9話 いざ森の中へ
死の森の入口に来た俺たち。
見知った顔がそこにはあった。
それを見て思い出した。親父の言葉を。
「久しいなアイン」
俺の兄貴アイムがいた。
こいつは何もかもが優秀だ。
「大出世したはずのあんたがこんなところに来れるんだな」
「何、近衛騎士団長というのも暇でな。王に願い出てみたのだが意外とすんなりとキングスケルトンの討伐許可が降りて来たというわけだ」
そして周りには部下なのか。
彼と同じような衣服に身を包んだ兵士がいた。
「それであんたがここに来たというわけか。ご苦労なこった」
わざわざ1人の白魔道士のためにご苦労なものだと労いたい。
「おいガキ!口の利き方には気を付けろよ!ここにいるのは王国始まって以来の天才アイム様だぞ!」
俺達の会話に入ってきた部下の1人。
それにしても王国始まって以来の天才か。
残念ながらその血は俺に流れていないのが悲しい話だ。
「寄せ。一応あれは俺の弟だった奴だ。多少の口の悪さは見逃してやれ」
強者の余裕というやつなのかそんなことを口にしている。
「今のうちに叫ばせてやれ。しょせんは無様な負け犬だ。最後に兄に対して強気でいたい気持ちを理解してやるがいい」
「そうでしたな。失礼」
兄と部下の会話を聞いて1団は笑い始めた。
「外れの白魔道士如きが剣聖と呼ばれるアイム様に勝てるはずもないのにですね。夢を見させてあげるアイム様は本当に心が広い」
部下の1人がそう言った後にアイムはシオンに目を向けた。
「シオン。今なら父様も許してくださると言っていた。その無能から離れてこちらへこ………」
「えーやだ」
「な………?」
シオンを誘ったのだろうが言葉の途中で拒否されたことが意外だったらしい。
「だって。アイム弱いもん。アインの方が強いよ」
「貴様!アイム様になんという口を!」
その言葉を受けてしばらく絶句したアイム達。
しかし次の瞬間だった。
「俺がそこの白魔道士より弱いだと?」
俺に向かって斬りかかってきたアイム。
その一閃をシオンが防いでいた。
王国始まって以来の天才の刃を防ぐシオン。
俺の傍にはかなり優秀なボディガードがいたらしい。
「うん。弱いよ」
「くくく、ふははは………俺が白魔道士如きの下に立つ日が来るとはな………」
ひとしきり笑ったアイムは死の森の入口に向かい始めた。
「シオン。お前は見逃してやろうと思っていたがやめだ。俺がキングスケルトンを討伐した暁には貴様らを侮辱罪として裁いてやる」
「それは怖いな」
鼻で笑って答える。
「ゴミクズの白魔道士が………今から泣き叫ぶ姿が楽しみだ」
そう言って今度こそ死の森へ入っていった。
今までのやり取りを呆然と見ていたレイナが口を開いた。
「まさか騎士団長の弟なら………ダーリンはもしかしてベルトリーチェ家の人なのですか?」
「正確に言うなら今は違うがな。俺は追放されたんだよそのベルトリーチェ家様にな」
「ダーリンは追放されたのですか?酷い話ですわね」
別にそうは思わないが酷い話なのだろうか。
「別に普通だろ?あの家は魔法剣士を輩出していた家だ。俺みたいな白魔道士なんざ出したくないだろう。そうなれば追放して縁を切るのは正しい判断だと思うが」
そう答える。
「ひ、酷いですよ。そんなの」
しかしシェリーは酷いと思っているらしくそう言っている。
「そうか?」
「そうだよ。普通自分の息子なら縁なんて切らないよ」
呆れたような顔をしているシオン。
俺の感覚がおかしいのだろうか。
「まぁ、何でもいいんだけどさ。とりあえず俺たちも入ろうぜ。このままじゃ遅れるだけだし」
そう言うと俺は3人に移動速度アップ攻撃力アップとか様々な魔法をかけた。
「す、すごいです!すごく力が湧いてきます」
俺は大したことをしていないと思うのだがそう口にしたシェリー。
「ほんとなのだわ!すごいですわ!ダーリン。今ならなんでも出来そうなのだわ!」
どうやらそれはレイナも思ったことらしい。
ふむ。普通のバフ魔法だと思うのだが効果が強かったのだろうか。
「ほんとにアインの魔法ってすごいよね」
苦笑いするシオン。
「そうか?」
何故か俺の耳元で囁く彼女。
「だって私達のステータス全部Sランク冒険者になれるレベルだよ」
「そうなのか?」
「私女神だからステータスが見えるんだけど紅蓮団の人達のステータスを上回ってるくらいだよ」
「それは本当なのか?」
頷くシオン。
どうやら本当のことらしいな。
「本当に恐ろしいよアインは。でもお陰で楽できそうだから嬉しいんだけどね」
そう言って微笑む彼女だった。
シオンは気付いているのだろうか。
真に楽なのはバフかけて終わりの俺だということに。
※
そうしながらどんどん奥へ進んできた俺たち。
「モンスター近付いてこないねー」
そんなことを口にするシオン。
確かに。
俺達がここにくるまでに1度もモンスターを見ていない。
「あれモンスターじゃないんですか?」
シェリーが指さした方の草むら。
そこは確かにモンスターがいた。
スライムだ。
「震えていますわね。ふふふどうやらダーリンの強さに恐れ戦いているようですわね。モンスターの癖に頭が宜しいですわね」
そんなことを口にしているレイナ。
「俺じゃなくてみんなのせいじゃないのか?」
俺にもバフは乗っているがそれだけだ。
俺は白魔道士でそれ以外のことは出来ないからその可能性があるとすればみんなのせいだろう。
「いえいえ!ダーリンの強さにビビってるのですわ」
そう言いながら俺の右腕にしがみついてくるレイナ。
「さぁ、行きましょう!キングスケルトンすらも恐れ戦かせましょう!」
そんなことを言って俺の腕を引っ張って先に進むレイナだった。