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彼と彼女のなりゆき  作者: キョウ
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道香サイド 22

 ザワザワとした沢山の人の声の中、沙良ちゃんの声がインカムから聞こえて来る。

『……佐田商事の佐田社長様、いらっしゃいました。50代、濃いグレーのスーツに紫のネクタイ、銀縁メガネ。担当、経理の森課長です』

「了解」

 高層ビルの上部にあるホテルの、広いホールの出入口で、来客を次々捌いていると、シャンデリアの眩しさと人の多さに頭がクラクラしてきた。

 下の階には受付と控え室があって、受付を済ませた人を、沙良ちゃん達企画1部の若い子がインカムで上の私達に知らせてくれる。

 下に続く階段から、沙良ちゃんが言う特徴を持つ男性が上がってきた。

「佐田商事の佐田社長様ですね?」

「こんにちは。ご招待ありがとうございます」

 ロマンスグレーの品の良い感じは見た目だけではないようだ。

「只今、森の方が参りますので、少々お待ち頂けますか?」

「すごいね。会場の雰囲気もだけど、社員の連携プレーは見事だな。イベント会社は入ってないの?」

 佐田社長は素直な疑問を聞いてきた。

 これだけの規模のパーティーだと、大抵はイベント会社に依頼して進行することが多い。でも、今回は司会者や調理、料理専門のフロアスタッフと、他に数人だけ外部に頼み、後は企画部と営業部で回している。

 予算も大いに関係しているが、社長の鶴の一声で「なるべく社内の者でやる」方針になった時は、企画部皆で天を仰いだ。

 そんなことはおくびにも出さず、佐田社長にニッコリ頬笑む。

「恐れ入ります。全社一丸となって取り組んで参りましたので」


 来客には、招待状を送った部署が接客担当することになっているので、そちらに誘導する。

 最初は余裕で対応出来ていたが、式典開始時間が迫ってきて、来場者も増えて、会場は人でごった返している。


 とうとう、「創業60周年記念祝賀会」当日になった。

 開会は18時からで、あと20分ほど。入場者も今がピークだ。

 舞台の上には大きなスクリーンがあり、今は今までのウチの商品がスライドで映し出されている。

 軽食やドリンクも立食形式で用意してあるので、もうそこここで飲んだり食べたりしている人もいる。


『道香先輩……。え、と。和菓子工房「葵」の社長、宇梶 界(うかじ かい)様と、副社長の宇梶 陸(うかじ りく)様、到着……です』

 来た……。

 翔から聞いていた宇梶さんのお兄さん達だ。

 沙良ちゃんに言ってはいなかったけど、この二人は社員の身内枠で招待されたのではなく、ウチの会社の株主なのだ。

『あの……、宇梶先輩の身内…ですよね?和風イケメン二人がいたら、それです!』

「沙良ちゃん……。すごくわかりやすいけど、言い方…」

『すみませーん』

 振り返って階段を見れば、和風で涼やかに整った顔をした男性二人がいた。

 ものすごく目立つ容姿ではないけど、二人ともキレイな所作で雰囲気がある。

 近くにいる女性が数人、チラチラ見ている。

「宇梶……様ですか?」

 声をかけたら二人同時にこちらを見た。

「うっわ……、かわいい子。何?案内してくれるの?」

ちょっと背の低い方の男性が声をかけてきた。

「陸、こんな所でナンパするのはやめてくれ」

「してないよ。率直な感想じゃん。わかってるよ、みーちゃん探すんでしょ?」


 ギクッとした。

『みーちゃん』

 正兄が私を呼ぶ時の愛称と同じ……。

 それが、宇梶さんのことだと気づいた。

 そっか。「美麗」だもんね。みーちゃんでもおかしくないか。

「企画の宇梶ですね。今、お呼び致します」

 インカムで宇梶さんを探してもらうよう伝える。彼女は企画部長の補佐に入っているはずだ。

「君はどこの部署なの?」

 陸さん……弟さんの方は見た目より結構中身は軽いのか、ずいっと近づいて顔を覗きこまれた。

「企画1部の三枝道香と申します。美麗さんにはいつもお世話になっております」

 一歩下がって礼をしたら、グイっと腕を捕まれた。

「そっか。みーちゃんの同僚なんだ。ね、今度一緒にご飯食べに行かない?」

 こ、これは完全にナンパされてるよね!

 既にインカムからは次々と来客の情報が来てる。他の同僚が捌いてくれてるけど、私も持ち場に戻りたい。

 宇梶さん、早く来てー!と、思っていたら、空気がざわりと動いた。

 周りの人、特に女性が階段の方を凝視してる。

 腕を捕まれてて、そっちに向けない。


「道香」

 聞き覚えがメチャクチャある声が、後ろから聞こえた。

 捕まれてる腕をやんわりとほどくスーツの腕が後ろから現れて、陸さんと距離が開く。

 振り返って、いつもの角度で見上げたら、黒髪の精悍な顔をした男性がいた。


「……………… しょう?」


 色気たっぷりに頬笑む翔は金髪じゃなかった。

 最近はツンツン立ててなかった伸びた金髪が、黒くなってバッサリ短くツーブロックになってる。さっぱりした襟足が色っぽい。

 元々、男らしい整った顔が、髪型の効果でよりワイルドになってる。

 それに、スーツなんてほとんど着ないのに、仕立ての良さそうな黒いスーツを完璧に着こなしてる。

 理人のお見合い騒動の時もスーツだったけど、あの時はそれどころじゃなかったから、改めて正装の翔を見てドキドキする。

 周りの女性だけでなく、男性までもが翔を見ている。

 何もしてないのに、ただ立っているだけで注目を集めるこの存在感は一体何なんだろう?

 でも、ネクタイにタイリングなんて、これは絶対理人コーディネートだと気づいた。


「宇梶さん、先日はありがとうございました」

 翔が兄弟二人に向き直った。

 先日は……?

「ああ、一瞬誰かと思ったら、神沢さんじゃないですか」

 お兄さんの方…界さんが言った。

「じゃあ、この方……、三枝さんが?」

「俺の一番大切な人なので。……陸さん、触らないで下さいね」

 ニッコリ笑いながら牽制した。

 って、翔!?ななな何の話をしてるの!?

 一人で真っ赤になってアワアワしてるうちに、男性三人で和やかに話初めてしまった。


「界兄さん、陸兄さん!」

 青いカクテルドレスを着た宇梶さんが、やっと現れた。


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