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トンカツ

「ペプ、またすごいものを見つけたよ」

「ナア」


 スケルトンの構成の仕組みが分かった。回転する槍を見て初めて気がついたIDEの機能だ。気がつかなきゃ使えなかったが、これもそもそも知っていたってことになるのか。こういうのはまだまだ他にあるのか?


 これが、姉幼女神の言う、俺がすでに持っている力かどうかは分からない。いわゆるパワーやスキルなどの力っぽくはないから多分違うと思うが、まだまだ何かあるかも知れないとなると、もっと研究してみるのがいいだろう。


 差し当たって、何か新しい、動く何かを作るとか、スケルトンを改造するとか。まずはスケルトンの首を百八十度回して真後ろを見れるようにしてみようか。目が無いので意味があるかどうか分からないが。


 IDEを操作できる時間には制限がある。何をするかは外で考えよう。



 俺は他に五体のスケルトンの額に宝石を埋め込んだ。この調子で宝石を消費したらすぐに在庫が無くなりそうなので、三体目からは水晶の欠片にした。欠片が大きくて頭蓋骨を貫通したが、それはそれでオシャレだろう。IDEが開けないので設定はまた後だ。



 俺はペプを抱きながらキャンプに戻った。


 帰り道にドリルサイがいたので、突進してきたところにカウンターで回転槍を突き刺した。


 突進は止められないにしろ、ドリルの角より長い槍で突き刺し、一瞬だが充分なダメージを与えてから避ける戦法で、一撃で倒した。


 ドリルサイの血にまみれた回転槍の掃除は非常に面倒くさかった。辺りも死体も血だらけになったし、思いっきり返り血を浴びた。ダメだなこの武器……決戦兵器かな……それか誰かにあげようか……。



 キャンプに戻ってきた。幸い、特に何も起こっておらず、空気はどんよりとしたままだ。


「リーゼ、気分はどうだ?」

「……少し良くなってきたわ」


 表情は暗いままだが、自分でも心を強く持とうとしている、そんな雰囲気が伝わる。


「これを着けてくれ」


 俺はさっき作ったバングルを渡した。


「守護の魔法がかけてある」

「ありがとう、うれしいわ。一生大切にするわ」


 腕輪の方がリーゼロッテを大切に守るんだが……。まあ、それはいいだろう。永久機関だから末永く使って欲しい。


 永久機関……魔石がどうやらマナの結晶らしいことは分かるんだが、永久に魔力を発するようになるのが不思議だ。エネルギー保存則を無視している。それともそもそも俺の理解が間違っているんだろうか? 永久機関ではなくて、そのうち動かなくなるのだろうか? まあ、違ったらそのうち動かなくなるのでわかるだろう。



「明日の夜明け前に街に入って、様子を見てこようと思う。いったん外を見てくる」


 そう告げて地上へ出た。外に出ないと時間が分からない。太陽が出ていて助かった。昼の三時くらいだ。



 俺はそのまま地下十三階に降りて、なぜかさっきカイが取ってきてくれなかったフルーツと芋を採集した。きっとツノウサギを見つけて忘れてしまったんだろう。フルーツより肉のほうが好きなのかもしれない。



 地下九階に戻った。夜までまだ時間がある。


 俺は料理の作り置きをすることにした。ストレージには沢山の生肉がある。俺はイノシシのカツを作ることにした。


 乾燥したパンを削り、パン粉にする。イノシシの肉を切り、筋にナイフを入れ、塩を振り、棒で叩きまくる。肉が硬いのでとにかく叩く。溶き卵を付けて、パン粉を付けて、熱した油にドボンと入れる。火をガンガン焚いているので温度は問題ないはず。


 元の世界では、揚げ物は手間がかかるし汚れるので一切やらなかった。油も溶き卵とパン粉も使い捨てになる。もったいない。今はストレージに入れておけばまた使える。事故って油に火がついて燃え上がっても、ダンジョンの中ならなんてことはない。



 出来上がったイノシシカツを味見したところ、多少臭みがあるものの、固すぎることもなく、美味しく食べられた。油は街で買った植物性の油だ。問題ない味だ。


 残念なのは、いわゆるソースが無いことだ。中濃とかウスターとかの。あれはトマトから出来ている。他にリンゴや人参やらネギ類やらをミキサーで撹拌して煮込んで作るはずだ。この国にはトマトが無い。だから塩で食べるしかない。


 牛肉も同じようにカツにした。脂身いっぱいの肩ロースっぽいところを選んだ。もうどの肉がどの部位か覚えてない。こっちは臭みが一切無く、柔らかい。絶品だ。


 カツを揚げて、暫く置いたらストレージに入れる、それをずっと繰り返してストックを増やした。


 そうしているとクンツがやってきた。


「美味そうですな」

「そろそろメシにするか?」


 俺は出来たカツを皿に乗せて長ーいテーブルに並べた。スープ鍋も出した。それを見て、そこらにいたみんながテーブルに着いて、夕食会になった。


「これはなんという料理ですかな?」

「トンカツと言う。そっちは牛カツ。俺が前にいた世界の料理だ」

「なかなか美味いな」


 カイも気に入ったようだ。手を油まみれにして食べている。リーゼロッテも食べている。食欲はあるようだ。一安心だ。


 ただし、会話はそれだけだった。



 食後はまたそれぞれ離れて過ごした。今日は建設的な話はできないだろう。無理もない。


 目を閉じてIDEを開き、スケルトンのインプラントの仕上げをして、マナを充填した。これで六体の大容量スケルトンができた。早速二体を歩哨に立たせる。


 そして、残ったマナのほとんどを水晶電池に充電して、ペプを腕枕したまま寝そべった。



 スパーリングで身体を動かしていないからか、うまく寝付けない。いや、単純にまだ時間が早いからか。いろいろ考えてしまう。


 魔族。奴を倒すにはどうすればいいか。スケルトン軍団でタコ殴りにするのはどうだろう? 他の冒険者も巻き込んで、みんなでタコ殴りにするのはどうだろう? 


 そもそもタコ殴りってどういうことだろう? タコと言えば八本足が特徴だ。やはり多数の足でタコが何かを殴る様だろうか。水中の生物は殴らないと思うが。


 いや逆に、タコを殴る話だろうか? タコをみんなで寄って集ってタコを殴るのはどういうシチュエーションだろうか?


 寝付けないし、どうでもいいことを考えている。


 結局俺は、自分スリープをして寝た。



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