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彼と彼女のなりゆき  作者: キョウ
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翔サイド 18

 オイオイオイオイ。

 どうなってんだよ……。

 道香がいないのをいいことに、隣にピッタリ寄り添ってくる青いドレスを今すぐ振り払いたい。


 *****


「そうでしたか。美麗から聞いた所、良い関係を築いている途中……というお話だったのですが?」

 立ち直った界さんが聞いてきた。

「いいえ。深夜に呼び出されたり、自宅まで押し掛けられたりしまして。とはいえ、彼女の同僚ですので無下にも出来ず、ほとほと困っていた所です」

「みーちゃんはっ……」

 陸さんが声を荒げたのを、界さんが目線で止める。

 長兄の顔をした彼は、はー、と深いため息をついた。

「すみません……。末っ子で女の子で私達とも年が離れているものですから、甘やかして育ってきた所がありまして……。実を言うと、以前にも似たようなことがありまして」

「えっ、何それ。聞いてない」

 素に戻ってる陸さんが言った。

 苦い表情で界さんは話始めた。


「その時は、ちゃんとお付き合いしている彼氏だったのですが、美麗は恋愛が下手というか……、自分の気持ちばかり押し付けて、相手の気持ちを察することが出来ないようでして。愛情は与えられて当然と思っているのか、彼を相当振り回して、とうとう彼が別れ話をしても聞かず、結局彼が私達家族に相談しに来て父との話し合いの末、別れた……んです」

「なん……で、俺その話聞いてないの……?」

 陸さんが何かを堪えるように言った。

「お前は一番美麗に甘いだろう。もっとモメると困るからって、オヤジの判断だ」


「そっちの都合はどうでもいいが、こっちは実際迷惑してるわけだから、どうにかしかて欲しいんだが?」

 理人が敬語も吹っ飛ばして静かに言った。

「その……彼女さんにもご迷惑をおかけしました。まだこちらに来て美麗と話してないのですが、ちゃんと言って聞かせますので……」

 界さんが頭を下げた。

 まだ不服そうな表情の理人だったが、その時はそれで話は終わった……のだが。


 *****


「翔さん、何かお食べになります?」

 腕に触れそうになるのを止める兄達がいないので、自分で避けた。

 気づけば道香の姿が見えない。

 まあ、どこかで仕事中なんだろう、とは思っている。

 道香は俺に言わなかったが、要から「トーカがらみの発表がある」とは聞いていた。多分、道香が担当なのだろう。

 さっきから、マスコミと思われる数人のカメラマン達の動きが世話しなくなってきた。

 つられるようにホールにいる人達もスクリーンのある舞台の方へと目線が動く。


「宇梶さん、いいかげんハッキリ言います。俺はあなたとはお付き合いしません。もう、かまわないで下さい」

 周りに人があまりいないのを確認して言った。

 いくらなんでも、同僚や取引先に振られる現場は見られたくないだろう。

「なぜ?なぜそんなことをおっしゃるの?三枝さんがいるから?」

「違います。もし、道香がいなくても、俺はあなたを好きにはならない」

 さすがに真顔になって固まった。

 まだ何か言わないと諦めないのか、と思って口を開きかけたとき、ふいに照明が落ちた。


「ご歓談中に失礼致します。これより、特別な新商品を発表させて頂きます。60周年を記念しまして、限定ではありますが新しい時代へ向けたメイクアップを提案致します」

 音楽と共に、スクリーンには次々と色々な人が写っては消えていく。男性、女性、どっちかわからない人、若い人、お年寄り、色んな国籍、色んな肌の色……。

「要はまた……。壮大なこと始めたな……」

 思わずボソッと呟けば、隣の宇梶さんがこちらを見て言った。

「翔さんもトーカさんとお知り合いですか?」

 それに答えるより先に司会者が一段と声を張って紹介した。


「今回の新商品の総合プロデュースをして頂いた、東海林要さんことメイクアップアーティストのトーカさんです!」

 盛大な拍手の中、舞台袖から出てきたのが要だと一瞬わからなかった。

 顔はもちろん要だ。

 相変わらずおじさん顔で、歳より老けて見えるのが嫌、と常に言っていたその顔だ。

 でも、いつもの派手な髪色ではなく、地毛のままだ。細身でひょろりとした体に、スッキリしたラインのブラックスーツを着て、中のシャツがピンクなのは要らしさが残っているが、ものすごい腕のいいメイクアップアーティストに見える。

 いや、実際腕はいいんだが。

 表情も多少緊張しているようだが、それより期待と喜びと自信があふれてて、なんだ……、要、格好いいじゃねぇか……。


「こんばんは。只今、ご紹介にあずかりましたトーカです。今回、新商品を総合プロデュースさせて頂くことが出来て、本当に嬉しく思ってるわ」

 あ、喋ったらやっぱりカマだな。

「今まで、ずっと裏方でやってきたので、喋るのはあんまり上手くないの。だから、ちょっと協力者を呼ぶわね。

アタシをここまで見守り、励まし、アタシのインスピレーションの元になった人を紹介します」


 えっ……

 それって……


「そこの、背が高いやたらイケメンなお兄さん、手伝ってくれる?」

 要が完全に俺を見ながら手招きしてる。

 隣の宇梶さんもビックリしてる……ということはこれは要のサプライズなのか?


 とりあえず、呼ばれたので大人しく壇上に上がる。

「アタシのミューズのエスコートは、この人に決まってるので、早速呼んできてもらいましょう」

 と、促されたのは舞台の袖。

 よく見ると、暗く影になってる袖に道香が立っている。

 なぜだか、ぶんむくれた顔して、更に首から下は美容室で付けられるような黒くて長いケープでおおわれている。

 よくわからんが、とりあえず道香がいる方へと足を踏み出した。

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