地下神殿
シスターと別れたあと、俺は地下神殿を探索することにした。自分の強さを確かめてみたい。そしてあわよくば宝物を。あるのかどうか知らないけど。ダンジョンからのドロップで生計を立てられたら、働かなくていいな。
ペプと一緒に長閑な農道を歩いて行く。途中の草原でペプを放し、運動させてあげた。
俺は木の陰で用を足した。狭いセーフハウスじゃどうもやる気がしない。トイレ部屋だけもうひとつ作ろうか。いや、もっといい感じの家を手に入れて、今の小屋をユニットバスに…… なんか楽しくなってきた! ま、いい感じの家は普通は落ちてないと思うが……。
そして地下神殿に着いた。灰色の石造りのちっちゃい神殿っぽい遺跡、みたいになってる。殺風景な石の扉が半地下に埋まってる。地下神殿と聞いてなかったら扉とは気づかなかったかも知れない。
扉を横に滑らせると、大きな音とともに地下神殿への通路が口を開けた。
「ペプ、今から探検するから、ハウスに入ってて」
俺はローブをストレージに入れて、レザーアーマーに着替えた。ストレージから直で身につける。ヘルメットも直接装備。変身だ。カッコいい。誰にも見せないけど。ヒーローは正体を知られてはならない。
俺は松明を掲げながら階段を降りた。
降りると廊下になっていた。驚くことに壁が青白く光っていて、松明がなくてもよく見える。正確には壁ではなく壁に埋め込まれた石だ。何個も埋め込まれている。位置に規則性はないようだ。
俺は石を一つストレージに吸い込んで、手に出してみた。テニスボールの大きさだ。石自体が光ってる。元の世界だと壁に電気配線が通っていて、LEDが光ってて石は透明プラスチックってのが相場だが。壁には小指の先くらいの大きさの石から、拳大の大きさの石まで、様々な石が埋まっている。形は等しく楕円形だ。
これはストレージハウスの照明にピッタリだ。俺は何個か、廊下が暗くならない程度に石をストレージに集めた。
——しかしこれ、どうして誰も持っていかないんだ?
壁を剣で削ってみる。が、傷がつかない。壁がすっげえ硬い物質でできている。破壊不能だったりして。それで、はめ込まれてる石が取り出せないんだ。なにこれすごい。ただのオンボロ遺跡かと思ってたのに、全然違った。遺跡のバックストーリーが何も分からないから、すごいとしか言えない。いきなりファンタジー要素百二十パーセントか。お宝の予感がしてきた!
俺は先へ進むことにする。剣を構えつつしばらく行くと、通路が直角に右に曲がっている。なにげなく曲がってみたら、部屋になっていた。光る石でハイになって油断してた。部屋に入った右側の死角から、火の玉が飛んできた。
「あちい!」
野球のボール大の火の玉が肩に当たった。そして燃え広がる。買ったばかりの鎧が! 慌てて火を消す。飛んできた方を見ると、インプがいた。初めて見るが、多分インプだ。背は俺の胸くらいまで、黒くて、微妙に中腰っぽい。顔はあんまり怖くない悪魔顔だ。
撃ったのはファイアボールってやつか。物理的な痛さはないけど、火傷するし燃え広がる。
二発目が飛んできた。見えてればなんのことはない。ストレージに吸い込んだ。
俺はインプに走って近づき、剣を振り下ろした。避けられた……。今度は横に振り払う。避けられた……ヤバい、永遠に当たらない気がする。そして至近距離からの三発目のファイアボールをギリギリで吸い込む。
俺はストレージからインプの頭の上に大量の土砂を出した。インプは頭まで土砂に埋まる。心臓があるのか急所なのかわからないが、埋まってるインプの左胸を狙って剣を突き刺した。手応えあり! 何回かグサグサ突き刺した。
剣を抜いて、インプだけストレージに入れる。入ったってことは死んだってことだな。土砂も回収した。
腕に火傷を負った。肩はレザーアーマーで守られていたが、腕に延焼した。鎧を脱いで傷口を確認する。
――回復魔法で治るよな、きっと。
シスターが使えるって言ってたから行ってみるか。
俺は部屋を見渡した。他にモンスターはいないようだ。まあ、近くにいたら既に戦闘になってるだろ。入ってきた方向から突き抜けるように通路が延びている。少し暗いがその先がまた明るくなっている。
部屋の壁にひときわ大きい光る石が埋まってた。気になったのでそれをストレージに吸い込んで、いったん街へ戻ることにした。ローブに着替えて出口へ向かった。すると……
「いたぜ」
見知らぬ男が三人、入り口から入ってきて俺を取り囲んだ。既に剣を抜いている。コイツら……悪者だ。俺はさっきのタイミングで剣をストレージに入れてしまった。
「魔法使いか?詠唱させるなよ」
「へへへ…… 命をもらうぜ」
分かりやすく襲ってきた。冒険者の振りをして近づいて不意打ちってのがパターンかと思うんだが、こっちが一人、徒手空拳なので舐められたようだ。と言っても俺には戦闘経験がほとんどないので、間違ってない。事実、心臓バクバクで足はガクガクだ。声を出したら超震え声なんだろうな。かっこいいセリフも思い浮かばないが。
しかし、賊どもが計算違いなのは、俺がストレージっていうチート魔法が使えることだ。あ、あと土魔法のブラインドがあった。
——ブラインド!
ストレージから出した砂で、三人の目を潰す。
「ぐわっ!」
「なんだこれ!」
「てめえ!」
賊どもはパニックになった。俺はそれを見て落ち着きを少し取り戻した。そして……
——ディスアーム!
一番近い男の剣をストレージに吸い込む。次に革鎧とベルトにぶら下がってるナイフと革袋、靴。そして剣を出して、男の膝をざっくり斬った。ゾンビを倒したときと違い、やっぱ人間相手は嫌な感じがする。
同じことを残りの二人にも繰り返した。殺してやりたかったが、なにか抵抗感があった。自分ではやりたくないが、モンスターに襲われて死んでくれれば万々歳だ。
賊どもは救いを求めたり呪詛を吐いたりしていたが、俺は構わず地下神殿を出た。そして一目散に逃げた。