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水魔法

 ウサギの死体が五体できた。ストレージに入れれば腐らないものの、いずれは解体しなきゃ食べられない。


 正直言って、俺は解体作業が嫌いだ。グロいし汚いし面倒くさい。GKMだ。そんな略語無いか。もしかしたらスケルトンがやってくれないかなー、教えたらできるようになるかなー、なんで思ってダメ元で護衛で立ってるスケルトンに聞いてみた。


「おまえ、これ解体できる?」


 スケルトンは顎をカクカク鳴らした。


「え? マジで? できるの?」


 スケルトンはやはり顎をカクカク鳴らした。任せろ、と言っている気がするがそれは気のせいだろう。



 俺は作業台とナイフを出してスケルトンにやらせてみた。


 ウサギの喉を切ってしばらく逆さまにして吊るして血抜きをし、作業台に乗せて、綺麗にお腹から捌いていく。


 しばらくすると、五体分のウサギの肉、毛皮、角が分けられ、内蔵や骨などの他の部位は地面に捨てられていた。


——お行儀は悪いな……


 しかし、これは役に立つ。


「イノシシも解体できるか?」


 スケルトンは同じように顎をカクカク鳴らした。



 ストレージから、死んだばかりの大イノシシを出して地面に置いた。いつ殺したやつかはよく覚えていない。


 地面に穴を掘って血抜きを手伝った。ストレージ魔法を使って穴を掘るみたいに、死体から肉を抜くとか骨を抜くとか出来ればいいんだが、ナイフを使って剥がなきゃいけないものはストレージ魔法では分離できない。スケルトンがやってくれるのは大助かりだ。


 イノシシの解体は一体じゃ大変そうなので、スケルトンを二体追加した。三体のスケルトンは、一体が皮を押さえて別の一体がナイフで切るような、ぴったり息のあった連携で解体していく。まあ、呼吸はしてないけど。



 しばらくすると、肉が作業台に乗せられ、毛皮は台の横に置かれ、内臓や骨や頭は地面に捨てられていた。


——やっぱりマナーが悪いな……


 舌や豚足は食べられるところは残ってるし、骨だって出汁が取れる。捨てるかどうかは俺が決める事だろう。まあ、この世界の住人に比べれば遥かに贅沢して育ってきた俺は、肉がこれだけ取れているのに食べにくい部位を食べる気はしないんだが。


 スケルトンに解体を教えたやつがもったいないやつだったんだろうか。まあ、いいだろう。


 俺は生ゴミを地面に捨てておくわけにもいかないのでストレージに入れた。


 ペプが生肉を欲しがったので、代わりに焼いてある肉をストレージから出してあげた。ハグハグ言いながら食べた。



 スケルトンたちを見ると、手と胸から下が血で真っ赤になっている。スケルトンウルフの口元もだ。


 ふと思いついた。


「ちょっとここに並べ」


 俺はストレージから桶に入れた水を出した。そして、理力で空気を動かして風を吹かせる要領で、理力で水をスケルトンにかけた。


 浜辺の波打ち際でカップルが水を掛けあうような、手で掬ってバシャ、バシャとした感じになった。あまり綺麗にならない。



 俺はストレージから、ワインの空き瓶を出した。中に水を詰めて、中身を理力で思い切り押し出す。瓶の口で圧縮された水は勢いよく飛び出し、スケルトンに付いた血を洗い流した。


——これが水魔法か……


 違うか。水を無から生み出さないと水魔法とは言えない。フィクションと違って、質量保存の法則を丸ごと無視するような魔法は……俺の次元空間魔法以外は無い……ちょっと自信が無くなってきた。もしかしたらどこかにあるのかも知れないな……。


 実際、マナってやつがエネルギー保存則に則っているかどうかには大きな疑問がある。



 スケルトンは、撥水加工されているのか、水を掛けて流したら元通り綺麗になった。水を落としてストレージに入れた。


 濡れた服のように水が染み込んでいるとダメだが、骨の表面に水が付いている場合は、分離する事ができる。血でも同じことができるので、洗う必要はなかったわけだが。



 そんなわけで、ランチは捌いたばかりのイノシシのステーキにした。



 ランチのあとは、時計を作ることにした。


 木の枝に錐で穴を開け、木の板に木の枝を釘で固定する。摩擦があると時刻がずれるかも知れないので、穴はゆるゆるなので枝はぶらぶらだ。


 寝そべってIDEを開く。木の板の裏側に、理力の魔法陣を貼り付ける。IDEのウインドウをズームして、釘と木の枝の間に理力の線を書く。スケルトンの骨と骨を繋げている仕組みだ。


 そして木の枝に、釘の周りに沿って回転の矢印を作る。理力のコード内の、パワーのパラメータをかなり弱めに書き換える。これで木の枝が釘を支点にして、一定の速度で回る。


 試しに、時計が入っているストレージのポケットの時間経過をオンにしてみると、時計の針はグルングルン回り始めた。数秒で一回転している。


 俺は一分で一回転するようにパラメータを調整した。ここしばらく時計を見ていないから、一秒の感覚を忘れてしまっている気がする。設定値に自信がないが、これは仕方がない。自信があっても正確に一秒を設定するなんて無理な話だが。



 俺は更にパラメータを六十分の一にした。これで時計の分針が完成だ。精度はおそらくかなり悪い。なんとか精度を上げて、パラメータを更に六十分の一にすれば時針、時計の完成だ。


 どうしたもんだろう? やっぱ正しい時計と比べて合わせるしかないよな。時計……日時計しか思いつかない。日時計ならすぐ作れる。何時間か日向ぼっこしながら、日時計とお手製の時計を比べて調整するしかないか。


——そんな暇人じゃないんだが……


 まあ、スパーとかストレージショットの仕込みとかしながらやってみようか。どうしてもダンジョンの中で時刻が知りたい。


 正確な時計が一つ出来たら、それを元に量産できる。めちゃめちゃ高く売れるはずだ。



 夕方まで暇だ。


 リーゼロッテの護衛にウルフも二体追加した。カイとクンツは必ずどちらかがリーゼロッテのそばにいるようにしている。護衛は万全なので、ちょっと出かけようか。



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