2話 神託の儀式
俺アインは転生者だ。
いわゆる前世の記憶を持った転生者。
偶然だが転生前の名前もアインだ。
転生後は貴族の子として生まれた。
現在16歳。
そして
「もう………アインのせいで………」
「その話はナシだろシオン」
駄女神様のシオンは俺の妹として同じ家に生まれていた。
お互い前世からの記憶は持たずに生まれたかったものだ。
「私の女神様人生がー面倒臭いー」
「とは言ってもどうせ俺に寄生する気マンマンなんだろ?」
普段から事ある事に面倒を見ろ面倒を見ろとそんなことばかり言っているのだこの人は。
「当然。そもそもアインのせいで人間になっちゃったんだからね?」
自称女神様らしいがそれらしいことは何一つ出来ない。
人間の肉体に乗り移った段階で人の域は出られないらしい。
「そう言えば今日は適正職が分かる神託の儀式の日だよね?」
その言葉を聞いて思い出した。
今日は教会に行くと神父から自分の適正職を教えて貰える日だ。
とは言え
「俺はわざわざ神託を受けなくても分かるがな」
あの時に俺はもう一度白魔道士になれるようにしてもらったから。
「でも白魔道士ってやばそうじゃない?」
「………大丈夫だろ」
シオンが何を言いたがっているのかは分かるがあえて無視だ。
「子供のなりたい職ランキング圧倒的最下位で今白魔道士として活動してる人0人みたいだけど?」
「………大丈夫だろ。流石に言いすぎだろ?0はないと思うわ0は。ここに候補生が一人いるし」
自分に言い聞かせる。
うん。
どうやら前世の俺のやらかしのせいで白魔道士は人気がなくなってしまったみたいなのだ。
そして中には白魔道士事態を無くそうとしている奴らまでいるらしい。
「オワコン白魔道士。未来ない白魔道士。お前の枠ねぇぞ白魔道士。ゴブリン以下の魔道士。カス魔道士。散々な言われ方だけど」
「最後のは白魔道士のことじゃないだろ?」
「明らかに白魔道士のことだと思うけど」
ジトーっと見てくるシオン。
「これ、全部私がこっちにきて聞いたことある言葉だよ。やばくない?」
「………でも俺白魔道士にしか適正ないんだよ」
それは前世からそうだった。
前世から白魔道士のイメージはイマイチだったがこれしか適正がなかったのだ。
そして今回もそうではないだろうか。
「ま、頑張ってね」
「ラストバトル補正のある俺に不可能はないからな」
人事のように言っている彼女にそう返す。
そうだ。俺には最強無敵の特性があるのだ。
※
教会に移動してきた俺達。
もう既に俺達と同じように神託を受ける人が集まっていた。
そして儀式自体は既に始まっていた。
未来ある若い人間が前に出て壇上に立ち神父から適正職を教えて貰っている。
ちなみに妹のシオンは既に分かっており魔法剣士だそうだ。
「アイン・ベルトリーチェ。こちらへ」
そして俺の番。
「この聖杯に血を落としてください」
「あぁ。分かった」
言われた通り儀式用のナイフを手に取り薄く指の皮を切り血を流す。
聖杯に血が流れ落ちて底を赤く染める。
その瞬間。聖杯は白く輝いたかと思えば緑に輝き始めた。
この光り方は白魔道士だ。
間違いない。俺は前世でもこの光を見たから。
「お、おいあの光り方って………」
「あれ白魔道士だよな?」
後ろからざわめきが聞こえてきた。
俺が最強職の白魔道士としての適正があったからってそう僻まないで欲しいものだな。
なんて楽観的なことを考える。しかし現実はそれほど優しくなかった。
神父の顔を見ると厳しい顔をしていた。
「………私からはノーコメントで」
「は?ノーコメント?!!!!」
一瞬の沈黙。
「ご武運を。アイン・ベルトリーチェ。世の中には知らずにいた方が良いこともあります」
そう言い次の人を呼び始めた神父。
呆然と立ち尽くす俺。
え?ノーコメント………?
え?え?え?え?
神託の儀式とは………いったい………?
「白魔道士なんてだっせぇぇぇぇ!!!!」
「最弱産廃職適正可哀想すぎるだろ」
俺が我に返って壇上から去ろうとしたとき、教会内は嘲笑うような声で包まれた。
「ノーコメントで、って事は白魔道士にしか適正なかったんだろうな本当に可哀想」
中には本気で同情するような声もあった。
「おいおいおい………」
一人呟いてシオンの近くに戻る。
「どう?これが白魔道士の評判みたいだけど」
「もういい。帰る」
彼女にそう告げて俺は家に帰ることにした。
どうしよう………。
白魔道士の評価は知ってはいたが、ここまでやばい職だとは思いもしなかった。
※
「あいつが白魔道士の奴か?」
「見た目弱そう」
俺が教会を出て直ぐなのに既に噂は広まっていた。
何故こんなに早いのだろうか。
いくら小さな村だとしても早すぎるだろう。
「始まりの草原でゴブリンの矢を受けて倒されそう」
「絶対負けないイベント戦で1人だけ死にそう」
その言葉を聞いてぶふっと笑っているシオン。
その後に口を開いた。
「1人だけイベント戦負けそう」
「………今度は負けない」
そのために修行だっていっぱいしてきた。
前世の俺は確かに修行をサボっていた。
しかし俺は今回は頑張ったのだ。
ゴブリンに負けないよう。
全てはゴブリンに負けて1人だけラストバトルで死なないように修行してきたのだ。
「俺は自己強化も出来るようになったからな」
ふふふと笑う。
これは前世で出来なかった事だ。
前線に立つのは戦闘職だから白魔道士は自己強化はしなくていいし出来なくていいというのが暗黙の了解だったが、俺は今回その決まりを打ち砕いて自己強化を使えるようにした。
「そう。全てはゴブリンなんかに負けないために」
「屈しそう」
あんまりなことを言うシオン。
「それよりどうするつもりなの?白魔道士の評判って今聞いたものだけどお父様に知られたら」
「やばそうだな」
今から言い訳を考えておく必要は確かにあるかもしれない。
だがどんな言い訳にしようか。
「ふむ。もう素直にきっぱりと伝えるしかないように思うな俺は」
そう言いながら家の前まで戻ってきたのだが。
「父様………」
隣のシオンが庭の途中で立ち止まって見上げたと思った時には遅かった。
俺は壁にぶつかっていた。
「アイン。前は向いて歩けといつも言っているだろう?」
そこには我らの父。
バーチェ・ベルトリーチェがいた。
やばい、この顔は怒っているときの顔だ。