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彼と彼女のなりゆき  作者: キョウ
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最終話(奈都サイド)

「だからさー、せっかくならあのドレスの時に舞台でプロポーズしちゃいなさいよ、ってアタシは言ってたのよ」

「冗談でしょ!」

「だって、余計なのにコナかけられてるって聞いてたしぃ、一石二鳥かと思ってぇ。あー!焦げてる!カルビ焦げてるぅー!」

「要、うるせぇ!自分で取れ」

 そう言いながら、トングを持った理人が、要さんの皿にかなり黒くなったカルビを盛っていく。


 今日は翔さんのおうちのお庭でバーベキューをしている。

 まさか翔さんのおうちが和風一軒家だとは思わなかったけど。

 メンバーは、翔さん、道香さん、理人、要さん、私。と後、道香さんのお兄さんの正毅さんが後から来る、と聞いている。

「私もドレス姿の道香さん見たかった~」

 と呟けば、要さんがスマホを取り出して画面を見せてくれた。

「うわー!綺麗!!うわー!翔さんとすごいお似合いー!」

 何これ。二人ともモデルなの?っていう勢いで正装が似合いまくっている。

「奈都も結婚式の時は要にメイクしてもらえば?」

 こともなげに理人は言うけど、トーカさんがどれだけすごい人か、私は今はもうちゃんと知ってる。

「やだ。やるわよ。当たり前じゃない。道香もなっちゃんも、逆にやらせてよ!」

「なっちゃん、腕は保証するからやってもらおう!」

 道香さんが箸を握りしめて力説した。

「腕は、って何よ!腕は、って!」

 要さんが怒ってるところに、後ろから大きな影が近いた。

「ホラ、切ってきたから、肉ばっか食ってないで野菜食え」

 タマネギやカボチャ、エリンギ、キャベツ、もやし等をカゴに盛った翔さんが勝手口から出てきた。

 すっかり黒髪が馴染んで見慣れてきたけど、最初あの頭で出社したときは、理人が私服で出社した時並みに社内は大騒ぎだった。

 更にはなんと、左手の薬指に指輪をしていたのだ。


「にしても、翔ちょっと早すぎない?付き合って何ヵ月も経ってないのにもう籍入れちゃうだなんて……。道香だって、しばらくは恋人気分を味わいたかったんじゃないの?」

 相変わらず奇抜なスタイルの要さんも、見慣れた。

 今日は水色の前下がりストレートボブに、どピンクのジャージの上下だ。そんなジャージ、どこで売ってるんだろう?

「言っとくけど、ちゃんと道香と話合って籍入れたからな。それに、あんな大勢の前でプロポーズなんか出来るか!恥ずかしい」

 炭火を調節しながら翔さんは言った。

「あら、ちゃんと聞こえてたのね。そーゆー理由?道香の性格上、公の場で言ったら道香が困惑するから…、とかかと思ったわ。案外自分本位だったわね」

 要さん……。なかなかに辛辣……。でも、顔はニヤニヤ笑ってるから、いつもこんな感じなんだろうな。

 火の管理も食材のカットも焼くのも、翔さんと理人の二人がほとんどやってくれてる。なんて楽なバーベキュー。

「俺らのが先に婚約したのに、追い越されたからな。」

 理人はビールを飲みながら野菜を焼いてる。

「でも挙式予定はお前らのが早いだろ。もうだいたいプランは決まったの?」

「ああ。そんなに大きくやるつもりはなくて……」


 男性二人が挙式の話で盛り上がってるのを見て、道香さんが笑いながら言った。

「普通さ、挙式のことって女性の方が力入るのにねぇ。職業病じゃない?」

「ぶっ、確かに!」

 二人ともデザイン会社とはいえ、たまにちょっと企画めいたイベントを手伝うこともあるし、招待状やら席次なんかのペーパーモノなんかはもちろん専門分野だ。道香さんは企画部だし、要さんはメイクアップアーティスト……。あれ?このメンバー、結婚式の企画としては最高の布陣じゃない?


 そんなことを考えて、家の中のお手洗いを借りた。

 それにしても、すごいステキな内装。

 外見は築40年くらいの和風一軒家なのに、中をリノベーションしてあって、木の温もりを感じられる、ナチュラルでいて落ち着く空間になってる。今はここで二人で住んでいる、と言ってたけど、ちょっと羨ましい。

 そこまで考えてたら、玄関のチャイムが鳴ってる音が聞こえた。

「はーい!」

 つい条件反射で返事をして、玄関を開けた。


 目の前に、ものすごい美形がいる。

 地毛なのか、ちょっと明るめの髪は軽くふわふわとユルいパーマかくせ毛で、その整った顔によく似合っている。瞳は大きくてそれがちょっとビックリ見開かれてる。

 黒いポロシャツは、ガッチリした出来上がってるであろう肉体を包んではいるけど、隠しきれてない。

「ここ、神沢君ちでいいんだよね?」

 思わず見とれてしまったのを、その人が放った言葉で我にかえった。

「は、はい!あの……道香さんのお兄さん、正毅さん……ですか?」

 ぶわりと花が咲いた幻想が見えた。かと思うくらい華やかに笑って「そう。みーちゃん……道香いる?」と聞いてきた。

「あ、今お庭でバーベキューをしていて……。あっ、そのまま、お部屋からより外から回った方がいいです!」

 私もそのまま一緒にお庭へ向かった。


 バーベキューをしている庭に二人で一緒に現れたら、理人がものすごい勢いでやってきて、私と正毅さんの間を無言で引き離した。

 いやあの、多分適切な距離だったと思うけど?

 それを見た正毅さんがいやに含んだ笑顔になって、理人を見た。

「理人、なっちゃんかわいいね」

「なっちゃんって言わないで下さい!」

 いつもは口が悪い理人が敬語を使ってるのが新鮮。

「もうっ!正兄、理人で遊ばないの!」

 道香さんがやってきて、なぜか私をギュウと腕の中に閉じ込めた。

「ごめん、ごめん。噂のデレてる理人が見たくてさー」

「どっちかっていうと、デレてるよりキレてるよ!」

 兄妹の掛け合いが微笑ましい。

「……道香、結婚おめでとう」

 おもむろに正毅さんが、持ってきた小ぶりな花束を道香さんに差し出した。

 私を抱きしめてた腕が緩む。

 するりと理人が私を引き寄せたと思ったら、いつの間にか道香さんの隣に翔さんが来ていた。

「こっちに」

 理人が小声で離れるよう言う。


 翔さんと道香さん、正毅さんと三人で微妙な空気になってる。

「婚姻届の署名、ありがとうございました。えーと、あれを書いてもらえたってことは認めてもらえたって思っていいですか?」

「……。不本意ながら、我が妹は君しか好きになれない、というので。しかも両親諸手を挙げて喜んでるし……」

 うわあ。美形は拗ねても絵になる。

「ありがとうございます。義兄さん(おにいさん)

 翔さんが言うと、正毅さんの顔がぶわーっと赤くなった。

 見ていたこっちも赤くなりそう。

 そこでハッと気付いた。

 いつも飄々としてどこか人をくったような態度がデフォルトの要さんが、隣でうち震えている!

 え?何?道香さんの親友として感動してるの?と思ってよく見たら、完全に目がハートになってる。その目線を辿ると……。

「みーちゃんを泣かせたら、殴る」

 めっちゃ複雑そうな顔で凄んでる正毅さん。

 ボクサーの、ただの殴るがどれだけ恐ろしいか……。

 翔さんがニッコリ笑って「泣かせません」と断言してる。


「あー、そうか……。元々道香のビジュアルがドンピシャで声かけてきたもんな……。それの男バージョン……」

 理人の呟きで、色々覚った。

 それに気付いた道香さんがあわてて叫ぶ。

「いやー!やめて、要!!っていうか、正兄、逃げて!!要、ああ見えて今までもノンケをそっち側に落としてきた猛者なのよ!ああ見えて、かなりスパダリなのよ!!」

「ちょっと、そこはスパダリじゃなくて出来る女でしょ!?」

「ごめん、焦りすぎて言葉を選んでる余裕なかった!」

 正毅さんが固まってる。

 そんなワチャワチャをものともせず、理人は普通にバーベキューグリルの前で焼き奉行に徹してる。

 いつの間にか翔さんはまたも勝手口から現れて、お盆に乗せた沢山のおにぎりを差し出し「米も食う?」とか言ってる。


 なんなんだ、これ?

 でも、楽しい。

 大好きな人達と、こんな楽しい時間を過ごせることが、私に訪れるなんて昔の私に教えてあげたい。

 理人がこっちを見て、甘く微笑んだ。

「奈都、肉焼けたぞ」

「うん!」





ここまで読んで頂き、ありがとうございました!


理人と奈都、翔と道香の話はこれで終わりとなります。

書いてる時に意識したのは、理人と翔では愛し方が違う、ということ。

「クールな~」を書いてる時は意識してなかったけど、「なりゆき」を書いてる時は、度々「あ、これは翔じゃない、理人のやり方だ」と思い直し、書き直したりしてました。

後は前半、「クールな~」の時間軸で話を進めるのが大変だった……。意外とあっちハイスピードで話が進んでて、もたもたしがちな道香を追ってくと途中で、あれ?時間が合わないー!なんてことになってました……。


なにはともあれ、2つのカップルをハッピーエンドに出来てホッとしています。

最後まで読んで頂きありがとうございました!

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