3話 追放されてしまった
バーチェに呼ばれて俺達は父親の書斎まで来ていた。
理由は勿論分かる。
「お前達の神託の結果は既に聞いている。シオン、魔法剣士良かったな」
魔法剣士はこの世界で一番優遇されている職だ。
これ以上の職はないしそれに適性があるという話なのならば、こうやって祝福されるのは当たり前の話だ。
「はい。ベルトリーチェ家の名にかけて」
シオンは胸を張っている。
しかしその次に俺に向けられた視線はやはり芳しいものではなかった。
「して、アイン。お前はどうしてそうなのだ?」
「何でだろうな」
「我がベルトリーチェ家は有能な魔法剣士を多く輩出している。それは知っているな?しかしお前は何だ?白魔道士?」
「………」
父の目は本当に鋭い。
それが実の子に向けるものかと問いかけたくなるほどに厳しい。
「小賢しいゴミの白魔道士の適正がお前にはあると?今までにこの家出身の者で白魔道士になった者は皆無だ。その意味お前に分かるか?」
「分からん」
「この面汚しが」
きつく睨まれる。
そう言われても仕方がないんだが。
「もういい。お前とは縁を切るぞアイン。今までご苦労だった。後は好きに生きるがいい。お前は今日でこの家から追放だ」
「え?」
突然の追放宣言に面食らった。
俺が追放?
「声が聞こえなかったか?白魔道士。貴様など不要だとそう言ったのだよ。そもそもお前はシオンが必死に修行している中お前は何をしていた?」
「何ってそりゃ、魔法の修行だよ。魔法剣士なんだろ?魔法も必要だろうが」
流石に納得できない。
「その口切り落としてくれるぞ?」
そう言った直後バーチェは俺の首を狙って剣を振っていた。
しかし俺に届くことはなかった。
「父様おやめ下さい」
それを静かに受け止めるのはシオンだった。
「ここで血を流されるつもりですか?」
そう言われ俺をきつく睨む親父。
それしかできないのを見て笑う。
「どうやら可愛い娘は俺に味方するみたいだぞ?いやぁ、俺もいい妹を持ったものだ」
そう口にすると拳を握りしめている。
「出ていけ。お前は不要だ。白魔道士?笑わせるなよ?一族の恥が。今後私の前に顔を見せるな?」
「分かったよ」
どうやら本気らしい。
俺に出ていけというのは嘘偽りでも冗談でも何でもないらしい。
「世話になったな。親父。だが後悔するなよ?俺を追放したこと」
「相変わらず口だけは達者だなお前」
「口だけかどうかその目でしっかり見定めるんだな。この近くに魔王四天王の1匹がいるだろ?俺が近いうちに倒してやるよ」
「ほう。吠えるなお前。それならこちらも手がある」
そう言いくくくと喉を鳴らして笑う親父。
「お前の兄アイムは既に天才騎士として働いている。あいつに先に四天王を討伐させる。そうなった場合貴様の悪評をばらまく。生き地獄を見るがいい」
「勝手にしろ」
そう吐き捨てて部屋を出ることにした。
※
とまぁまんまと追放された俺だが内心悲しかった。
「どうしよ………」
大口叩いたがどうしよう。
飯は?洗濯は?
考えることは山積みだ。
そもそもこれから野宿しなくてはならんのだろうか?
「ごめんなさいしてきたら?」
「断る!」
それだけはない。
隣のシオンにそう伝える。
「お前はどうするんだ?俺に付いてきてくれたりはしないのか?可愛い妹よ」
「同行するよ?だってアインは最強の白魔道士だし。付いていけば楽できちゃうもん」
「なら俺様の飯を作る権利をくれてやる。有難く思え。ふはははは」
「むむむ………何かムカつくけどその権利を貰っても余りあるくらいの楽が出来ると思えば………」
俺自身はそこまで強いと思ったことはないのだがシオンは俺のことをそれだけ強いと思ってくれているらしい。
「とりあえず王都に向かうぞ。この辺境の田舎だとゴミみたいな依頼しかないしな。それにギルドもない」
冒険者として金を稼ぐにはモンスターを討伐したりするしかないのだがその依頼もこんな田舎よりも王都の方が多いし高額な依頼もある。
「そうだね。とりあえず冒険者ギルドに登録しておいて損は無いしね」
王都には自分たちの個人情報を登録してより優位に冒険を進めることの出来る冒険者ギルドというものがあったはずだ。
とりあえずそれに登録したいものだな。
「と、なればレッツゴーなのだ」
シオンの手を引いて王都ソルガレアに向かう。
そして、それがあったのは村を出て草原を歩いてしばらくした頃だった。
「キャァァァァ!!!!!」
女の子の叫びが聞こえたのでそちらを見る。
「何だあのトカゲ」
初めて見るサイズのトカゲだった。
小さな山くらいはあるだろうサイズのトカゲ。
それが黒髪の少女を襲っていたので近付くことにした。
「お困りか?」
「え?あなたは?」
「誰だっていい。お困りか?」
「は、はい!」
答えてくれたので軽く自己強化魔法を使ってその辺にあった小石を拾う。
そうしている間にもトカゲの口にはエネルギーが集まっていた。
そして
「危ないです!」
それは少女が言葉を発した瞬間に放たれた。しかし
「遅いわトカゲ」
俺の方が動くのは早かった。
石をトカゲの顔に向けて投げつける。
放たれた炎の球を打ち砕いて前進するその石はやがてトカゲの横顔にぶち当たる。
「グォォオォォオォォ!!!!!!」
叫び声を上げてその場に倒れたトカゲ。
「偉くサイズの大きいトカゲだな。しかし弱かった。バフをかけてはいたが石ころ1発で倒せるとは」
そう呟いた俺をポカーンと口を開けた顔で見つめる少女。
シオンは苦笑いだ。
「俺の前に立つならもう少し骨のある敵がいいな。例えば我が永遠の宿敵ライバルゴブリンとかな。ところでこんなにサイズのでかいトカゲなど初めて見たがなんなのだろう」
「トカゲじゃないですよ?!討伐難易度SSSランクのドラゴンですよ?!」
驚いた顔でそう言う黒髪の少女だった。
「ん?ドラゴン?嘘をつけよトカゲだろ」
ドラゴンというのは俺も聞いたことがあるが石ころで倒せる訳が無いだろ。
その討伐難易度の高さはSランクパーティ複数が大規模なチームを組んでようやく倒せると聞く。
「ううん。あれはドラゴンだよ」
しかしシオンもそう口にした。
「それは本当か?」
「うん」
「だから言ったじゃないですか!偉業ですよ!偉業!すごいですよこんなの!石ころで倒すなんて聞いたことないです!」
はしゃいでいる女の子。
俺は何かやってしまったのかもしれない。
世界の常識を打ち砕くような事をしてしまったのかもしれない。