1-3.Four leaf clover
「最前線到着は一時間後だな。ミハエル、修正を旗艦に入れてくれ」
「了解」
進行方向前面の大型レーダーを確認すると、敵艦数は時間とともに増加しているかに見えた。味方の艦が激減しているせいもあるし被探知機能で引っかからなかった遠方の敵艦が徐々に検知され始めたからだ。
今回の戦闘には三個艦隊が出撃しているにもかかわらず、砲撃に沈んだ味方の総数は半個艦隊分に相当する。このままいけば間違いなく負けだ。
そのせいで僕たちは後方待機だったにもかかわらず、援軍として最前に駆り出された。この劣勢は今回の会戦総指揮者、ネスラー元帥が招いたものだ。
不要の出撃を命じられたレキシアは文句も言わず、開戦から現時点までのデータを分析し、移動の途中何度もネスラーに作戦の変更を進言している。
この期に及んで戦況が好転しないのは、ネスラーが聞く耳を持たないからだ。三十歳も年下のレキシアの意見を取り入れるのは、プライドが許さないのだろうか。
これまで幾多の作戦を成功させ、幾千の敵艦隊を暗黒の海に沈めてきたレキシアを、若いからとそれだけで無視するのはあまりに愚かで無益だ。
敗軍の将になりたいのなら話は別だけれど。
無能な采配で命を落とす兵士をこれ以上増やしたくない僕は思案する。
「レキ、どうしようか。もう一度、ネスラー元帥に上申する?」
「無駄だな。あいつには耳がない」
「五度目の正直ってことも」
「そんなことわざないぞ」
「じゃ、妙案があるんだね」
ノーとわかっていてイエスと答えるしかない哀れな兵士たちを救う方法が。
「もちろん。作戦を修正する」
「変更じゃなくて?」
「あくまで微修正だ」
艦隊が動けば個々のわずかな動きも大河のうねりとなる。ネスラーに動きがばれるのは必至で、もちろんレキシアは承知の上だ。
「拡がりすぎた戦列を縮小させる。航空部隊を再投入し敵の戦列をかく乱後、側面を崩し旗艦を叩く。ケルサス軍が中央のネスラーに集中しているいまなら動きやすい」
僕はレキシアの修正案に大きくうなずいた。数時間後、勝利は第一軍の手中にあると確信したからだ。