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戦技

 マジックレジストの魔法は、プロテクションと耐熱魔法のプログラムコードにマージできた。構造的に、外部からの攻撃を身体の表面で防御するその二つの魔法と同じなので、中身のコードは理解できなくてもすんなりと組み合わせられた。



 俺のプロテクション指輪と、コートと小手とブーツ、それとちょくちょく着てるローブもレジスト入りプロテクションにエンチャントし直した。


 キャンプから離れて、ストレージからマジックアローやファイアショットを自分自身に向けて撃ち込んでみたら、半分ほどに威力を抑えられた。


 レジストの強度を二倍にすると、インプが撃っていた程度の弱いファイアショットは見事にノーダメになった。しかし、充填したマナはかなり減った。


 アイスショットは若干冷たかった。きっと耐熱が効いてるからファイアショットは重複してレジストするけど、冷気は通るという事なんだろう。


 同様に、マジックミサイルやファイアボールに関しても、ダメージは相当抑えられたものの、レジストも爆発の衝撃には無効らしく、思いっきり吹っ飛んだ。キャンプの中でやらなくてよかった。見られていたら恥ずかしかった。


 マジックミサイル改やファイアショット改は、ちょっと怖いので試さなかった。刺さってから爆発する魔法は自分に撃ちたくない。



 レジストの検証を終えて、俺はまた円形盆地でワッニ師匠とスパーをしに行った。


 これで五回目になる。六回目だったか?


 アクセルを使った高速ヒットアンドアウェイ戦法はだいぶ板に付いてきた。身体がおかしくなったのも初日と二日目までで、もう慣れた。


 グロースのおかげでだんだんパワーがついてきたみたいだ。俺の殴りでワッニ師匠が痛がる。ぎゃわ、みたいな低くくぐもった声を出すようになってきた。もう少し力がつけば、足を止めてもワッニ師匠と殴り合えそうだ。



 ワッニ師匠の攻撃範囲外からアクセルで急接近し、ロングメイスで殴る。ここ数日で数百回繰り返した。


 真正面から殴る、突くだけではなく、やや左側にアクセルしてベースボールフルスイングするとか、右側を通り抜けるようにワッニ師匠の後方まで殴りながらアクセルするとか、カウンターを合わせようとするワッニ師匠の手前で止まってスカしてから殴るとか、バリエーションもかなり増えた。



 そして今日、気づいてしまった。


 アクセルで接近して殴る、その時になにげなくロングメイスにもアクセルをかけた。


「ぎゃわーーー!!!」


 ロングメイスがアクセルの後押しを受けた速度でワッニ師匠の腕にヒットした。速度だけではない、ヒットのインパクトにもアクセルが乗っかり、重たい一撃になった。


――これは……!!!


 腕に当たっただけでワッニ師匠が痛がっている。新しい戦法を見つけた。戦法というよりも技術、いや、技だ。魔法の技だから魔技だろうか。あんまり聞いたことない。戦技ってのは聞いたことがある。戦技と書いてスキルとふりがなが振ってある漫画があった気がする。



 アクセルの流れで発見したが、どちらかというとシュートだ。ロングメイスにシュートをかけて後押しする。攻撃速度が、シュートに込めたマナの分だけ増す。ロングメイスはさほど重くないので、振りを速めてもそれほどマナは必要ない。


 インパクトの瞬間に押し込んで威力を増すのは、敵の抵抗があるためかそれなりにマナ必要だ。とは言ってもシュートで人間と同じ重さの物を吹っ飛ばすほどには必要ない。なかなかマナ効率がいい。



 俺はロングメイスでワッニ師匠の腹部に一発、身体を回転させて石突き側で側頭部に一発、更にロングメイスをシュートで押して、石突きをワッニ師匠の首に突き刺した。俺の攻撃で初めて流血させた。


 シュートもアクセルも同じ魔法、理力だ。理力とは単純に言うと、物を動かす力だ。動かすと言うよりも、飛ばすの方がニュアンスが近い。物体を飛ばす場合にシュート、自分自身を飛ばす場合にアクセルと呼び分けている。


 理力は、俺の周囲約一メートルの範囲にある物を動かせる魔法だ。空気も動かすことができる。ストレージ魔法も同じ範囲に有効だが、ストレージ魔法で吸い込む物が一部分でも範囲内に入っていればいいのに対し、シュートで力を加える力点は範囲内のみだ。そのため、ロングメイスで殴るときには、メイスの先端は一メートルの範囲を超えて押せないので、柄の部分の効果が出る範囲で力を加えるようにする。



 ワッニ師匠の反撃の尻尾が飛んできたが、俺はそれを読んでいた。左右の手でロングメイスを広く持ち、柄で防御する。強烈な一撃だが、シュートでアシストして弾き返した。


 そしてワッニ師匠の膝頭目掛けてメイスで殴り、そのまま股の間にメイスを入れて斜め上にシュートし、ワッニ師匠を転ばせた。


 ワッニ師匠は尻尾でバランスを取って直ぐに起き上がった。目が釣り上がり、顔が歪んでいる。怒ったのか、それとも命の危機を感じたのか。暫く覚えたての戦技の練習相手になってもらう。



 小一時間ほどワッニ師匠と打ち合った。なるべく足を止めたままにしたが、ダメージが通るので互角に打ち合える。いや、既に互角以上か。


 このアクセルを使ったヒットアンドアウェイ戦法は充分に役に立つ事が分かった。今後は骨先生相手でも練習を重ねよう。


 途中からわざと急所を外し、流血させないようにしたものの、ワッニ師匠は血塗れのボロボロになった。そろそろ限界っぽい。


「師匠、また来るよ」


 そう声を掛けて、キャンプに帰った。



 キャンプでは、まあ、いつも通りだった。


「どうしたタクヤ、なんかいいことあったのか?」


 夕食のテーブルでカイが聞いてきた。


「ああ、新しい技を編み出した。成長を実感したよ」


 嬉しさが顔に出ていたのだろうか? 変な顔じゃなければいいが……。


「あたしも強くなったのよ! 日毎に力が強くなるのを感じるわ! タクヤがくれたネックレス、すごいわね!」

「効果が出たようで良かった」


 理論上と魔法のコードから間違ってはないはずだけど、実験も検証もしないでリーゼロッテに使わせたからちょっと不安だったんだよな。


 しかしグロースって、カイとクンツの言い方からすると、この世界の裏技っぽいようだ。この方法を知ってるのと知らないとではっきりと強さが変わるような。


 例えば大イノシシ。俺はプロテクションとヒールが使えるから、正面から殴り合っても無傷で勝てるが、ただ鍛えただけの人間レベルでは、それこそ命懸けで、死なないために人数を集めたりしなきゃいけないだろう。


 それが、カイやクンツのレベルになると一人でやり合えるようになる。


 そんな世界のシークレットな秘密の方法を、アイテムを身に付けるだけでできるようにしてしまったのは、とんでもないチートのような気がしてきた。神様に怒られるんじゃないか……?


——でも、ダンジョンの中は見えないって幼女神が言ってたよな……


 セーフかな。怒られるならそれでもいいか。幼女神にはもっと聞きたいことがあるからまた会いたい。



 武器にかけるシュートはプッシュと呼ぼうか。飛ばすと言うよりも、武器を押し込むイメージだ。ちょっと安直な感じもするが、短いので叫びやすくていいだろう。技の名前を口には出さないつもりだが……。


 今日はいい一日だった。最後にペプとがっつりじゃれてから寝た。



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