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城門前

 キャッスルヒルパート前の道に大量の足跡がある。これは、人間の、軍団の行進の跡だ。ついにイグレヴ王国が攻めてきたのか。


——リーゼロッテ……


 ヤバい、うっかりしてた。ヒルパートに何日潜ってたのか。長くて四日のはずだ。国王軍がいるからそう簡単には城門を突破できないはず。


 俺はアクセルを駆使して街へ急ぐ。



 街まであと徒歩で三十分ほどの場所で、イグレヴ王国の兵士が道を封鎖しているのに気づいた。


——どうしよう……やっつけるか


 二十人ほどいる。奇襲を仕掛ければ全員始末できそうだが……。戦況や街の様子も分からない今は時間が惜しい。迂回するか。


 俺は、ペプをハウスに入れ、飛んだ。



 自分の身体を真上に撃ち上げる。速度が落ちたら再度自分を撃ち上げる。城門前を一望できる高さまで上がる。高いところにいる、それだけで恐怖だ。


 虫地獄とはまた違った恐怖がある。虫は気持ち悪いだけだが、もし今、恐怖か何かで気を失うと落下して死ぬ。恐怖のために死ぬのが恐怖、おかしな話だ。しかしそういうことを考えている余裕はない。



 城門前を見渡すと、イグレヴ王国の軍勢が隊列を作って展開している。城門のすぐ前にはハロン王国軍が陣形を作っている。


 城壁の上と市内にも兵士が待機している。ぱっと見、ハロン王国軍はイグレヴ王国の半分しかいない。


 城のほうを見ると、そちらにも兵士が確認できる。王宮区画の門と王城の門を固めているようだ。


——リーゼロッテは王城かな……



 俺は街に向かって飛ぶ。脚が恐怖でぷるぷるしている。ダンジョンを出る前にトイレは済ませてあった。危なかった。


 城壁の端の方には兵士がいない。そこを目指す。歩けば三十分の距離も、飛べば五分ほどで着く。今は恐怖のためにおそらく体内時計が狂っているので本当に五分なのかどうかは怪しい。鼓動が速い。



 このまま高高度から接近すれば、誰にも見つからずに行けるはずだ。万が一見られても遠くからなら、鳥か飛行機かと思われるはず。飛行機はここにはないか。


 俺はうまく城壁の上に降りようと、アクセルで細かく落下地点を調整するが、諦めて城壁内の開けた場所に着地した。落下速度は殺しきったが、脚に力が入らないので膝をついた。


 俺は立ち上がり、城壁の上にアクセルで上る。



 もう一度じっくり、城門前を見渡す。門を守るようにハロン王国軍が陣取っている。元魔術師ギルドの部隊もいる。しゃもじを構えてるやつもいる。駄作とは言え、俺の作品を使ってもらえて嬉しい。いや、今はそんなことを考えてる余裕はない。



 最右翼には装備が個々にばらばらの一団がいる。冒険者たちが傭兵として参加しているようだ。


 普段は宿代をケチりたい行商や冒険者のキャンプがいくつもある場所だ。当たり前だが今はひとつのテントも見えない。


 城門前から道に沿って、木のガードレールがあったのだが、今は取り外されているようだ。代わりに、先がとんがった丸太でできた敵の侵入を防ぐ柵が並べられている。



 ハロン王国軍に相対してイグレヴ王国軍が、数百メートルの距離を空けて陣を敷いている。陣の後ろの方は森の中に入っている。俺がよくハウスに入るところだ。


 敵軍はほぼきれいに整列している。百人くらいのブロックが百数十あるようだ。前方には騎兵が横一列に並んでいる。


 イグレヴ軍の指揮官は遠くて確認できない。ルスランだろうか?



 ここからイグレヴ軍に向かってファイアボールを撃ち込みたい。俺の無限に長い距離を飛ぶ魔法ならここから攻撃できる。アイスボールも合わせて数百発はストックしてあるはずだ。


 まず敵のど真ん中に特大アイスランスを撃ち込むのはどうだろう? そこら一帯が海水のせいで植物が育たなくなっちゃうか。いや、今はそんな心配はしなくていいか。


 しかし、そこまでやるのは躊躇いがある。俺が住んでいる街を侵略しようとしている、そいつらを殺すのは俺はなんとも思わない。冒険者の中でも、モンスターは相手にできても人間は殺せないタイプがいる。そういう人たちの方が人して普通だと思う。俺は違う。この世界にきてすぐに人を殺した。悪いやつを殺すのはなんとも思わない。


 しかし、もしかして、俺は善人は殺せないんだろうか? という疑問もある。俺は今まで、俺を襲ってきたやつと盗賊しか殺していない。戦争ともなれば、徴兵されたのか志願したのかは知らないが、手を汚していない人間がたくさん参加しているはずだ。そういうやつに、顔が見えない距離からファイアボールを放つのが正しいことなのかどうか。いや、別に正しくなくてもいい。俺の良心が痛まないかどうかが心配だ。


 だが、今どこで陣形を作って立っているそいつらは、隣の国からわざわざ攻めてきて、俺の知り合いを殺そうとしている。俺の考え方は甘ちゃんなんだろうか。



——これじゃあの渋いおっさんに説教されても仕方がないな……


「よし!」


 気合を口に出した。覚悟を決める。ありったけの魔法を撃ち、その後リーゼロッテを守りに行く。



——ボウ!


 敵軍の最後尾で爆発が起こる。ファイアボールのようだ。特大の。しかし俺はまだ撃ってない……。


 次々と爆発が起こる。敵の陣が割れる。道を作るように。そして煙が燻る道を何かが歩いてくる。


 そいつを中心に人が割れ、輪ができる。そしてもう一度爆発。そいつの前方に道ができる。そして敵陣を抜け、城門に向かってゆっくり歩いてくる。


 自軍の兵たちも異常に気付いたのか、ざわざわしている。城門の真上の兵と城門前の兵が何か叫び合って、状況を知らせているようだ。



 そいつが近づくにつれ、容姿が見えてきた。そいつは筋骨隆々で肌が青黒く、スキンヘッドで、側頭から羊のような太く丸まった角が二本生えている。黒い口ひげを蓄えている。角と肌の色を無視すれば、四十代〜五十代の人間の男のように見える。


 おそらく革製と思われる黒い服を着ている。ノースリーブのジャケットのようだが、前を合わせずにベルトで止めている。縦のヘソ出しルックだ。武器は持っていない。しかし、一目で危険だとわかる。


 そいつは自軍の陣の前で止まった。そして、そいつから見て左上方にいる俺をまっすぐ指差した。




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