6話 治療できた
シオンが娘さんを俺が治すと言ってから暫くしたらまた爆笑の嵐が起きた。
「おいおい、白魔道士には無理だって」
その中心はサムだった。
「白魔道士がどういう職か知ってるのか?嬢ちゃん」
「馬鹿にしてるの?知ってるよ」
「なら口が裂けてもそんなことは言えねぇと思うがね」
必至に笑いを堪えているサム。
「親がなってたら恥ずかしくて友達に言えない職だって、白魔道士アインが死んでからずっとそんなこと言われてる職だぞ?」
しかしついに笑いを堪えられなくなったのか。
笑いながらそう口にしたサム。
「そうだぞ嬢ちゃん。白魔道士はゴミの産廃職だ。今や白魔道士として活動している人数は0と言われてるほどだぞ?常識知らずのアホなのか?そんなやつにヒーラーの真似なんてできるわけないだろ?」
周りの野次馬もそうやって口々に言っている。
そう言われても無言で俺を見てくるシオン。
分かったよ。やればいいんだろ。
「俺が治す」
そう口にして騒ぎの中心にいる親子の方へ歩みを進めた。
「おいおい白魔道士。余計症状が悪化すんだろ?近付くなよ。ゴミムシがよ」
サムにそう言われたがシオンにそこまで言わせてじっとしている訳にもいかないだろう。
「黙れ。お前らはシオンをアホ呼ばわりした事に対する懺悔の言葉の1つでも考えておけ」
サムと周りにいる野次馬共にそう告げてから母親に目をやった。
「俺は言われた通り白魔道士だ。それでも俺を信じて娘さんの治療をさせてもらえないだろうか?」
「白………魔道士………」
やはり反応は芳しくない。
おのれ恨むぞ前世の俺。
「勿論。無理にとは言わない。信頼も何も無い底辺の白魔道士がこう言ったところで説得力の欠けらも無いのはさすがに理解できる」
「お願いできますか?」
しかし、何を思ったのかそう言ってくれた。
「奥さん。話を聞いていましたか?こいつはあのゴミの白魔道士なんですよ?ウチのビルドに頼んだ方が安全ですよ?」
そう問いかけるサムだが母親は首を横に振った。
「私にはとてもこの人が嘘をつく人には見えません。お願いできますか?勿論希望がありましたら報酬もお支払いします」
それは天の言葉に聞こえた。
口許が歪む。
ここまで来れば………後は簡単だ。
「全力を尽くさせてもらう」
そう言ってから少女をベンチに寝かせてもらう。
症状を見る限りやはりかけられた呪いは死の誘いだろう。
放置していれば確実に死に至ってしまう恐ろしいデバフ。
「無理だろ白魔道士には。それに紅蓮団のヒーラーって何百年に一度の天才って言われてるんだろ?」
「そうだよな。Sランクヒーラーが10人集まってようやく治せるかどうかってレベルのデバフだろ死の誘いって」
そんな言葉を野次馬達が口にしていた。
しかし、そんなもの関係ない。
ラストバトル補正を受けている俺はそいつらの何倍もの力を1人で使うことが出来るのだから。
「母なる神よ」
呟いて右手を少女の腹部に当てる。
イメージするのはただ少女を快復させることだけだ。
「………彼女を癒したまえ」
俺がそう呟いた瞬間。
俺の右手が触れた少女の腹部を中心にそこから緑色の波紋が広がる。
「おい、何だよあの魔法!」
「普通のヒールだろ?でも、何かおかしいよな?」
そんな言葉が後ろから聞こえてくる。
そうだ俺の使った魔法はただの初級魔法のヒールだ。
ヒーラーであるなら誰もが使えると言っても過言ではない魔法。
「おい、見ろよあれ!」
「す、すげぇ!!!!死の誘いのマークが消えてる!!!!」
野次馬の中の1人が少女の額に浮き出ていたドクロのマークを指さした。
今は徐々に薄れていっている。
これは解除が進んでいる証だ。
「すごいです!死の誘いを解除できる人なんて初めて見ました!!」
シェリーがそう言って近付いてきた。
すごく興奮しているらしい。
「ば………ばかな!白魔道士に死の誘いを治せる訳ないだろ?!」
「あ、有りえない!白魔道士が………死の誘いを解除するなんて!!」
サム達はそうやって俺に近付いてきた。
しかし逆にお礼を言ってくる母親。
「あ、ありがとうございます!このご恩は一生忘れません!」
「大したことじゃない。直ぐに忘れてもらっても構わない」
自分でも大したことないと思っている。
だって使ったのはただの初級魔法だ。
「白魔道士お前何をした?誤魔化しただけだろ?」
サムが俺に絡んでくる。
「ただの初級魔法だぞ?それに誤魔化してどうするんだよ。俺は旅人ではないから悪評が広まるデメリットの方が大きいのに誤魔化してどうするんだよ」
そんなのリスクが高すぎるし。
「そもそも誤魔化すなんて何の意味があるんだよ。治した方が早いだろ」
「ぐぬぬぬ………」
それで言い淀む男。
「本当になんとお礼を言ったらいいか」
母親が涙を流して俺にそう言ってきたが本当に気にしなくていいんだがな。
「すげぇ!!!!あの男すげぇな!!!!死の誘いを解除するなんて」
「ほんとに!あんなにすごい人初めて見た!」
それに野次馬達の変わり方を見ればなんだって良くなる程だ。
「嬢ちゃん酷いこと言って悪かったな!その人は本物のヒーラー様だ!」
「俺も悪かったな嬢ちゃん!白魔道士じゃなくてヒーラーだって言ってくれたら信じたのに」
ん?
思わず野次馬達の方を見た。
「あんなことできるのはヒーラーしかいねぇよな!」
「何で白魔道士って名乗ってるんだろヒーラーの方が絶対人気になれるのに!謙遜してるのかな!」
待て待て待て。
俺は白魔道士であってヒーラーではないぞ?
それを訂正しようと口を開こうとしたが
「ありがとうございます。ヒーラー様!お名前を教えては貰えませんか?!」
母親もそう聞いてきたし訂正するのも無駄なように思えてきた。
「アインだ」
「アイン!素敵な名前ですね」
「アインおちいちゃん!ありがとう」
その時黙っていた娘も俺に礼を言ってきた。
うむ。やはり無駄かもしれないな。
それにしても勘違いされているのは遺憾ではあるが別に今正さなくてもいいだろう。
それよりも
「紅蓮団って実は大したことないんじゃねぇの?」
「そうだよなぁ。ヒーラー様が無償でやってくれたことを金貨100ってぼったくりだろう」
「失せろよ!紅蓮団!いつまでここにいるつもりだ!ここはヒーラー様以外いなくていいんだよ!この他人の悪評を流すことしかできないゴミムシ共めが!」
「そうだ。そうだ!失せろよ!!」
見事な野次馬達の手のひら返し。
「ぐ………覚えていろよ白魔道士。俺はお前を認めない」
それを聞いたサム達は悔しそうな顔をして急ぎ足で去ろうとしていた。
いい気味だ。
今はヒーラーと勘違いされていることよりもこの光景を見れたことによる満足感の方が大きかったのだった。
それに改めて自分の力の強さを実感した。
これなら、四天王討伐も夢じゃない。
親父を見返せる。