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 ペプの上半身を左肩に乗せ、下半身を左腕で支えて歩く。道すがら、土砂や石や落ちてる枝をストレージに入れながら歩く。ストレージの限界を知るためだ。今のところ限界は見えない。


 ストレージには、身体から一~二歩の範囲の物体を吸い込める。手を触れたり何かの技名を叫んだりしなくても出し入れできる。だいぶ慣れてきた。


 大きな岩をストレージに入れた時、疲労感のようなものを感じた。大きさによって負担がかかるらしい。もしかしたら魔力、MPみたいなものを消費しているのかも知れない。


 ペプが俺の肩から飛び降りて、砂が溜まったところを見つけて、前足で掘り掘りして、用を足した。


 三十分ほど歩くと、川沿いに並行して走る街道に出た。そこから三時間ほどで街に到着した。


 街道の右の方に農村が見えたんだが、遠くに教会の十字架が見えたのでまっすぐこっちへ来た。丘の上の教会を中心に街が広がっているようだ。


 尖った石や木の枝を踏まないようにストレージに吸い込みながら歩いてきたが、めちゃめちゃ足が痛い。履いているのは革のサンダルで、底はペラペラだ。足底だけでなく、サンダルの紐がこすれて全体的に痛い。


 なにはともあれメシだ。俺は手近な店に入った。席に座って店主に話しかけた。小太りで口髭を蓄えたおじさんだ。


「すいません、この店のおすすめはなんですか?」

「今日はパンとニシンのスープだよ」

「それをください。猫にもご飯をもらえますか? あと水も」

「ニシンの切り身でいいかい?」

「それをお願いします」


 うっかり店の名前を見ないで入ってきた。SNSに料理写真をアップするにも店の名前がわからないってのをよくやる。こじんまりとした店だが、飲食店ではなく宿屋のようだ。受付カウンターがあり、その横に二階へ上る階段がある。


 海の魚が生で食べられるってことは港が近いのかな。それとも魔法で冷凍して輸送しているとか。解凍はどうするんだろ? マイクロウェーブを出す魔法とかあるのかな……。いや、普通に自然解凍すればいいか。


 いろいろ情報を集めたいが、俺のことは聞かれたくない。もしかしたら、召喚したのに逃げられたとか、ギョロ目を殺したのがばれたとかで、魔法ギルドから指名手配されてるかも。もし聞かれたら偽名を使った方がいいか。猫を連れて歩いてるって特徴で一発でバレそうだが……。


 しばらくすると注文したものがでてきた。美味い。俺は店主に聞いてみる。


「今日、一泊できますか?」

「部屋は空いているけど、家畜は部屋に入れられないよ」


——マジか。泊まるところがない!


 俺は銅貨三枚を払い、ごちそうさまと言って店を出た。馬小屋に泊まらせてくれと頼んでもよかったが、それは最終手段な気がする。しかし、ペプと一緒じゃどこの宿も泊まらせてもらえないかも知れない。かと言って離れるわけにはいかない。元々家猫だし、誰か悪者に攫われてしまうかも知れない。


 あとは餌問題だ。保存食はもれなく塩が満載だから、猫に食べさせるわけにはいかない。日持ちはしなくなるが塩を使わない干し肉や干物、または生肉、生魚が要る。


 思案を巡らせながら街を、活気がありそうな方へ歩いて行く。すると、雑貨屋と思われる店の中にあるものを発見した。テントだ。


——キャンプ生活、始めるか。


 俺はテントと敷物、支柱になる棒とスコップを買った。ついでに鍋やフライパンやフォーク、スプーン、皿など、必要そうなものをまとめて買った。金貨一枚を出すと銀貨十二枚のお釣りがきた。同じく買ったリュックに入れて持ち運ぶ。


 どうせストレージに入れてしまうんだが、人前でストレージに入れるところを見せない方がよさそうだ。何しろこの能力って、盗み放題……。


 次に服屋を探して入った。おまたがスースーするのがどうしても気になる。探してみたがズボンはなかった。下着のパンツはあった。仕方ないので、足元まで丈があるローブっぽい服を買った。深緑の、魔法使いが着てそうな、フードがついてるやつだ。思ったより薄手だ。今着てるシャツは死んだ人間のものなので、新品になって気持ち悪さが消えた。念のため二着買った。あとは下着と、ローブの下に着るおまたがスースーする服の新品と、端布や手ぬぐいっぽい布などをあるだけ買った。


 薄々気づいていたんだ。この世界にはたぶん便所紙がない。多分草の葉とか、ヤバい菌だらけの木の棒とかそういうのを使うんだろう。テレビで見たことがある。勘弁だ。俺はコストが高くついてもいいから布を使う。あと、水洗便所もない。ボットン便所だとして、バキュームする何かなんてないだろう、どういうシステムで運用されているか、今は知りたくない。こういうところに便利な魔法があったらいいが……。


 服屋を出て道を真っ直ぐ進み、噴水のある広場に着いた。噴水を囲むように露天商が並んでいる。食べ物ばかりだ。そこそこ賑わっている。あらかわいい猫ねー、と声をかけられる。俺はここでとにかくいろんな日持ちしそうな食べ物と、生魚と、フルーツと塩を一袋、食用油を一瓶買って、雑貨屋で買った肩掛け鞄に入れる振りをしてストレージに入れた。


——さて、当面のライフラインは確保した。あとは今日の寝床を探そうか。


 さっきまでいた川の近くの森がキャンプに適しているが、魔法ギルドにはなるべく近づきたくない。水は大量に確保したので川じゃなくてもいいか。


 俺は街と農村の間あたりを目指して進むことにした。建物の陰に入って誰にも見られてないのを確認して、リュックの中身をストレージに入れ、代わりに予備のローブと布を詰める。テントの支柱を杖代わりにして歩いて行った。



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