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チャクラ

 キャンプに戻ると、みんな起きてそれぞれ活動していた。カイとクンツが毎朝寝起きにしっかり身体をほぐして、念入りに武具のチェックをするのはさすがだなって思う。


 寝てる間に何も言わず勝手に出かけたことを咎められるかと思ったが、何も言われなかった。信用されているのだろうか。


 誰も朝飯の準備をしていないので、仕方なく俺が用意するとみんな集まってきた。



 朝飯を済ませて、家事ルトンに片付けを任せてた。


 俺はテーブルの上にホットプレート石と鍋をセッティングして、ツノウサギの骨とタマネギとにんにくを煮込み始めた。ツノウサギの死体はたくさんある。ブイヨンにしておく。


 今日はこれからリーゼロッテのトレーニングが始まる。俺も参加か見学をするつもりだ。その間に煮込みをする。貧乏症なのでマルチタスクとか時短とかで時間を節約した気になりたいタイプだ。



「では姫様、トレーニングを始めますぞ」


 予定より一日遅れで訓練が始まった。


「今まで姫様には普通の戦士としての戦い方をお教えしてきました。命を守る剣術です。しかしですな、他人や魔物を倒す戦い方は、それとは異なります」


 何やら興味深い話が始まった。リーゼロッテは黙って聞いている。


「このやり方は我が国では知られていません。イグレヴの奴らも、魔闘気ばかりに目が行って、己の内面を鍛えようとはしません」

「サンデージではそれなりに広まってましたがね。道場なんかで教えられてました」


 サンデージはカイの出身国だ。


「幸いにも姫様は魔法が使えませぬ。このやり方は魔法を覚えるとできなくなるのです」


 そうなのか。じゃあ、俺には無理かな。魔力を放出することはできないが、ハウスの中では使えてるからな。


「しかしですな、残念ながら手取り足取りお教えすることができませぬ。姫様ご自身でやり方を見つけていただかねばなりませぬ」

「え? どうすればいいの?」

「まずはですな、姫様の内なるマナを見つけ、それを体中に循環させるのです」

「え? どういうこと?」

「マナは魔法の元となるエネルギーです。魔法が使えずとも誰しもがマナを持っております。マナを肉体強化に使うのです」


 肉体強化魔法なのかな……?


「さすれば鍛錬とともにマナが身体に定着してゆき、強靭な身体となりますぞ」

「実戦が一番って言われてますがね。魔法生物を倒すのが一番効率がいいとか」

「それはありますな。魔物もこのやり方で身体を作っていると言われております」


 ……肉体強化魔法の話ではない……?


「昨日タクヤ殿が苦戦したというワニも間違いなくそうでしょうな。マナを使って鍛錬すれば、剣で斬れなくなるほど皮膚も筋肉も硬くなりますぞ」


 え? あのワニの硬さの秘密?


「硬さだけじゃなく、身体能力全てが強くなります。剣を振る力と速さも劇的に上がりますぞ」


 ……これは……RPGで言う、戦士職がレベルアップして強くなるような話か……?


「まずはマナを自在に動かせるようになることですな。それができれば後は簡単です。剣を振るう腕に、踏み込む脚に、攻撃を受ける箇所にマナを込めればいいだけです」

「どうすればマナを動かせるようになるの……?」

「まずは瞑想ですな。自身の内面との対話が近道です」

「いや待てクンツ、実戦が一番だ。魔物を殴っているとだんだん分かるようになる」

「いや、カイ、それは遠回りですぞ」

「何言ってんだ、俺もそれで覚えたぜ?」

「カイは幼い頃より実戦経験があったからですな。姫様には瞑想が早道ですぞ」

「待て待て、冒険者の間じゃ実戦が一番だってことは常識だ」


 なんか、口論が始まった……。



 それにしても、そのやり方は知らなかった。それをやればカイとクンツのように強くなれるのか。しかし、魔法を覚えるとダメだってことは、俺にはもう無理なのか?


「ねえタクヤ……マナを動かすってどうすればいいか分かる?」


 揉める二人を放っといてリーゼロッテが俺に聞いてきた。


「マナの操作なら分かる。マナの源は額と胸と腹にあって……」


 元の世界で、ノンフィクションでも、チャクラと呼ばれる人体のエネルギーの出処があると言われていた。確かヨガの話だと思う。チャクラは七ヶ所か八ヶ所あったと思うが、俺のマナが出てくるところはそのうち三ヶ所だ。それをリーゼロッテに教えた。


「実戦より瞑想の方が安全だから先にそっちをやってみたらいい」

「わかったわ!」



 俺も試してみたくなり、骨先生を呼び出してスパーリングを始めた。


 マナの操作はヒールとレジストの訓練で慣れている。完璧だ。普段は頭の中でぐるぐる回しているマナを、腕を負傷したときのヒールの要領でマナを腕に集中する。プロテクションの集中にも操作が似ているので、瞬時にマナを動かすことができる。これは相当訓練しなきゃできるようにならないだろう。とは言っても俺は数ヶ月でできるようになったが。



――ガツン!


 テントの支柱で骨先生を殴った。腕から手にマナを集めているが、特に威力が増したとか、成長したとかそういうこともなく、いつも通りだ。


 試しにこの状態で、骨先生の剣を腕で受け止めてみた。プロテクションが効いているから何のダメージも無い。


――これを続ければいいんだろうか……?


 プロテクションは外した方がいいんだろうか? 分からないことだらけだ。やりながら探るしかないかな。実戦の方がいいらしいから、骨先生で慣れたらまたワニと戦いに行こうか。


 骨先生も、今は命令を聞くけど、元々は敵だったわけだから、実戦って意味ではスパーも実戦なんだが、なんとなく、魔法生物を相手にしなきゃ意味が無いような気がする。



 俺は骨先生をいったんストレージに戻して、IDEを開いて新しい骨先生を作った。力を弱めに設定して、細身の棍棒を持たせた。そして俺はコート、指輪、ピアスを外し、プロテクションをオフにして、新任骨先生とスパーを始めた。


 ポコポコ殴られたところが痛い。スパーで痛いのは久しぶりだ。殴られる瞬間に合わせて、身体の中のマナを集中する。痛みが軽減されるわけじゃないから結構効く。こんな感じでいいんだろうか? これで強くなれるんだろうか……?



 スパーはランチと小休止を挟み、夕方まで続けた。


 夕食はいつも通りみんなで長ーいテーブルを囲んだ。


 リーゼロッテは、結局今日は成果が無かった、と報告した。


「な、クンツ、だから実戦の方が早いって」

「いやいやいやいや、一日で成果が出るものではありません」


 また口論が始まった……。酒も入ってて熱くなってうるさい。


「リーゼ、瞑想ばかりやるのもキツいだろう。専用のスケルトンを付けるから、スパーリングもやるのがいいと思う」

「わかったわ!」


 マナを使った戦闘を繰り返すことで、俺の元の世界では考えられないほど強靭になれるのなら、スパーより先にマナ操作を覚える方が早道だとは思うが、一日中座っているのはキツいだろう。適度に身体を動かす方がメリハリがあって良さそうだ。なんとなく。



 夕食後にIDEを開いてみると、魔法アイコンが増えていた。左下から右上に向かってカーブした矢印のデザインだ。iモードの時によくメールで使ったアゲアゲマークだ。


――これは……間違いなくさっきのあれだな……


 プログラムコードを見てみる。他の魔法のコードと同じく、ほとんど理解できないものの、なんとなく、ヒールのコードに似ているような気がする。コードの中に、CELLやDAMAGEDやGROWなどの単語が見える。傷つき疲弊した細胞に沈着し、パワーを与えるような仕組みのようだ。


――これは筋肉の超回復を助けるような魔法だな


 俺の推測が正しければ、この魔法は戦闘時よりも回復時に有効になる。筋肉はダメージを受けた直後から回復が始まるので、戦闘直後でも合っていることは合っているが。


 この仕組みが経験値を貯めてレベルアップすることだとすると、戦闘の直後にレベルアップと言うより、一日の終わりに馬小屋で寝ている間にレベルアップということになる。


 しかし現実はレベルアップ制ではないので、ステータスで言うところのSTRやVITを急速に成長させるようなものだろう。スキル制に似ている。この方法で通常の限界を超えることができそうだ。



 とりあえず、実際のところは分からないものの、やってみるしかないので、俺がいつも使っているヒール魔法にこの魔法のコードを組み込んで使ってみよう。筋トレのあとにいつもかけているヒールだ。


――この魔法の名前が必要だな……


 ひとまず、「グロース」と呼ぼうか。推測ばかりで実際この魔法が何かよく分かっていないが、大きくははずれてないはずだ。


 それにしてもグロースは、ストレージ魔法の一部でもなく、他人からかけてもらったわけでもなく、自然に覚えた。誰にでも覚えられる魔法と言うことだろうか。そういうことならリーゼロッテにもすぐに習得できそうだ。


 他の魔法を覚えるとグロースは覚えられないってのもどうやら間違いのようだ。グロースや俺が使っているヒールや、ハウスの中で使えるヒートなどの魔法は、体内のマナを変成させて発動するが、他の魔法使いが使う呪文を詠唱して発動する魔法のやり方とは根本的に異なっている。どちらかのやり方に慣れてしまったら、もう片方は習得しにくいというのはありそうだ。


 魔術師ギルド員が使っていたチャージ魔法は、マナをそのまま流すか変成させるかの違いはあるものの、グロースやヒールに近い。きっと頑張れば両方できるようになるんだろう。



 IDEでグロースやヒールやその他魔法のコードを解析していたら限界が来たのでIDEから抜けた。するとやっぱりペプが俺の上に乗っていたので、そのまま抱きしめて寝た。




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