チャージ
キャンプに戻ると、トレーニングを終えたリーゼロッテに水浴びに連れて行けとせがまれた。
今ちょうど地底湖から戻ってきたばかりだが仕方がない。リーゼロッテ一人じゃ行かせられないし。
水浴びと言いながら、実際は風呂だ。風呂の前にしてるとこは、やっぱカイとクンツにはバレてるのかな……。
円形盆地の行き帰りでモンスターを狩ってきたので、地底湖へは何にも遭遇せずすんなり着いた。
そして汗をかき、汗をお湯で流してから、リーゼロッテと二人で風呂に入っている。
なんか、ダンジョンの中に住んでいるというのに、トレーニングなどで激しく汗をかき、彼女といっしょにゆっくり風呂に浸かるなんて、生活がめちゃめちゃ充実している感じがする。
こんなんでいいのだろうか? 一応、魔族を倒すために強くなるという目標には、結構いいペースで近づいているベストな日々を送っていると思ってはいるが……。楽しているわけじゃないが充実感がすごい。これがスローライフってやつか。違うか。
元の世界の様々な物語に習うと、魔族みたいな強い敵に勝つにはハングリー精神ってやつが必要なんだが、今の俺には全く無い。
もしかしたらあれか、主人公にいい思いをさせておいて、突然地獄のような環境に落とされて、そこから必死に這い上がるとボス敵に勝てる強さを身に着けているパターンか。または、リーゼロッテが敵に攫われて、それを奪い返しに行くとか。そういうのは勘弁だな……。
「ねえタクヤ、パパにもらったアクセサリーのマナがきれちゃったの。チャージしてもらえるかしら?」
風呂の中でリーゼロッテが言った。
「どれだ?」
「これよ」
マジックアイテムの指輪のマナが切れたらしい。男用の指のサイズのためか、リーゼロッテの親指に嵌めてもちょっと緩い。
「いいぞ。これはなんの効果があるんだ?」
「マジックレジストって聞いたわ」
――!!!
「でも、魔法を当てられたことが無いから効果は分からないの。お守りみたいなものね」
以前に魔術師ギルドで、国王がマジックレジストのアイテムを身につけていて、魔術師ギルド員がチャージしてるって聞いたことがある。それのことか。
「なあ、それ、じっくり見せてもらっていいか?」
「別にいいわよ。チャージしてもらうんだし」
俺はいったんIDEに入って、マジックレジストのコードをコピーした。はっきりと許可を取ってないので若干後ろめたさがあるが、IDEの機能の事を詳しく話すわけにはいかない。
コードの中身をざっと眺めてみる。他の魔法と同じく、書いてあることはうっすらとしか理解できない。コードの中にRESISTの文字は見えた。そういう魔法なんだから当たり前だが。あとはレジスト強度のパラメータがあることは確認した。
指輪に設定されている魔法の効果範囲は、人間の全身になっている。俺がやっている、精神魔法のみを防ぐレジストなら頭だけでいいのだが、どうやらマジックミサイルやファイアなども防ぐようになっているみたいだ。
あとでじっくり見るとして、今は手早くマナをチャージして、リーゼロッテに指輪を返した。
「ありがとう。タクヤが白目を剥いてときって、マジックアイテムを見ているときなのね」
どうもIDEを開いているときはそうらしい……。もしここにスマホがあったら絶対撮られている。
「なあ、このレジスト、おそらく守護の腕輪と競合するぞ」
「え? そうなの? 使えないの?」
「うむ、どっちかが無効になるはずだ」
守護の腕輪は、俺が先日贈った、魔石で永久にプロテクションがかかる腕輪のことだ。
エンチャント魔法は、ざっくりと身体の内部と外周の二カ所に効果があって、それぞれ一種類しか有効にならない。身体内部は筋力強化、敏捷性強化、速度強化など。外周はプロテクション、耐熱だ。レジストも、IDEの効果範囲の設定状態を見ると、外周のカテゴリに含まれるようだ。
そのため、レジストとプロテクションを同箇所で同時に使うには、プログラムコードを混ぜ合わせ、レジスト+プロテクションという一つの魔法を作る必要がある。
魔法を同箇所に設定した場合の優先順位は、詳しくは検証していないのだが、同魔法の場合は効果が強い方が優先され、効果が弱い方は無効になる。
俺の場合、プロテクション魔法とプロテクションをエンチャントしたコートと、同じくプロテクションをエンチャントした指輪とピアスを付けているが、一番弱いピアスのプロテクションは無効だ。充填したマナもほとんど減らない。マナ切れや何らかの原因で他のプロテクションが無効になったときにピアスのプロテクションが自動的に有効になる。
この、マナが減らずに待機状態になるのはなかなか便利かも知れない。ピアスも耳たぶに一つだけしか付けてはいけないルールはない。耳たぶの他にも耳の上の方に五ヶ所くらいは開けられるはずだ。敵にやられてプロテクションが消されたとしても、別のピアスが次々と俺を守ってくれる。
耳だけにこだわる必要もない。鼻、舌、唇、眉毛のところ、ヘソ、乳首など様々な箇所に付けられる。要は皮膚を摘んで針を通せればいいわけだ。特に舌ピアスは敵に捕まっても見つかることはないだろう。まあ、今のところそこまでやる必要性を感じないからやらないが……やるとしてもピアスの前にネックレスやアンクレットや指輪を増やすかな……。
コートや鎧などのプロテクションは、自前のプロテクションと指輪などのアクセサリーのプロテクションとは別で、二重にかかっている状態になる。特に必要性を感じていないのでやっていないのだが、肌着にもプロテクションをかければ三重に守られることになる。
今気がついたんだが、パンツにはエンチャントしておいた方がいいのかも知れない。大事なところは最優先で守りたい。
なお、エンチャントではなく、普通に魔法をかける場合、元の世界で言うバフの重ねがけのことは分からない。他人にバフをかけること自体が俺にはできないし、できるやつに会ったことがない。魔法は存在しているので、できるには違いないのだが。
「リーゼ、いったん腕輪は預かっておく」
どうやら、リーゼロッテの使用感では、魔石から供給されるマナは今のところ全然余裕らしいから、マジックレジストも組み込んでみようと思う。後でプログラムコードをいじることにする。
リーゼロッテには、防御力の高いエンチャントアイテムを身に着けていて欲しい。
それからキャンプに帰って、晩酌にして、寝る前にIDEで仕込みや研究をして、ペプと遊んで、一緒に寝た。
翌朝は、おそらくアクセルで正反対にダッシュするのを何度も繰り返したせいで、身体がめちゃめちゃ不調になった。ヒールでだいぶ回復したものの、気分が悪かったので一日休んだ。
その次の日からは、骨先生かワッニ師匠とトレーニングして、リーゼロッテといちゃいちゃしたりして、数日を過ごした。




