険するのに、ペプが危険な目に遭わないかと憂慮していた。元は家猫なので外の世界に慣れていない。それどころか、ここにはゾンビや獣という外敵もいる。セーフハウスが手に入ったことで、かなり気が楽になった。


 ただ、小屋に照明がなくて真っ暗なので、猫でも可哀想だろう。猫は夜目が利くと言っても、完全に真っ暗では何も見えない。ろうそくかカンテラでも買ってくるか。基本的にはペプは外に出してあげる。どこでもいっしょだ。


 だいぶ日が傾いてきた。俺は一度街へ行った。目当ては鎧と雑貨屋と夕飯。


 日が暮れる前に街についた。雑貨屋に入り、ランタンと油、念のためロウソクも買った。あとは目についたあると便利そうな生活雑貨を少々。


 次に家具屋で、手頃な箱とサイドテーブル、枕を買う。ソファが欲しいが、めっちゃ高い。まあ、テレビも本もないし、いいだろう。


 そして武具屋に入った。レザーアーマーを買った。ほとんど選択肢がない。レザーアーマーに関しては一種類だ。これも服と同じくズボンがない。腰から下は急所と腿をガードするようになってる。色は赤茶色だ。黒が欲しい。だぼだぼのローブの上には装備できないので、おまたがスースーするシャツに着替えて試着した。サイズ合わせしてもらったので俺にぴったりフィットだ。


 それとヘルメットを買った。こちらは金属製だ。革鎧と合わない、確かに。しかし頭は大事だ。スタイルも大事っちゃあ大事だが。


 そして革の靴。サンダルじゃ戦えない。足首までのショートブーツを買った。


 武具屋のあとは、広場の露店で食料を買い増しした。広場から一番近い居酒屋に入り、一番奥の空いてる席に座った。


「オヤジ、酒とメシをくれ。あと猫にもメシと水を」


 タメ口きいてやったぜ。元の世界では現代社会との摩擦を防ぐために常に敬語を使ってた。この世界じゃそんなこと知るか。トラブったらセーフハウスに隠れればいいんだ。なんて思ってみたり。ちょっと気が大きくなってるのかびびりなのかわからないが、このキャラで通そう。


 酒と言って出てきた酒はエールってやつだった。久しぶりの酒のような気がするが、この世界に来てまだ二日目。それに昨日は二日酔いだった。エールじゃ二日酔いになるほど酔えない。スコッチが欲しいが、蒸留酒ならなんでもいいか。オヤジに聞いてみると、俺の知らない名前の蒸留酒ならあるという。名前は聞いたがよく覚えられなかった。一杯頼んで味見がてら飲んでみるとなかなかいける。ただし悪酔いしそうな味だ。寝酒にしたいので瓶かなんかで売ってくれないか? と聞いたら、入れ物を持ってくれば量り売りしてくれるというので、先ほど雑貨屋で買ったデキャンタに入れてもらった。


 ゆっくりメシを食い、ちびちびやりながら他の酔客の会話に聞き耳を立ててみる。

「王都じゃ今は〜が流行ってるんだってよ」「ここにゃ関係ない話だな」

「北の方じゃ魔物が増えてるって話だ」「それこの前も聞いたな」

「…伯爵は何か企んでる。家来をヨーギ近くで見たって噂だ」

「今年は凶作らしい」「また盗賊が増えるな」

「修道院のシスターがまた……」「王都の酒場のねーちゃんが……」

「港町じゃ魚が……」


——うーむ、召喚とか勇者とか魔王とか魔法とかの噂はないな……


 メシを食い終わってだいぶ酔ってきたので、店を出ることにする。全然いい情報がなかった。かといって、俺から話しかけて聞くほど勇気がない。俺はシャイで人見知りなのだ。それに出自も言えないし、うっかり変なことをしゃべって怪しまれたりしたくない。知りたいことはたくさんあるのに、どう聞けばいいのかわからない。


 とりあえず今日のところは休むことにする。実のところ、突然の新しいことだらけでかなり疲れている。酔ったせいか気が抜けてどっと疲れがでてきた。


 俺は居酒屋の裏手で、ペプを抱いてストレージハウスへ入った。真っ暗の中、火種を頼りにランタンを灯す。雑貨屋で買った木箱を部屋の隅に置いて砂を入れると、我慢していたのかペプが走って行って、砂を掘り掘りしたあとに用を足して、また砂を掛けた。俺はペプのために皿に水を入れて床に置いた。


 中部屋にベッドが置いてあるが、人が殺されてゾンビになったベッドなので使う気がしない。ひょいと、まさにひょいといった感じでベッドをストレージの別のポケットに移す。こういうこともできるのか。ポケット間でアイテムの移動ができる。そのうえ、小屋全体が俺の頭の中のポケットに入っているので、離れていても部屋の中のアイテムを自由自在に出し入れできる。あー、これが元の世界だったらなあ、テレビのリモコンに手が届かないときもさっと引き寄せられたのに……。


 考えてみたら俺の頭の中のストレージに俺が入ってる、その俺の頭の中にストレージに俺が…… どうなっているのかさっぱりわからない。やっちゃいけないことをやってるんだろうか?


 わけわからないので寝ることにする。キャンプのマットを敷いて枕を出して、横になったらペプが顔を舐め始めたが、俺はすぐに眠りについた。



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