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彼と彼女のなりゆき  作者: キョウ
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翔サイド 19

 暗がりの彼女に向けて手を差し出した。

 さっきまでのぶんむくれた顔が、はーっと深いため息と共に諦めの表情になって、仕方なさそうに手を重ねてきた。

 この様子からするに、不本意ながらここにいるようだ。要、後で怒られるぞ。

 ステージ中央に置かれた椅子までの、短い間のエスコートは、大学のミスコンを思い出させた。


 道香を椅子に座らせると、要は俺に「このまま後ろにいてね」と小声で行った。

 いつのまにかインカムを着けていた要は、そのまま道香にメイクを施し始めた。

 椅子の横にはテーブルがあって、そこにカラフルな化粧品が並んでいる。

 それを、解説しながら次々と手に取り、迷いなくメイクしていく要はマジシャンのように見えた。


「アタシがこの新商品に込めた思いは「誰でも輝ける」ってこと。誰でも、よ。男も女も、ゲイもオカマもレズも、若くても年取ってても、白でも黒でも。もう、ぶっちゃけメイクじゃなくてもいいの。気持ちの持ちようで、誰でも何時でも輝くことが出来る。そのきっかけとしてこのメイクがお役立てればいいな、と思って、誰でも使いやすいように作ったの」

 要は穏やかに語りながら、メイクをしていく。


 後ろからとはいえ、要の仕事っぷりを見たのは初めてだった。

 完成したメイクをしたモデルが載った雑誌や、テレビで女優さんを見たりはしたことはあったが、それが作られる工程が、こんなに細やかに丁寧に作られていたとは……。


 ―――俺の仕事と似ている。


 ラフをいくつも考えて、カラーバリエーションや試作を繰り返し、ちょっとの変更でガラリとイメージが変わるのを何度も厳選し、完成に近づく……。

 要もそれを、同じようなことを、1人積み重ねてここまで来たんだな、と思ったら妙に胸が熱くなってきた。


「さ、完成よ。1番見せたい人に1番最初に見てもらいましょ」

 そう言って要は道香を立たせ、俺を見た。

 促されるまま、道香の後ろから黒いケープのマジックテープをはがした。

 前に回ってケープを完全に取り払った。

 下を向いてる道香の顔が見れず、最初に目に入ったのはキレイな白い肩。その下にはシャンパンカラーのキラキラしたドレスが現れた。

 ミスコンの時は、首もとまで覆い隠すようなデザインのドレスだったか、今回は違った。

 肩と鎖骨のラインはもとより、その豊満な胸がキッチリ入ってるドレスの胸元の深い谷間まで丸見えだった。

「うぁ……」

 小声で呻いてしまった。

 訝しんだ道香がパッと顔を上げて、お互い顔を見合わせた。


 化粧で女性はいくらでも変われる。

 と、メディアや知識では知ってたけど、目の前でやられたら、本当に魔法でもかけられたんじゃないかと思う程だった。

 俺を見上げる道香がキレイで可愛いすぎる。

 要め!こんな舞台じゃなければ、抱きしめたいのに、グッジョブすぎる。


「翔?私、これどうなってるの?」

 凝視して固まってる俺の反応を、何か変なとこがあるのかと勘違いした道香が聞いてきた。

「ヤバい……。これ、他の奴等に見せたくない……」

 そう言ったら、今度は道香が固まって真っ赤になった。


「道香、すげー綺麗」


 でも、これはダメだ。

 黒いケープをもう一度巻き直し、さっき舞台袖にいた蒔田さんの方へ行った。

「悪い。なんか羽織るものある?」

 ビックリ顔の蒔田さんは、俺が何をしたいのかすぐさとって、周りを見ると同僚と思われる女性からレースのストールを借りてきた。

 その女性に向けて「ありがとう!後で返すね」と言ったら真っ赤になって首をぶんぶん振られた。


 道香の所に戻り、ケープを外し、代わりにストールを胸元を隠すようにかけてやった。

「もう!何やってんのよ!」

 隣で要が文句を言ってるが、俺が文句を言いたい。

 もう一度手を差し伸べると今度は迷わず手を乗せてくれた。エスコートして舞台の前の方に出る。

「アタシのミューズとそのナイトよ。二人には今まで何度となくさ支えられてきたの。この晴れ舞台に一緒に立てて嬉しいわ。本当はもう1人いるんだけど、今日は振られちゃったみたい」

 要が俺らを紹介する。会場からは、わっと拍手が起こった。

「新商品はサンプルをお配りするけど、今日は会場の後ろに体験ブースをもうけてるの。是非、色々試して行ってね。もちろん、男性も体験可能よ。新しい扉を開いてみてね」

 要の飾らないしゃべりに会場がどっと沸いた。


 司会が商品の発売日や詳細を説明している。

 俺はその間ずっと隣に立つ道香を見ていた。

「ちょ……、翔……。見すぎ……」

 道香から苦情が出るくらい。

「だって、メチャかわいいし綺麗だから」

「!!ちょっと!ホントそういうのここで止めて!」

 小声でやりとりしてたら、要がニヤニヤしながら近づいてきた。

「協力してくれた二人に、盛大な拍手をお願いいたします」

 そう言って、舞台袖にはけるよう指示された。

 道香をエスコートして袖に行くと、蒔田さんが涙目になっていた。

「沙良ちゃん!何!どうしたの!?」

 道香が駆け寄ると、泣き笑いになって言った。

「道香先輩と神沢さんがお似合いすぎて~!」

 周りの、多分道香と同じ部署の子達もウンウン頷いてる。

「あっ、これ崎浜さんのでしょ。ごめんね、借りてて。ありがとう」

 さっき俺が借りたショールを取って返した。俺は自分のジャケットを脱いで道香にかけた。

 なぜか道香が赤くなる。ん?今、照れる要素あったか?

 本音はこのままこのビルのホテルの部屋にでも連れ込みたいところだが、道香の仕事の邪魔をするつもりはないので、大人しく待つことにした。

「道香、仕事終わるまで待ってるから」

 声をかけて、そのまま裏側からホールへ戻った。

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