表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/145

リッチ

 夢を見た。


 俺はリッチの額に宝石をインプラントしようとしている。しかし、リッチは幽体なので、宝石はリッチをすり抜けて落ちていく。何回やってもすり抜けて落ちる。そのうちリッチが怒りだして暴れ始めた。俺に殴りかかってきたが、幽体なので、通り抜ける。俺も殴り返したが、すり抜ける。リッチと俺の身体が重なったまま俺は腕を振り回した。



  ◇◇◇◇◇



 目が覚めた。このダンジョン暮らしにもだんだん慣れてきたが、できればストレージハウスで寝たい。



 夢で見たリッチが気になるので、ペプを抱えてキャンプを離れ、ハウスに入った。


 ハウスの中で促成栽培しているトマトがぱっつんぱっつんに熟れている。キャンプに戻る前に収穫することにする。


 ハウスの中で、リッチを一体呼び出した。リッチはボロボロのローブを着てフードを被っている。フードの中は頭蓋骨が見える。幽体なので向こう側の壁が透けて見える。足首から先は完全に透明になっていて見えない。やや浮いているようだ。移動も歩くのではなく、すーっと滑るように移動する。幽霊みたいだ。まあ、俺は幽霊を見たことがないんだが。


 この状態では通常の物理攻撃は効かない。つまり殴る蹴るはもちろん、剣でも槍でもすり抜けてしまう。そのためリッチを倒すには、魔法をぶつけるか、魔法がエンチャントされている武器で攻撃する必要がある。エンチャントする魔法はなんでもいいが、魔法の剣だからと言ってサクサク斬れるわけではなく、剣がリッチの身体をすり抜けるときにダメージを与えるような感じだ。ライトのエンチャントがされたただの光る剣でも問題は無いが、炎熱の剣を使って熱でもダメージを与える方がいい。



「幽体化解除」


 リッチにそう命令すると、透けていた身体が実体になり、ストンと着地した。こうなると、タダのボロを着たスケルトンだ。骨の材質も普通のスケルトンと同じ、人骨ではなく何かの人工物だ。エナメルのような感触もあるが、プロテクション無しでもそれより遙かに硬い。


――インプラント


 リッチの額に紫の宝石を埋め込んだ。綺麗にカッティングしてある。おそらくアメジストだ。アメジスト=紫水晶、ってなんかのゲームで覚えた。ちなみにハロン王国のものではなく、確かジャイアントから入手したもののはずだ。


 幽体化されていなければいつも通り大容量化できる。


「もう一度幽体化しろ」


 リッチは数センチほど浮いて、透けた。


 同じ方法で五体のリッチを普通の水晶で大容量化した。



「ペプ、幽体化ってどういう仕組みなんだろうな」

「ナア」

「もしペプが幽体化したらもふもふできなくなっちゃうな」

『ゴロゴロゴロゴロ』


 ペプを仰向けにして、お腹の毛を逆立てるように逆方向に撫でると、ペプはちょっとベロを出したまま目を閉じて恍惚の表情を浮かべた。



 ペプとのスキンシップも大事だが、今はリッチについて調べたい。


 IDEを開いて、幽体化のコードを表示した。まるっきり訳の分からないコードが並んでいる。何かの強度といったようなパラメータらしきものは無い。幽体化はオンとオフだけだ。


 コードは、ストレージ魔法のコードに似ている。ストレージの窓をオープンする辺りだ。次元魔法なんだろうか? しばらく見ていると「PHASE」「DIMENSION」の単語を発見した。推測すると、次元の位相を変えて触れなくするみたいなそんな感じのプログラムのようだ。位相を変えるってなんだ? 自分で言っててよくわからない。



 コードを取り出せるってことは、アイテムにエンチャントしてその魔法が使えるってことだ。


 俺が幽体になったら、敵から殴られなくなるが、当然俺からも殴ることができなくなるよな。俺が魔法の剣を持ってたらどうなるんだろう? 幽体化して、エンチャント杖から魔法を撃ちまくれば無敵かな? やってみよう!


 俺はストレージからテキトウな指輪を選んで、幽体化のエンチャントをした。



 ハウスの外に出て、幽体化をオンにした。


――何も変わらないな……


 俺からは俺の身体が普通に見えるのかな? 俺自身が位相が変わった次元にいるようなものだから、そうなんだろうな。しかし周りの景色は透明に見えないもんなのかな。そもそも俺の身体が木を貫通しなくて、触ってみると普通にざりざりとした木の幹の感触があるんだが……。



 俺はキャンプに戻って、リーゼロッテに聞いてみた。


「リーゼ、俺って今、幽霊みたい?」

「何言ってるのタクヤ。生きてるわよ。いつも通りよ。もしかして、死ぬようなことがあったの?! あたしに内緒で危険なことしないでよ?!」


 そう言いながらリーゼロッテは俺の胸をグーでどんどんと叩いた。痛い。なぜか怒られた。物理攻撃はしっかりヒットしている。


――あれ? 幽体化してない……?


「リーゼ、誤解だ。危険なことはしてない」

「本当に?」

「ああ」

「また一人でワニと戦いに行ったのかと思ったわ」


 ワニと戦うのにリーゼロッテの許可が要るのか……なんとなく感じていたが束縛するタイプなのか……。


「いや、ワニは全然危険じゃない。問題ない」

「この前、ワニが強くてヤバいって嬉しそうに話してたからてっきり……」


 そんなにマゾっぽく話しただろうか? てっきり死ぬほどやられたと思ったんだろうか? ワニは確かに強いが、俺の得意技を使えば楽に勝てるだろうし、何かあっても飛んで逃げられるから危険は感じない。


「一度、そのワニにお手合わせ願いたいものですな」


 俺が最初に話したときは、ふーんって感じだったのに、クンツが話に食いついてきた。


「段差があるから難しいな。まあ、あの段差のおかげでこの階で平和に暮らしていられる」


 クンツを抱えて飛ぶのは嫌だしな……。俺の助手席は女性限定だ。



 逆に、ワニを捕まえて持ってくるのはどうだろう? 暴れそうだな。暴れて途中で落としても別にいいが。問題はあの巨体を持って飛べるかどうかだ。鎖かなんかで縛って持ち上げないとだめだな。無理か。


 やっぱあの崖に道を作ろうか。ここには住めなくなるかも知れないが。岩を砕くのはいい筋トレになるだろうな。グロースもあるからものすごい力が付くかも知れない。


――そもそも俺たちはいつまでダンジョンに住むんだろう……


 先が見えない。ストレスも溜まる。しかし、今はやるべきことがある。自分たちを強化することが優先だ。



 朝食後にIDEを開いて、さっき作った大容量リッチ軍団とスケルトン軍団の調整をした。


 スケルトンもリッチも、地下神殿で攫ってきた状態の強さを標準と決めた。


 スケルトンは大容量化のおかげで標準の倍の強さと速さに設定しても一日程度は動く。戦闘をすれば稼働時間は減ってしまうが、かなり余裕がある。


 リッチにも同じことが言えるだろうが、リッチは物理攻撃は行わず魔法オンリーだから、パワーを上げても意味がない。幽体化しているとフワフワ浮きながらゆっくり移動するので、速さを上げても意味がないだろう。


 なので、リッチについては標準設定で運用する。


 その代わり大きく増えたマナは全て攻撃魔法に回せる。より強力な魔法を何発も撃てる。


 リッチのAIの設定には、魔法攻撃力を上げる、例えばゲームでよくある知識や賢さのようなパラメータが無い。設定した魔法で威力が変わる。


 俺はリッチにマジックミサイル改、ファイアミサイル、アイスミサイルを装備させた。相手によって使い分けたりしてくれるのだろうか? いずれ試してみる必要がある。


 他に探知魔法を装備させた。これは今は全てのスケルトンに持たせている。



 大容量スケルトンは、インプラントした宝石によってマナの量に違いはあるが、基本的に標準の倍の強さに設定した。


 プロテクションエンチャントの武器も漏れなく装備させた。


 一部のスケルトンは三倍や四倍の強さにした。そいつらにはヘルメットを被せ、盾を持たせたり鎧を着せたりした。盾や鎧は全て拾い物だ。


 他には攻撃魔法を持たせたりするなど、実験的なスケルトンも作った。この場合はAIはどんな動きをするのだろうか? 近接攻撃と魔法攻撃を上手く混ぜて振る舞えればいいが、殴りだけ、魔法だけになってしまわないだろうか? その場合はスパーで教え込めば大丈夫だろうか?



 そんな感じで設定を終えて、骨先生とスパーをして、ランチを食べて、スパー中のリーゼロッテに一声かけてから、午後はワニと戦いに行った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ