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キャンプ

 街はずれにキャンプに適した場所があった。すでに誰かがキャンプしてた跡がある。焚き火用の石も組んであった。旅人が宿代を浮かせるためにここで寝泊まりしたんだろうか? それとも俺と同じようにペットお断りと言われて泣く泣くここに泊まったんだろうか? ペットを連れてるやつは見かけなかったが。


「ここでいっか、ペプ」

「ナア」


 甲高い声でペプが答える。まあ、言葉は通じてないと思うが……。


 皿に生魚、ボウルに水を入れてペプにあげる。


 日が暮れる前にキャンプを設置した。


 歩きながら、落ちてる木の枝や枯れ草など、燃えそうなものをストレージに集めてきた。かがんで手で拾わなくても近づくだけで集められるのは便利すぎる。焚き火跡に木の枝をそれらしく組み、枯れ草に雑貨屋で買った火打ち石で火をつけ、息を吹きかけて炎を上げる。初めての経験だがあっさりうまくいった。しかし、雨風があったら無理だよなあ。


 ペプは少し離れて、おとなしく座ってる。怖がるかと思ったが大丈夫そうだ。昔、ペプがうろたえていることがあった。見ると眉毛が焦げて短くなっている。どうも、炊いていたアロマキャンドルに顔を近づけたらしい。多分、眉毛が炎をだして燃えたんじゃないかと思う。猫がうろたえてるのを見たのはその一回きりだ。かわいそうなことをした。


「なあペプ、この燃えてる木の枝って、ストレージに入るかな?」


 燃えている枝を一本、ストレージに入れてみる。入った。頭の中に燃えてる木のイメージがある。出してみると、元通り燃えている。すぐ燃え尽きそうな枯れ草の束に火をつけてストレージに入れてみる。入る。一呼吸置いて出してみる。すぐ燃え尽きた。


「ペプ、もしかしてストレージの中は時間が止まってるのか?」


 時間を止めるか止めないかは、モノによって変えられるらしい。試しに頭の中の燃えてる木の枝に動けを命令してみると、すぐに火が消えた。酸素がないからか。もう一回火をつけ、空気と一緒にストレージに入れ、動けと命令したら燃え続けた。そのうち燃え尽きて炭になった。


 俺は木を燃やし、ストレージに入れるという作業を繰り返した。雑貨屋で買ったたいまつも火をつけてストレージに入れておく。火種は充分に仕込めたものの、今後のことを考えると燃やすものが足りない。薪を買ってくるか。自分で作るのはちょっと厳しいよな……。


 少し離れたところをスコップで穴を掘って、ストレージから出した砂で満たす。ペプのトイレだ。砂には小石が混ざってる。


「ペプ、砂浜の砂を集めたいな。海にビーチあるかな? ビーチで海を眺めながら過ごしたいな。海水浴もしたい。海辺に小屋を建てて住もうか」


 俺が夢を語ってる最中に、ペプはトイレに行って用を足した。砂をざっくざっく掘り返して穴の中の砂は半分くらいになった。


 俺は敷物を敷いて寝る準備をする。ペプが寄ってきたので腕の中に入れてやる。顎をザリザリ舐め始めた。


——街の近くじゃなくて森でキャンプしたいけど、モンスターとか出るんだろうか? 普通に狼とか猪とかは出るのかも知れない。


 この世界の魔法ってやつ知りたい。街では誰も使ってなかったみたいだけど。


 俺を召喚したやつ、なんか目的があって召喚したんだよな。やっぱ魔王征伐? 俺は全然勇者タイプじゃないけど。この世界にはモンスターがいるのかな? ここにも来るんだろうか? セーフハウスが欲しいな。っていうかとりあえず家?


 いろいろ考えてしまって眠れなくなったが、少し考えるのをやめたら、疲労感からかすぐに眠りについた。



  ◇◇◇◇◇



 俺にしては珍しくパッと目が覚めた。無事だ。辺りを確認するが、何かがいた形跡はない。日が昇っている。そっちが東かな? ここが北半球なのかも、地球なのかもわからないが。夜中に逃げてしまうんじゃないかとか、散歩に行って迷子になってしまうんじゃないかと心配してたペプは、少し離れたところに丸まって寝ている。安心した。俺が目を覚ましたのに気づくと、トテトテと寄ってきて顎を舐め始めた。


 舐められながら、ペプに生魚と水をあげる。生魚は腐った様子はない。買った時と同じく瑞々しい。


「おはようペプ」


 昨夜は晩飯を食べ忘れた。ストレージからジャーキーを出して囓る。固いパンをなんとか引きちぎってひとかけらを水で胃に流し込む。


——火種はあっても、毎日毎回、火をおこして料理するってめんどくさくてやってられないな。出来立ての料理をストレージに入れておけばいいか。怪しまれずに大量に作ってもらうには……


 ストレージについてはなんとなくわかってきた。無限なのか有限なのか不明だが、大量の土砂や岩や木を入れてあるから余裕はある。もっといろ入れて限界を確認したい。


 次に俺はストレージから、ギョロ目の死体の首にめり込んでる剣だけイメージして取り出すと、血が付いてない剣が現れた。ストレージ便利すぎる。じっくり見てみると、両刃で真っ直ぐ伸びた直剣だ。ショートソードってやつだろうか? ロングソードは馬上戦闘が出来る長さのものと聞いたことがある。この剣はそこまで長くはないが、そこそこ長い。


 あとは、鎧が欲しいな。ギョロ目が着ているのは着る気がしない。できれば新品がいい。サイズも合わせないと。街で売ってるかな?


 剣とか鎧とか使い方もわからないし持ち歩きたくもないけど、ギョロ目がそういう格好をしてたってことは、そういう世界なんだろうな。いまさら剣の修行とかは年齢的にどうかと思うけど、備えはしておかないと。


 当面の問題は、やっぱ寝床だな。いきなり家とは言わないから、せめて洞窟チックな寝床が欲しい。あとは薪が足りない。木はそこら中に生えているが、薪にするのはキツいな。筋トレ代わりにやってみようか。とりあえず斧を買ってくるか。


 数年前まではランニングしたりジムに通ったりして、将来は健康なジジイになるんだと息巻いてた。しかし、健康になるための運動を続けるうちに膝が痛み出し、医者に見せてもわからんと言われ(運動不足だと言われた!)、馬鹿らしくなってやめた。


 とは言っても、この世界じゃ電車もバスもタクシーもなさそうだ。身体動かさないと生活できそうにない。


 とりあえず、ぶらぶら散歩しながら情報収集してみようか。



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