ファイアボール
目が覚めて、朝のルーチンをこなしてから、盗賊の根城を探しに行った。詳しい場所を聞いていたのですぐ分かった。と言っても夜中じゃ暗くて見つけられそうにはなかったが。夜討ち朝駆けと言うから、早朝でもいいだろ。ペプは最初からお留守番。
場所がすぐ分かったのにはもう一つ理由がある。見張りが立ってた。いや、寝てた。遠くからマジックアローでサクッとやっつけたかったが、盗賊じゃなかったら困る。念のため近付いてどんな奴か確認したら、昨日、馬車を襲って逃げたやつだった。
すぐ近くまで来ても起きないとは、ダメなやつだ。額に向けてマジックアローを発射した。
——バチッ
当たったけど、刺さらず消えた。あれ? 盗賊は起きた。もう三発撃った。
——バチバチバチッ
「いてえ!」
やっぱ刺さらない。俺は軽くパニックになったが、盗賊が騒ぎ出す前におとなしくさせなきゃ。頭に矢を撃ったら刺さって静かになった。死体をストレージに入れた。今のを聞いて誰か出てくるかも知れないので、少し離れたところに身を隠した。
なんでマジックアローが効かないんだろ? ジャイアントとかリッチとかには効いたのに。もしかして、モンスターにしか効かない? 魔法生物と関係ありそうだ。今度誰かに聞いてみよう。
さて、歩哨は一人だけ、あとの連中は洞窟の中で寝てるのかな? 洞窟は入り口から地下に向かって伸びている。ここから海水を流しこめば全員溺れてミッションコンプリートだ。しかし万が一、一般人がいたらダメだ。地道にやるか。
俺は洞窟を下っていった。
最初の広間——便宜上、部屋と呼ぼう——は、八畳くらいの広さがあり、かがり火の前に人が二人立っていた。何か、小声で話しているのは、他の連中が眠っていることに配慮してるのだろうか。
さて、こいつらは、またはこの人たちは、盗賊なのかどうなのか。どうやって確かめようか。短刀を腰に挿してはいるが。
……考えたけど、話しかけるしかないか。前の盗賊の時みたいに陽動をしたいけど、寝てるやつらが起きてくると厄介だ。
「よう、この間は世話になったな」
声を抑えて、仕返しに来ました感を出してみた。こいつらのことは知らないけど。二人とも短刀に手をかけたのでビンゴ。矢で額の真ん中を貫いた。死体をストレージに入れて、先へ行く。
この先の通路は水平に伸びていた。音を立てないように進むと、広い部屋があり、盗賊が雑魚寝していた。二十人。奥に通路が見える。偉いやつは奥の別の部屋にいるんだろうな。この部屋の連中は全員似たような革鎧を装備した男だ。
どうしようかと思ったけど、一人ずつ顔を見ながらやる事にした。男は状況的に問答無用でも問題なさそうだが、女性がいたら微妙だ。それは敵か味方か確認しないと。
結果として、全員、悪者顔の男だった。顔が怖いやつでも寝てる時は天使のようだ、みたいな何かを聞いたことがあるが、違った。一人一人顔を確認し、矢を刺し、吸い込んだ。
全員片付け終わって、フウと一息ついたら、奥から男が出てきて見つかった。ここまでサイレントキルできたのに。ゲームなら直前のセーブデータをロードしてるところだ。
矢で仕留めようとしたら、奥に駆け込んで騒ぎ出しやがった。そして斧を持って帰ってきた。もう一人出てきた。そいつは剣と盾を持っている。
「俺の仲間をどこにやった!?」
そうか、それは気が付かなかった。二十人の仲間が消えたら奇妙だよな。俺は最初から全員消すつもりだったけど。どうだろ、死体になってるとは想像つかないよな。片付ける労力がとんでもない。普通は。生きてるまま外に連行したって考えるのが普通かな。まさか敵は俺一人とか、言っても信じないだろう。港の連中が人を集めて襲ってきた、そう思うだろう。
なんて事を頭の中で考えたけど、口には出せないし、出したら声が震えてるのがバレる。声どころか手もさっきから震えてる。二十人の三人目あたりから震えてるんだ……。
さらに輪をかけて、でかい両手斧がめっちゃ怖いし、斧が血で汚れてるのも怖いし、顔も怖いし。さっき、二十人を矢で仕留めながら、これじゃ簡単すぎるから起きてる奴がいたら飛び道具禁止縛りでやっつけようって決めてた。自分自身に課題を課し、それを克服することによって俺自身の成長を促す。天才と呼ばれた人間はみんなそうしてた。知らないけど。
そういう訳で飛び道具は禁止、だけど、怖すぎるので……。
——ファイアボール!
サッカーのゴールポストくらいの大きな炎が起こり、爆発で斧のやつはもちろん、ちょっと離れたとこにいた剣と盾のやつも火だるまになった。俺も吹っ飛んだ。
——え? え?
離れたとこにいなければ俺もやばかったじゃん。右手以外。
今までこんなに威力なかったのに……あ、リッチのファイアボール……あれ、もし食らってたら即死だったかも……こええええ!
事実、斧のやつは即死。剣と盾のやつはあがいてたので、武士の情けで剣でトドメをさしてやった。
なんか、怖くなってきた。とにかく終わらせよう。俺は先に進んで、もう誰もいないよな、って確認しようとしたら……いた。ボスっぼいやつが一人、行き止まりの奥の部屋で待ち構えてた。瞳は青く、鋭い目、ブロンドの巻き毛の短髪、頬にヤクザのような傷、兜は着けてないが、胸当てはプレートと革を合わせて効率よく急所を守るタイプ、腰から下も同じだろうか。ロングソードを両手で持っている。こんな狭いところで。
「てめえ何者だ? 人間か? すげえな、俺の手下が全滅かよ」
不思議と震えが止まった。こういうタイプは何か、必殺技を隠してる。前世界での俺の豊富なフィクションの経験で知ってる。おそらくあのロングソード、しかしこの場合は先入観は捨てたほうがいい。
先手必勝。
——ディスアーム!
——ブラインド!
剣を首に刺し、仕留めた。
何を隠し玉にしてたかは分からなかった。興味はあったがこれで正解だったと自分に言い聞かせる。好奇心が暴れ始めると抑えられない。そのせいで元の世界ではいろんな買い物をした。インターネットが普及してからは、モノを買う前に俺に合うかどうか判断できる情報が入手できるようになったので、だいぶマシになった。代わりにそれまで全く知らなかった興味をそそるものの情報も知らないうちに入ってきて、好奇心をそそるようになった。どっこいどっこいか。
ボスの部屋を見回して見ると、壁に松明が二つかけてあり、床に宝箱が一つ、棚には日用品が並んでいた。テーブルと樽が六つ、武具類、そして物陰に半裸の女性が二人、縮こまって震えていた。
「安心しろ。助けに来た」
優しい嘘を言った。
——危なかったー、全員溺れさせようとしてたー
ワンピースタイプの村人の服と松明を与えた。部屋の外に連れ出し、俺は部屋の中の物と死体を丸ごとストレージに入れてから、二人を洞窟の外に連れて行った。
「帰れるか?」
二人は首を横に振った。
「港に行けば帰れるか?」
首を縦に振った。仕方ない、面倒見るか。
街道まで歩いて行くが、二人は靴がない。裸足だ。ストレージの盗賊の死体から適当にサンダルを与えた。無いよりいいだろ。
街道に着いたら、タイミングよく行商人の馬車が通りかかった。止めると、馬に頬ずりされた。交渉して、銀貨二枚で二人を港町まで乗せていってもらうことにした。
俺は、ペプを連れて、再び海岸へ出て砂と海水を吸い込んだ。水も砂も単純に質量として武器になる。ダンジョンを砂で埋めたら簡単に世界を救えるかも知れない。いくらあっても足りないくらいだ。
それにしても、俺のストレージの中って、土砂、大木、岩、盗賊の死体、モンスターの死体、スケルトン、食料、砂、水、おれんち……。
海岸を港の方へ、砂を吸い込みながら歩いて行ったら、そのうち港に着いた。
港の役所では、助かった女性を囲んで何やら騒いでる。みんな喜んでるのでトラブルじゃないんだろう。そこに俺が現れると英雄扱いされるかも知れないが、死体と物資がごっそり消えた件とか説明できないよな。
——二十数人の死体、全部持ってます、今まで殺したやつの死体、全部持ち歩いてます。
すっげえやべえ奴。こっそり帰ろう。ローブも着替えておこう。
死体は、なんか、いまだに捨てられないし埋葬するのもめんどくさいしでそのままにしてる。
乗合馬車が行ってしまっていたので、王都に向かう商人の馬車に、お金を払って乗せてもらった。さて、帰ろう。欲しかった物はゲットできたけど、俺が望んでたビーチじゃなかった。
でもいつか、いろいろうまく行ったら、きっと美しい海の島とかあるはずだから。




