道香サイド 2
提案された案はどれもこちらの意図よく理解した上で、更にデザイン的にもわが社にマッチしていて文句のつけようがなかった。
「選ぶのを悩むくらいどれもいいですね」
一緒にいる企画部長も横で満足そうだ。
「ありがとうございます」
目の前の金髪の男がニッコリ笑った。
仕事中の翔を見るのはなかなかない機会で、Tシャツとジーンズというラフな服装ながら、もの言いや態度は真摯で、仕事への真剣な姿勢がうかがえる。
化粧品メーカーの本社らしく、華やかで窓を大きく取った明るい打ち合わせ室で、彼の金髪がキラキラして、その男らしく整った顔が余計に輝いて見える。
かっ……カッコいい……。
不覚にもこんな所でときめいてしまい、必死でニヤけて赤面しそうになるのを堪える。
私の顔が変になってることに絶対気付いてる翔は、こっちを見てニヤリとした。
くっそぅ……。
化粧品メーカーの企画室にいる私と、デザイン事務所を立ち上げた翔とでは、仕事関係では接点がないと思っていたら、ひょんなことから一緒に仕事をすることになった。
とはいえ、実際の担当は翔の隣で無機質な顔でシレッと座ってる理人だ。
こっちもまた普段と違う。
キレイめな顔によく似合う細身のスーツをビシッと着こなして、銀縁メガネで更に固く武装してる。理由は聞いたけど、初めて見た時はあっけにとられた。別人のようなんだもの。
こちらはニコリともせず、淡々と各冊子の説明をしている。
二人で事務所を開いた時はどうなることかと心配したけど、感覚やインスピレーションで動く翔と、計算して理論的に動く理人との正反対のコンビネーションでなかなか上手くやってるらしい。
ウチの社長が創立60年記念にあたり、社史と会社のパンフレットを合体したような、今までにない冊子を作りたい、と言い出した時に、依頼する会社のリストに「神沢デザイン事務所」があった時には驚いた。
あえて知り合いの会社だとは言わなかったのに、コンペの結果翔の会社に決まった。
いまだに会社の人には、翔と理人が私と同窓生とは言ってない。
隠してる……つもりはないけど、言うタイミングを逃したのだ。
それを知ってる二人は仕事の時はビジネスライクに接してくれる。
それをありがたいと思う一方、ちょっと淋しいような……。
「道香せんぱーい!今日もイケメンズと打ち合わせだったんですかー?く~、羨ましい!!」
「何そのイケメンズって」
翔達との打ち合わせを終えて、デスクに戻ったら後輩の沙良ちゃんがまとわりついてきた。
小柄ながらスラッとした体型で、小動物系の可愛らしい顔をした彼女は、よく似合う可愛らしいワンピースをヒラヒラさせながらクルクルよく動く企画室のムードメーカーだ。こう言ったら何だけど、男受けしそうなファッションや見た目でありながら、仕事も要領よくこなす出来る後輩なのだ。
「神沢デザイン事務所のお二人ですよ!もー、なんなの?デザイン会社ってあんな感じ?イケメンがゴロゴロしてるの?正反対の二人だけど、どっちもカッコいいー!……って、本社じゃ彼らが来ると女子社員は色めき立って仕事にならないんですよ」
「そ、そうなの?」
確かに大学でも二人揃ってよく女子に騒がれてたけど、それはいまでも健在なのね。
「それに、あのお二人と道香先輩の三人が並ぶと、なんかしっくりくるっていうか……、絵になるっていうか……」
なかなか鋭い。
そりゃあ、二人とは10年近い付き合いだから、こなれた雰囲気を出しているのは仕方ない。
「それに、道香先輩が柔らかくなる」
「ん?」
「道香先輩、どっちですか?金髪?メガネ?」
「な、なんの話よ!」
「絶対、どっちか好きでしょ!好きが駄々漏れてるもん!!」
「うそでしょ!?」
咄嗟に赤くなった顔を両手で押さえてしまった。
あああ、これじゃあ認めたも同然だわ。
横で沙良ちゃんがニヤニヤしてる。
「うそでーす。カマかけてみました♪でもやっぱりだ!あのお二人の前ですごいポーカーフェイスで逆に怪しいと思ったんですよね」
な、なんという恐ろしい子!
「安心して下さい。気付いてるのは私だけですよ。でも、いつもバリバリ仕事こなしてる道香先輩が、こんな顔真っ赤にしてるの新鮮!かわいい~!」
5つも年下の子にかわいいと言われても心中複雑だ。
「だ、誰にも言わないでぇ~」
「もちろんですよ!どちらにしろライバルは多いですからね。私は道香先輩推しです!で?どっちですか?あ、丁度もうランチです。外で食べましょう!ゼヒゼヒ話を聞かせて下さいー!」
ものすごい勢いで女子トークを展開する沙良ちゃんに圧倒され、グイグイ腕を引かれて従業員出入口まで連れてこられた。
ところが出入口付近に近づくと何やら騒がしい。
お昼休みは皆が一斉に出入りするから、多少ざわついてるのはいつもだけど、今はそれとはちょっと違うざわめき方だ。
嫌な予感がして、沙良ちゃんを見る。
何かを素早く察知した彼女は、女性社員が群がる一角に私の手を引いたまま掻き分けて行った。
「あ、三枝さん来た」
そこには無邪気に笑顔で手を振る翔がいた。
なんでこんな目立つ所にいるのよー!