天国?
目が覚めると日がほぼ真上にいた。どのくらい眠ったのかわからない。ペプが俺の腹の上で丸くなっている。俺が目覚めたのに気付くと、起き上がって顎をザリザリ舐め始めた。
それにしても、なんだったんだろう。夢ではなさそうだ。やっぱ天国なのかな。天国に来てまで膝の痛みが消えないってないよな。天国に詳しくないけど。それとも地獄? いや、そもそも俺、信仰ないから。信仰ないから地獄行きなのかな?
ちょっと落ち着いてみようか。昨日は飲み会でべろんべろんになって、解散して、確かに帰宅した記憶がある。
そっから、幼女に会った……?
確か神様だとか死んだとか転生とか言ってたっけ。そのあとなぜか牢屋で目覚めて、魔術師ギルドって言ってたっけ、そんでギョロ目に連れ出されて、あの事件だよな。俺はあいつの名前も知らない。最初から殺すつもりだったのか。しかしなんで?
うーん、情報が少なすぎて理由は思いつかない気がする。それよりその先だ。間違いなく死ぬところだった、あの目潰しがなければ。誰がやったんだ? 他に誰かいたのか?
死体も消えた。ゲームか。そうかゲームの中か! ……って、ゲームにペプはいないよな。
うーん、なんか、死体、持ってる気がする。持ってるってなんだ? 動かそうとしたらあんなに重かったのに。でも持ってるな。頭の中にある?
試しに出そうと思ってみた。すると、俺の隣に死体が現れた。首に剣がめり込んだままだ。切り口から地面に血が流れる。
――うお!
…………。言葉が出ない。人が死んでるの初めて見た。っていうか出てきた。どういうことだ?
俺はしばらく死体を眺めていた。動く気配はない。もう一度、頭の中に戻そうとしてみる。死体が消えて、頭の中に入った。
――いったいどうなってんだ……
頭の中をよく観察しようとしてみる。あれ?もう一つなんかあるぞ……?
ゲロだった……。あれかな、幼女の前で吐いたやつかな。あの娘、神様だったのかな。
『神様よ。死なせたお詫びに好きな特殊能力をあげるの。時間がないから早く決めて。あ、元の世界のあなたはちゃんと死んでるから心配ないのよ』
幼女神にこの頭の中にモノを入れられる能力? をもらったみたいだな。ペプを生き返らせてくれて、このストレージ? 機能? を、俺をうっかり殺したお詫びにくれたってことか。あのときの目潰しはなんだろ? あれも俺がやったことなのかな?
試しに俺は前方にある木を敵に見立てて、砂が飛んでいく様子をイメージしてみる。
「目潰し!」
三回目で成功した。手をちょこっと前にだす仕草で、叫ばなくてもうまくいくようだ。魔法なのかな? 土魔法っていうのかな?
それと、このストレージってどのくらい入るんだろ? 俺は落ちてた小枝をいくつかストレージに入れてみる。頭の中に入れた小枝のイメージが浮かぶ。
――おお、入った。おや?ギョロ目が持ってたものがわかるぞ。
剣に、鎧に、服に、靴に、なんだかキラキラしたナイフに、……金貨?
取り出してみると誰かの顔が描かれた金貨が十枚、銀貨が五枚、銅貨が十枚出てきた。価値が分からないが、金貨って結構すごいんだろう。あとは水の入った革袋も入っていた。取り出して二,三口飲む。残りは今飲んだ量と同じくらいある。
別世界に来たってのは間違いなさそうだな。便利な能力? 魔法? があるとは言え、あまり楽観的に考えない方がよさそうだ。いきなり殺されかけたし。とりあえず、水、メシ、寝床。その前に服かな。スーツは合わなそうな気がする。俺はストレージからギョロ目の服だけを取り出す。さっきの貨幣もそうだが、狙ったものだけ取り出せる。便利だ。
立ち上がって、布のシャツに着替える。膝まであるシャツだ。腰に紐を巻く。ズボンはない。こういうもんか。女の子みたいだ。気温はちょうどいい。夏なのか冬なのかわからないが。そしてペプを肩に担ぐ。お米様抱っこって言うらしい。
「さて、どこ行こうかペプ。街はどっちだろ?」