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グロース

 夢を見た。


 病院にいる。目の前でスケルトンがベッドに横たわっていた。俺は医者に、スケルトンを生き返らせてくれと懇願する。医者は首を横に振る。医者はあてにならない。俺は心臓マッサージをしようとするが、心臓が無い。人工呼吸をしようとするが、口を塞げない。俺は途方に暮れた。



  ◇◇◇◇◇



 目が覚めた。昨日は長時間スパーをしたおかげか、かなり熟睡できた。生身でたくさん殴られたものの、ヒールのおかげで打ち身一つ残っていない。


 時計を見ると、調整が合っていれば、今は朝の六時のようだ。と言っても、昨日は日の出時間を朝の六時だと仮定して合わせたので実際は何時か分からない。街の教会で正午などに鐘を鳴らすので、それに合わせる必要がある。その鐘もジャストかどうか疑問があるが。元の世界のような正確さをこの世界に求めることが間違いなのかも知れない。



 じゃれついてきたペプをわしゃわしゃしてから水とごはんをあげた。


 昨日覚えたグロースについてだが、アイテムにエンチャントできれば誰でも使えるようになるな。初心者はもちろん、魔術師でも可能だ。まあ、なんらかの方法で筋肉を疲労させる必要があるが。


 というわけで、IDEを開いて、ストレージでテキトウなアクセサリーを探した。いい感じのネックレスがあったので、これにする。例によってハロン王国の宝物だが、リーゼロッテに贈るから勝手に使ってもいいだろう。


 ネックレスにはサファイアが付いている。多分サファイアだ。はっきりとは分からないが、色とマナの充填量の多さからきっとそうだろう。


 筋肉疲労の回復のための弱いヒール魔法とグロース魔法を組み合わせてエンチャントした。グロースについては、強度の設定がいじれたので、そこそこ強くしておいた。



 朝飯前にがっつり筋トレをした。これでグロースをかければ、筋肉がスーパー超回復して強靱な身体になるはずだ。戦闘中にマナを循環させるよりも、肉体を酷使したあとにグロースをかける方がやり方は正しいはず。というか、身体を動かしたら小まめにグロースだな。


 俺は元々ズボラな男で、元の世界ではマメにジムに通っていた時代もあるにはあるが、それでも多くて週二から三日しか運動をしなかった。長らく最低週一ってのが目標だった。そもそも自宅で筋トレをすればいいのに、そういうことができないダメなタイプなのでジムにたまーに通って運動している感を出していた。まあそれでも、ジムに通う前よりは全然マシだったんだが。


 そんなダメな俺でも、筋トレの後にすぐヒールすれば確実に筋力が付くとなれば毎朝やるし、さらにグロースで常人より遙かに強くなれるかも知れないとなればモチベーションMAXだ。


――まあ、今は強くなること以外にやることがないからな……


 しかしほんの一日じゃ実感できるほど成長するわけがない。気合いを入れすぎず続けるのがいいし、飽きないように実戦も交えた方がいいだろう。



 このやり方で鍛えれば魔族を倒せる強さを手に入れられる。方向性が見えてきてかなり安心した。あとは実際どのくらいの効果があるのか確認したい。それには少し時間がかかるか。だが、すぐに効果を実感できるくらいじゃないと一年以内の魔族討伐には間に合わない。



 いつも通り俺が朝食を準備した。今朝はツノウサギのスープとパンとフルーツだ。


 朝食でカイとクンツがリーゼロッテに瞑想をさせるか実戦をさせるかでまた揉め始めた。いっそのこと剣で決めればいいのに、と、ちょっと思った。俺は二人を制止して言った。


「リーゼ、身体強化のマジックアイテムを作った。使ってくれ」


 俺はネックレスをリーゼロッテに渡した。


「え? これを付ければいいの?」

「ああ、これがあれば瞑想は要らない」

「ありがとう、タクヤ。助かるわ」


 カイとクンツがきょとんとしていた。


「俺が調べたところによると、マナによる身体強化手法は筋肉の修復時に強化する。また、実戦か訓練かの違いもない。トレーニング、スパーリング、実戦の後で発動する方が効率がいい」

「じゃあ今日は戦いには行かないのか」


 カイがやや残念そうに言った。


「リーゼ用のスパーリングスケルトンを用意した。しばらくはそれで安全に鍛える方がいいだろう」



 朝食後にリーゼロッテ用の骨先生を出した。大きめのサファイアを骸骨の額にインプラントした。昨日作った。なんとなく、青いサファイアを勝手にリーゼロッテのイメージカラーにした。サファイアはハロン王国のお宝から拝借したものだが。せっかくなのでプレートを組み合わせた革鎧も着せた。手には刃がボロボロの片手剣を持たせた。


「いいか、お前の使命はリーゼロッテを守ることと、リーゼロッテのスパーリングの相手をすることだ。リーゼロッテには決して大けがをさせるな。リーゼロッテの命令に従え。わかったな?」


 新任骨先生は顎をカクカク鳴らして、リーゼロッテの側に小走りで走っていった。



 リーゼロッテは、カイとクンツの指導のもとでスパーリングを始めた。


 俺は骨先生とスパーをする。今日はそこそこ殴られるつもりのため、素手対素手の空手スタイルで戦う。コートやアクセサリーは外して、村人スタイルだ


 筋肉に負荷をかける、つまりこちらから殴るのと、殴られるのでは正反対だが、殴られた箇所も回復するとより強靭になるはずなので、やり方としては間違ってないはずだ。ヒールがあることが前提のトレーニング方法だが。


 しばらく殴り合ってみた。骨先生は確実に以前より動きが良くなっている。カイとクンツとのスパーで学習している。



——急所蹴りを教えたのはどっちだ……


 明らかに金的蹴りや目潰しをする頻度が増している。えげつない。カイのやつか。クンツはそういうのは似合わない気がするが、本当のところはわからない。


 ちょっと怖いので安全のため、頭部と下腹部だけはプロテクションで防御することにした。



 なんとなく気分で、今日は後ろ回し蹴りを重点的に練習した。最近になってうまくできるようになった。元の世界の俺にはできなかった技だ。無理にやったら股関節がヤバいことになっただろう。そもそも誰かと戦う機会がなかったが。せっかくなので実戦で使えるほどに極めたい。なぜならロマンだからだ。しかし、骨先生は回し蹴りを避けて、股を大きく広げた俺の金的を狙う。ロマンが台無しだ。



 ちょっと前までは骨先生とのスパーは一〜二時間が限界だった。今は大容量化したおかげで、昼になってもまだマナが半分以上残っている。


 ただ気になるのは、スケルトンがワニにかすり傷しか与えられなかったことだ。あの時は咄嗟だったので、標準的な強さのスケルトンを出した。それでもスケルトンと剣にはプロテクションが張ってあるからそこそこ強いはずなんだが。


 スケルトンを強い設定にすればマナ効率が悪くなる。稼働時間と強さのバランス調整が必要だが、そもそも素体で弱いとなると、いくら大容量化してマナを突っ込んでも限界が近い。たかが知れてるってやつだ。


 スケルトンウォリアーを使った方がいいのか? なんとなくだがスケルトンウォリアーの強さって、身体の大きさと、頭蓋骨が大きいからその分大きい魔法陣を貼り付けられる関係で元々大容量のため強く設定されているだけのような気もする。これについてはじっくり観察して検証してみたいところだ。


 とりあえず、スケルトンを強くする方法はおいおい考えるとして、作ってある大容量スケルトンの標準の強さ設定を倍くらいに上げておくことにする。夜にでもIDEで作業しよう。



 夕方になって、リーゼロッテが水浴びをしたいというので、例の地底湖に行き、じゃれあってから二人でお風呂に入った。


 それからキャンプに戻って、夕食を食べながら飲み始め、雑談をし、いい感じに酔っ払って、ペプと遊び、横になってIDEで作業をしながら寝た。



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