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ウツボ

 目が覚めて、朝のルーチンをこなした。空気の入れ替えもした。短時間だけど骨先生たちとスパーもして、いい汗をシャワーで流した。



 地下十五階に降りた。


 同じタイプのダンジョン階層だ。大アリのテリトリーなのか敵も少ない。


 通路を進み、何回か曲がった先に、大部屋に辿り着いた。壁際の床に大きな穴が空いている。アリの巣か? 巣穴から植物の茎のようなものが生えている。そして部屋には穴が三つある。


——なんか、アリの巣とは違うようだな……


 穴の中を覗いてみると、三メートルくらいの深さで、水が溜まっている。穴の側面は緑色でまだら模様になっている。土や岩とは明らかに違う。植物だ。


 別の穴を覗いてみると、大アリが水の中に沈んでいる。死んでいるようだ。


——これは……ウツボカズラか……


 食虫植物のウツボカズラがダンジョンの床の穴にぴったりハマっている。穴から植物が生えているのではなく、ダンジョンの壁から茎が伸びて、穴の中に罠が仕掛けられている。


 元の世界にあったウツボカズラは、もちろんこんなに大きくはない。大アリに合わせて巨大化したのだろうか? これだけ大きいと俺も危ない。


 俺は穴の周りに常夜灯の石ころを置いてマーキングした。



 ふと思った。ダンジョンの中で大アリはイレギュラーな存在、それをダンジョンが食虫植物で、絶滅させられないまでも数を減らしてるとか。捕まえた大アリはダンジョンのエネルギーになるとか。


 変な妄想をした。穴に落ちなければ安全だからウツボカズラは放っといて先に進もう。スケルトンも攻撃をしようとはしていない。



 曲がりくねった通路を百メートルくらい進んだところの、通路に隣接してる部屋の壁に大きな横穴がある。穴の周りに小石が積まれている。


——アリの巣?


 中を覗こうとしたら、スケルトンが俺の前に出た。そして大アリが穴から出てきた。


 スケルトン二体がアリと戦い始める。サクッと手足を何本か斬って、首を落とす。


——実際、スケルトンってめっちゃ強いよな……


 大アリが穴からゾロゾロと出てくる。俺は骨のお友達を二体追加した。部屋の広さ的に四体限界だ。


 見ているうちに、大アリの死骸が四体に増えた。まだ出てきそうなので、死骸をストレージに入れて片付ける。


 スケルトンたちは連携攻撃をしている。スパーでもやってるので知っていたが、どうやって連携しているのか不思議だ。声を出さない。アイコンタクトもない。目玉が無いからだ。



 数分で大アリの死骸がまた四つ増えた。もう出てこないようだ。


 巣穴を覗いてみた。横穴から、上にも下にも繋がっている。上の階のアリの巣と繫がっているんだろうか?


 俺は光る石ころを落としてみた。かなり深いところまで真っ直ぐ落ちた。危険だ。


 俺は先に進むことにした。



 地下十七階も全く同じだった。俺はスケルトン四体に前後左右を守られながら歩く。



 この階にも大部屋がある。部屋の中ほどに穴が空いている。ここにもアリの巣か。


 すると、スケルトンが穴の近くに駆けて行って、下を向いて剣を構えた。そのまま固まっている。大アリは出てこない。


 俺は穴に近づき、中を覗いてみた。ライトで照らしてもよく見えない。スケルトンたちは臨戦態勢のまま固まっている。


「ここに何かいるのか?」


 スケルトンたちは一斉に顎をカタカタと鳴らした。うるさい。


 俺は穴に光る石ころを入れてみた。


——?


 穴の壁がねちょっとしている……? 何か毛というか触手みたいなものが微かに動いたような……。


——穴の中に口を開けた何かがいるのか!


 俺は光る石ころを何個か投げ入れてみた。やはり何かの生き物の口の中っぽい。


——なんだこりゃ……


 ウツボがこんな感じで巣穴に籠もって獲物を狙ってるんだったっけ? 近づくとすごい勢いで飛び出してきたような。さっきウツボカズラがいたし。それは関係ないか。そもそもウツボは水の中の生き物だからこれは違うか。あれ? ウツボって口を開けて待ってるやつとは違ったっけ……。


 なんだろう? ワームってやつかな? ワームって筒状の虫の総称だと記憶している。単にワームじゃわけわからないな。



 俺は穴の中にファイアショットを何発か撃ち込んでみた。穴の壁がピクピク動く。飛び出してこない。何かのワームのようだ。ファイアショットで大したダメージを与えられないのはなかなか厄介だ。


——じゃあ水責めかな


 俺はワームの口の中に海水を流し込む。ドバドバ入る。二十秒くらい流しこんだが、溢れない。


 いったん止めて穴の中を見てみるが、海水は見えない。奥まで流れていったようだ。


 もう一度流し込む。海水は大量にある。しかしストレージを開けっ放しにするとどんどんマナが減る。


——こうなったら根競べだ


 ワームが死ぬのが先か、俺のマナが切れるのが先か。いささかレベルの低い闘いのような気もする。


 そのうち穴から海水が溢れでたので止めた。ちょっと水浸しになった。


——まだ死なないのか……?


 ちょっと様子を見ているとスケルトンが構えていた剣を下ろした。ワームは死んだようだ。ワームの口の中の水が引いていく。尻から流れているんだろうか?


 溺れたのか、海水の浸透圧で死んだのか、なぜ死ぬか分からないのに海水を流し込んだ。あんまり深く考えてなかった。まあ、浸透圧では死なないと思う。


——うーん、このワーム、きっとものすごくデカイよな……


 大量の海水が入った。なんとなく想像してみると、このダンジョンのワンフロアを占領するくらいの長さがある気がする。地下十八階は全部こいつで埋まっているのだろうか? または、真っ直ぐに下に伸びてるとしたら地下五十階とかまで伸びてるとか?


 死骸をストレージに入れようと思ったが、マナが足りなくて卒倒してしまいそうだ。諦めよう。



 先に進もうかと思ったけど、下の階は海水で水浸しな気がする。なんか、余計なことをやっちまったか。確かめてがっかりするのも残念だしな。


 それに、ここで二泊している。もしかしたら三日四日経ってるかも。隣国が攻めてくるから王女を頼むって、本人含めて三人から頼まれてるんだよな。


——かえっか……


 本音を言えばこのままここで連泊しながら攻略したい。海水が溜まってるなら引いて乾くまで泊まっていたい。


 でもリーゼロッテのことを思い出したら急に心配になってきた。


 俺はペプをハウスから出した。


「ペプ、帰るよ」

「ナア」




 帰り道もスケルトン四体にガードされながら歩いて行った。螺旋階段を上るのがキツかった。螺旋じゃなくて真っ直ぐならアクセルで直ぐなのに。


 十段くらいずつアクセルで楽ができないかと思ったが、細かいコントロールができず、着地の時に足を滑らせそうで、時間はかかるけど歩いたほうが楽だった。


 虫地獄の大部屋はヤスデが五匹いるだけで、スケルトンがサクッと倒して余裕だった。


 そんな感じで俺は全く戦うことなく地上まで帰ってきた。



 キャッスルヒルパートのすぐ前の道が、大量の足跡で踏み固められているのにすぐに気付いた。




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