1話 駄女神からの贈り物
魔王とのバトルも終盤だ。
このバトルに俺達が負ければ世界は魔王のものとなり暗黒時代が幕を開ける。
そんな状況下で俺は仲間を強化する。
俺は勇者パーティに所属するサポーターの白魔道士だ。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
叫びながら魔王に突っ込む勇者。
「頑張れ!勇者!!!!!」
他のパーティの少女達の応援する声が勇者に届く。
俺を応援してはくれないのか?!
そんなことを思いながら傷ついた勇者を回復させる。
今世界中の祈りが届きそれは力となり俺達を強化していた。
勝ちは決まっていたのだ。この段階で
「おのれ!私一人では死なぬ!」
その慢心からだろう。
勇者は倒してくれるそう信じていたせいもあるのだろう。
「さっきからちまちまと補助ばかり鬱陶しい!白魔道士!貴様も道連れだ!」
最後の足掻きで魔王の呼び出したゴブリン。
玉座の後ろから急に現れて弓を構えたのだった。
「………えっ?」
俺の胸に突き刺さる弓矢を見て満足そうな顔をする魔王。
「この魔王である私だけが死ぬのは………気に食わん。せめて刺し違えてでも………お前は自身を強化出来ないのだろう?」
ニヤッと笑う魔王。
確かに俺は自己強化が出来ない。
揺らぐ景色。
「………風が………止まる?」
倒れる俺の体。
そんな俺を心配して声をかけてくれる仲間。
記憶があったのはそこまでだった。
※
「ごめん。イベント戦負けるとか笑いが止まらないんだけど」
次に目覚めた時俺を煽るような声が聞こえた。
目覚めると周りには雲が浮かんでおり、というより俺は雲の上に立っていた。
目の前には頭に円盤を浮かせた女。
「絶対に負けないはずのイベント戦でしかもゴブリンに負けるヤツおりゅ?」
目の前の女は必死に笑っていた。
「今どんな気持ち?聞かせて欲しい。ねぇねぇ」
俺に詰め寄ってくる女。
「あんた誰だよ」
「私は女神だよ」
笑いを堪えながらそう自己紹介してくれた女。
「君は死んだの。ゴブリンに殺されてね。ぷぷっ。しかもイベント戦だよ?」
「それがどうしたんだよ。世界が救われたんならそれでいい」
「でも君は救われてないよ?」
まぁそれはそうだが。
「そんな君にチャンスを与えます」
胸を張る女神様。
「チャンス?」
「どう?転生したい?」
「まぁそりゃこんなところにいるよりは」
こんな何も無いところにこれ以上いるつもりもない。
「そんな君に朗報です。今なら生まれ変われるんだよ。ということで可哀想な死に方をした君に女神様キャンペーン。何でも1つ好きな物を来世に持っていかせてあげる」
ふむ。
だいたいは分かった。
「なら、もう一度白魔道士になれるようにとかってのはできるか?」
「もう一度白魔道士に?そんなことでいいの?」
「あぁ。白魔道士は楽だったからな」
前に出て戦わなくてよかったし。
「そんなことなら簡単だよ。はい。設定完了したからじゃあそこの扉抜けてくれる?」
女神様が指さしたのは俺の後ろにあった扉。
「短い間だったがサンキュな」
「なになにお礼には及びません。でももう一度君の面白い人生見せてね」
俺の人生を何だと思ってるのやら。
まぁそんなことはどうでもいい。
前世でやり残したことがあるから転生というのはありがたい。
「ここから見ておくといい。俺が白魔道士を最高職にしてみせる」
「頑張ってね」
応援の声を受けてから俺は扉に手をかけると抜けようとしたがその直前。
「あ、ちょ!ちょ!ちょ!待って!」
何か思い出したように走ってくる女神様。
だが
「きゃっ!」
足がもつれたようで俺に向かってそのまま突っ込んできた。
そのまま押し倒される俺の体。ついでと言わんばかりに女神様も扉を抜けてしまっている。
「お、おい?!」
「いやぁぁああ!!!!!」
扉の向こうに地面はない。
そのまま落下を続けるだけだった。
※
その後真っ暗な世界にたどり着いた。
横にいる女神様に訊ねる。
「ここは?」
「その、魂の控え室だよ。時が来れば肉体に乗り移って生を授かるの」
「ふーん」
「それよりもちょっと!どうしてくれるのよ!」
俺の両肩に手を置いて前後に揺らす女神様。
「何故俺が当たられなくてはならんのだ?」
「何故って!決まってるでしょ!ここに来たら私も生まれなくちゃならないのよ?!」
「あんたが落ちたからだろ俺のせいにするな」
迷惑な女だな。
「あぁぁぁぁあ!もう!!!!!」
「そもそも何であんなに焦ってたんだ?」
「聞きたい?」
「そりゃ、まぁ」
何であそこまで慌てたのか聞きたいだろう。
「この世界で転生すると特典というか死んだ時に持っていた何か1つ前世で習得したスキルとか特性を持っていけるの。1番強いものをね。勿論私が君に白魔道士になれるようにと設定したものとは別枠扱いだよ」
「そうなんだな。俺の場合何になるんだろうな」
恥ずかしい話だが俺は何も持っていない。
俺はただの白魔道士としてパーティにいただけだ。
自慢ではないが人生2週目プレイしてもそこまで恩恵がなさそうだが。
「………君の場合ねラストバトル補正を持っていけるはずなの」
「ラストバトル補正?何だそれ」
聞いたことも無いものだな。
「最期の瞬間すごく力が高まるのを感じなかった?」
「感じたが」
「あれはいわゆるイベント戦で本来負けるはずはないし、魔力、体力リジェネもかかってるし色々な超強いバフが乗った状態なの」
「そうなんだな」
「で、君はその普通は負けないバトルで、そのバフが乗ったまま何故か死んだ。あとは分かるよね?その特性を持って転生できるの!誰にも手が出せないくらい強い存在として!それを思い出して焦ってたんだよ。世界のバランスがおかしくなっちゃうから!」
なるほど。
つまり前世で最弱の最底辺だった俺が来世では最強になれるということでいいのか。
「でも、それなら俺の他のパーティメンバー達も強いんじゃないのか?」
「バフが強すぎるから世界の設定として条件を満たしたら解除されるようになってるの。でも君はイベント戦で死んだ。バフが乗ったままね。このバフの解除条件は私も詳しくは知らないけど君のはまだ健在」
へー。そうなんだな。
「で、君はその解除条件を満たす前に死んで今も特性として持ってる。え?ちょっと待って!何これ!」
「どうしたんだ?」
女神様の顔がこれ以上はないという程に驚愕に歪んだ。
「本来死なないバトルで死んだから君のバフの処理がおかしくなって解除不可になってる。効果時間………永続?!」
「つまりどういうことだ?」
「絶対解除されなくてこれから先ずっと最強として君臨し続けるということ」
「俺が?」
頷く女神様。
「嘘だろ?」
「ほんとだよ」
その話を聞いてようやく理解した。
俺はやばい特性を持っているのかもしれないということを。
同時にその時俺の番が来たのか俺は天蓋へと引っ張られるように浮かんでいった。