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ステルス

 さっきのやつが嫌に簡単に吐いたので、罠を疑っている。空から二階建ての王宮の屋根に降りて、様子を伺う。


 王宮の前庭には死体がぎっしりと並べられていた。ざっと見て五十から百体ありそうだ。前庭はそんな広くない。そこに無理矢理詰めて並べられている。死者への冒涜だ。積まれていないだけまだマシか。しかし許せない。


 庭は暗く、王宮から漏れる光で、死体があることは分かるが顔までは判別できない。国王の遺体はいったいどれなのか。こんな時に駄洒落が思いつき、残念な気持ちになった。



 見張りは四人いる。死体を守っている訳ではなく、王宮から庭を見張っている。慎重にいこうか。


 元の世界の、ステルス系ゲームを思い出した。ゲームによって国や時代設定が違うが、共通してこんなふうに建物に兵士が複数人配置されていて、なんらかのミッションが与えられている。今この場合は国王の遺体のゲットだ。


 そして敵を物陰から、一人ずつ殺す。この時、自身が隠れている場所とは反対側に石を投げて、敵の注意を引いたりする。そして背後から足音のしない駆け足で駆け寄って、後ろから口を塞ぎ、ナイフで喉をかくのだ。


 その手のゲームのキモは死体の処理だ。敵も一箇所に留まっているやつばかりではない。見回りをするキャラが配置されている。そいつに死体を見られたら警報を鳴らされて警戒されるばかりか、応援を呼ばれて攻略が困難になり、プレイヤーの居場所を発見され、殺されてゲームオーバーになる。なので、死体を担いで草の茂みや建物の死角に隠すことが重要になる。



 俺の場合は、敵を殺せば瞬間にストレージに入れられる。わざわざ死体を担いで、別の敵に見つかるリスクを負いながらゆっくりゆっくり歩く必要がない。筋力強化エンチャントがあるから人一人分くらい担いでも普通に歩けるが。


 そういうわけで、敵兵を物陰から剣で次々とサイレントキルしたい欲求があるが、もし善良そうな人を殺してしまうと、あとで良心が痛む。痛むだけならいいが、自分で自分を許せないことはしたくない。そういうことをしてしまうと後々ずっと引きずる。殺してしまってはリカバリーも出来ない。



 俺は、王宮の屋根の上から、地面の物陰に、ストレージからスリングの石を放った。石はガッと音を立てて転がった。一番近くの衛兵がそれを確認しに歩いてくる。


 俺はそいつの背後に飛び降りると同時に、ヘルメットをストレージに吸い込み、スリープの杖を頭にコツンと当てて眠らせた。


——ドサッ


 眠った兵士が地面に倒れる音がした。他の兵士に聞こえたようだ。


 俺は地面の兵士を持ち上げて王宮の裏に隠し、陰からもう一人の敵兵が歩いてくる気配を探る。


「おい、どうした? 何かあったか?」


 やってきた兵士Bがすでに寝ている兵士Aに話しかけているが答えはない。


「ちっ、サボりかよ」

 

 兵士Bが立ち去ろうと後ろを向いたその瞬間に……。


——アクセル……


 背後から近付き、ヘルメットを消し、スリープで眠らせる必勝コンボ。こいつも問題なく無力化して、さっきの兵士Aの横に並べた。


——楽勝だな



 俺は王宮の反対側にいる兵士Cも同じように無力化して隠したが、兵士Dが異変を感じて騒ぎ出した。


「おい、ニラ、フーマーン、どこに行った? おい! 答えろ!」


 パニックになりかけている。早くなんとかしないとまずい。


——アクセル!


 高速で近づき……。


——ディスアーム!


 ヘルメットと、念のため槍と剣もストレージに入れて、革鎧の首に左手の指をかけ、右手で顎を殴った。思い切り殴ろうとしたが、直前で手加減した。


 動けなくしてから眠らせようと思ったが、兵士は一発で気を失った。兵士を抱えてアクセルで物陰に持って行き、隠した。



——さて……


 いつ衛兵の交代が来るのか分からない。手早く用事を済ませて逃げたい。見張りはいなくなったが、灯りを灯すわけにはいかない。俺は国王の遺体を探そうとしたが……。


——暗い……全然分からないな……


 それに、他の人の遺体をここに置いておくのも忍びない。


——全部持っていくか……


 持って行ったら自動的に俺が埋葬する責任を負う。しょうがないか。


 俺は駆け足で、遺体を次々と全てストレージに入れた。ストレージに入れれば顔形が分かる。国王と宰相は、王宮から一番離れたところに置かれていた。


 全部で八十五体、うち十五体はイグレヴ兵だった。焦げた跡がある奴がいる。これは俺が殺したのか。その他は服や装備から判断すると、城と王宮にいた人たちのようだ。城門の外で亡くなった人たちは含まれていないようだ。


 王宮に忍び込んで生活用品を持ってこようと思っていたが、どうやら敵兵がいっぱいいるらしいので諦めた。


 とりあえず、用事を済ませたので退散する。俺はアクセルで飛び去った。



 空から旧フライターク邸を見ると、明かりが全く無い。人は居ないようだ。


 俺は屋敷の中庭に降りた。屋敷の中を伺うが、やはり誰もいない。


 俺はガラス窓をストレージに吸い込んで中に入った。


 王宮ですら木窓なのに、ガラス窓とは、伯爵のくせに生意気だと前から思っていた。使う宛は無いが、全ての窓を頂戴することにした。



 後は、とにかく何でもいいから、生活に関するものを丸ごと頂くことにする。フライタークの財産は国に渡してしまって、まあ今は俺のストレージの中にあるが、俺のものではない。フライタークには迷惑を被ったので、使わなくなった生活用品を勝手に譲ってもらう位のことは許されるはずだ。


 とは言っても、金目の物は誰かが既に持っていったらしく、何かのオブジェを置くとちょうどいい空間があるとか、壁に剣を飾るようになっているけど剣が無いとか、テーブルの上に燭台が無いとか、いろいろ足りない感じになっていた。


 俺は金目の物よりも、すぐ役に立つものが欲しい。ロングメイスのライトを照らして、とにかく目に付くものを片っ端からストレージに入れていった。テーブル、椅子、ベッド、食器はもちろんのこと、クローゼットも丸ごと、それこそ便器以外の全てをストレージに入れた。


 屋敷もまるごとストレージに入れたいが、ちょっと大きすぎる。地下室もあるからそもそも吸い込めるのかどうか。それにこれだけ大きいと何日間卒倒しっぱなしになるか分からない。


 帰り際になって気づいたんだが、ダンジョンから引っ越して、この屋敷を隠れ家にすれば良かったか。しかし、窓を全て外したので風が吹き込んでくる。住めたもんじゃない。


 ロングメイスのライトの光を見て誰が来るとも限らない。長居は無用。俺は尖塔から屋根に出て、アクセルで飛んだ。



 最後に街の広場に寄った。人通りはもう無い。一応街灯らしき松明が掲げられているが、数が少ないためほぼ真っ暗だ。


 広場の中心に、指名手配、つまり俺たちの似顔絵が掲示されている。暗くてよく見えないが、ギルドに貼ってあったやつと同じなら、有力情報には金貨十枚を進呈すると書いてあるはずだ。すげえ安いよな。


 俺は掲示板の板ごとストレージに入れて、代わりに中身の詰まった宝箱の便器を置いた。特に意味は無い。ほんとにささやかな嫌がらせだ。



 少し街を歩く。ほとんどの店は閉まっているが、居酒屋と宿屋は開いている。中に入ろうとしたら、イグレヴ兵が酔っ払って大騒ぎしていた。情報収集したいところだが、こんなところに入ったら喧嘩になるに決まってる。我慢しよう。



 俺は街中から真っ直ぐ上に飛んで、フォートモーラーへ帰る事にした。




いつもお読みいただきありがとうございます。年内最後の更新になります。


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