道香サイド 24
目の前に、黒いケープを持って、顔を真っ赤にしたイケメンが立ってる。
なにせ舞台の上だから、鏡を見てない。
自分がどんなになってるのか、皆目見当もつかないんだけど、要の腕が確かなのは固まってる翔が証明してくれてる。
「翔?私、これどうなってるの?」
小声で聞いたら、ゴクリと翔の喉が動くのが見えた。
「ヤバい……。これ、他の奴等に見せたくない……」
そう言ったあと、甘い甘い笑顔で言われた。
「道香、すげー綺麗」
*****
「待って、待って!聞いてない!!」
「そりゃそうよお、言ってないもん」
だから、おじさんが「もん」とか言うな!
気付いたら要以外、周りのスタッフは全員女性になっていて、社員も要のアシスタントも嬉々として私の服を剥いてくる。
「いくら道香のスタイルが良くても、ドレスだから補正して。ドレス終わったら、軽く下地メイクしてヘアね。本格メイクの道具は準備出来てる?それは舞台で使うから、袖に準備しといて」
テキパキと指示を出す要はすでに私のコルセットの紐をしめていた。
「……み、道香先輩……。スタイルいいなー、とは思ってましたけど、ここまでとは……」
「だよね。女の私らでもクラクラしちゃう」
「え?彼氏これ独り占め?くぅ~!羨ましいっ!」
「ちょっと、沙良ちゃん、聞こえてるわよ」
私の周りで右往左往してるアシスタントさんは黙々と作業してるのに、壁際で待機してる企画1部の女性陣がうるさい。
「神沢さんの独り占めか~」
沙良ちゃんがポロっとバラした。
「「!!!!!」」
声にならない叫びを上げたのは後輩だけでなく、アシスタントさん達の手まで止まった。
「ちょっと、道香動かないでよ!アンタ痩せた?私の想定したサイズより細くなってる!調整させて」
普通のままなのは要だけだ。
「沙良ちゃん!」
沙良ちゃんは、焦った私を全く意に介さず
「もう、いいかげんバラしていいじゃないですかー。さっきも沢山の人にもう目撃されてるしー」
とのたまった。
「やややや、ヤバい!神沢さんて、要さんの友人のあの神沢さんですよね!?あの、背が高くて、男前で、こないだテレビ出てたデザイン事務所の社長の神沢さんですよね!?」
アシスタントの子達までもが騒ぎ出した。
「要さん!お二人の結婚式のメイクは絶対やりますよね!?やりますよね!!式場のスタッフがやるとかならないようにもぎ取って来て下さいよ!!こんな美男美女カップルを手掛ける機会なんて芸能人でもない限りないんですからね!!」
ね、熱の入れようが違う……。要は黙々とドレスを調整してる。
壁際の沙良ちゃんが、何やらファイルを見ながら言った。
「いいですか?道香先輩。この後は、まず舞台袖で待機。舞台に出たら椅子が用意してあるのでそこに座り、トーカさんのメイクが入ります。メイク終わったらケープを取って完成を御披露目して、トーカさんが使った商品を説明します。道香先輩はそこで女神のように微笑んでればいいので!喋らなくていいので!」
ため息混じりで聞いた。
「沙良ちゃん、これ、いつから企画してたの……。私にわからないようにやるの、大変だったでしょう……」
「そうなんですよ!!自分の業務をこなしながらトーカさんと密かに連絡を取り合ってたんですよぅ。あ、勿論、安藤部長もグルですから。でも部長は神沢さんのことは分かってないですから」
確かに、部長はさっきまで完全に宇梶さんと翔が付き合ってると思ってる発言してたしね……。
「なつかしいわね」
ドレスが終わって、首から下に黒い長いケープをかけられた。
大きな鏡を置いた机には、要が持ち込んだ沢山のメイク道具がズラリと並んでいる。よくよく見るとウチの製品も多数あって、要が使ってくれていることにちょっと嬉しくなった。そこに座らされた。
要は、たいしてしてない私の自前のメイクを、メイク落としを含ませたコットンで落としていく。
「ミスコン?」
「そうよ。あれが始まりだったでしょ?」
そうだ。要と仲良くなったのも、翔を本格的に意識し出したのも、その翔が迫ってくるようになったのも、あれが始まりだった。
「そうだね。こうやって要にちゃんとメイクしてもらうのもあの時以来かも……」
って、思い出に浸らされそうになった!
「ちょっと待って!なんで私、ドレス着てメイクさせられてるの?何その舞台でメイクって、モデルさんに頼んでよ!」
我に返って要と沙良ちゃんと交互に見た。
「道香、お願い。協力してよ。アタシ舞台に上がって喋るなんて無理だから、一番得意なことで勝負したいのよ」
要が真面目な顔で私を見る。
「一番得意?」
「アタシの職業!」
「……メイクアップアーティスト」
「それよ!」
「……つまり、要は喋る代わりにメイクで伝えたいってこと?」
こうやって会話してるうちに、どんどん顔に色んな化粧品を塗られていく。
導入液から始まって、化粧水、乳液、リンパにそってマッサージしたら、美容液、下地……、うう、やっぱり要は手際がいいし、やってもらってて気持ちいい。
「そう。道香はアタシにとってはミューズなんだから、ここの社員とかの肩書きは今は目を瞑って、個人として協力してくれない?」
「因みに、ぶちょーからはオッケー出てますよー!」
壁際から沙良ちゃんが言ってくる。
私だってこの企画が、要の人生にとって分岐点になるだろう重要なことだということも分かってるし、私自身が要に成功して欲しいとも思ってる。
「……わかった。協力する」
「道香!」
感極まった要にギュウと抱きしめられる。とはいえ、ホントに私にとっては大親友の親しみのハグとしか思えない。それが今は嬉しい。
ところが次の言葉で気分は急転直下した。
「舞台でのエスコートは翔にしてもらうからね!」




