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彼と彼女のなりゆき  作者: キョウ
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翔サイド 15

 道の向う側から、やたらキラキラしたオーラを放ってやってくるのが、道香のお兄さんだとすぐわかった。

 理人が言ってた通り、華やかな雰囲気のイケメンで、そのくせ体つきはガッシリしてるのがスーツの上からでもわかる。

 そして何より、顔が道香に似ていた。

 その顔が、やたらと不気味な眩しいくらいの笑顔でこっちを見て、ものすごいスピードで迫ってきた。

 目の前に来たお兄さんはニコニコしながら言った。

「神沢君……、だよね?」

 自分が目立つことを、これ程嫌になったことはない。

「はい、はじめまして。正毅さん…ですよね?」

「俺のこと、知ってるんだ。みーちゃんから?理人から?」

「……。理人から、です」

「ふーん。で?なんでここにいるのかな?」

 ここに、というのが、道香の会社に、と同義語だとわかってる。ここは、正直に言うか。

「道香さんと、約束していまして」

 途端に、俺の腕をガッシと掴んで、スマホを取り出しかけはじめた。

「みーちゃん!なんで金髪野郎が、みーちゃんの会社の近くをウロウロしてんのかな!?」

 き、金髪野郎……。

 反論も出来ない。

 ハッと気づけば、正毅さんの目線の先にはスマホを耳にあてて驚愕の顔を張り付けた道香がいた。


 *****


「うーわー!理人、久しぶり!男っぷり上がってんなー」

「正兄、久しぶり。ってか、翔、とうとう正兄に会ったのか」

 理人がニヤニヤしてる。意地が悪い。

「てか、なんで理人まだいるの?」

「残業」

「日向さんは?」

「連絡もらってから、先、帰した」

「……それは、あれか。正毅さんが来るから……」

「ここが神沢君の会社かー。オシャレだね」

「……」

 理人が日向さんを先に帰した理由は分かってる。

 この、キラキラした女子なら誰もが見とれてしまう男と会わせたくないからに決まってる。

 突然出会って、突然会社に行きたいと言い出した正毅さんを俺はもちろん、道香も止められなかった。

 道香はさっきからふてくされた顔のまま、正毅さんと口をきいてない。

 正毅さんは、ほーとか、へーとか言いながら、事務所内を物色している。

 理人以外の社員はすでに帰宅していて良かった。

「で?いまだに君達はつるんでるの?」

 突然振り返って正毅さんが聞いてきた。

「まあ、俺と翔は同じ会社だし、道香とはこないだは一緒に仕事もしたし……」

 理人が説明したけど、正毅さんは「ふーん」と不審な目を俺に向けた。


「……あの、正毅さん……。俺、道香さんとお付き合いさせてもらってます」

 思い切って言った。

「うん。知ってる」

 俺もだが、道香もビックリしてる。

「正兄、なんで?」

 道香が聞いた。

「そりゃ、自分のかわいい妹が、チャラチャラした金髪のデザイナーだかなんだか知らないけど浮わついた仕事してる野郎なんかとくっついたら、嫌でしょ」

 さっきまではニコニコしてた顔が、急にスッと冷たい鋭い目付きになって、俺をとらえた。

 どうやって知ったかはわからないけど、道香とのお付き合いが認められてないことはわかった。


「あ、言ったの、俺」

 横から理人がけろりと言った。

 道香が「理人、なんで!?」と食って掛かってる。

「正兄、翔はチャラチャラして見えるかもしんねぇけど、これでももう10年近く道香のこと思い続けて、やっとくっついたんだよ。道香のこと心配なのはわかるけど、俺が見てきた道香の周りの男で、翔が1番道香を大切にしてると思う。俺の保証じゃアテになんねぇ?正兄」

 驚いた。

 理人が、こんな風に擁護してくれるとは思ってもみなかった。

 道香も、手を口にあてて涙目になってる。

「知ってる……。知ってるって言ってんじゃん!みーちゃんだけ追い続けて、他の女振りまくってるって聞いたし、仕事だってその若さで結構実績上げてるし、背も高いし見た目だって悪くないし、こんな……、こんな文句のつけようがない男がみーちゃんの相手だなんて、嫌に決まってるだろ!!」

 えーと、これは誉められてるのか、ディスられてるのか……。

 正毅さんを見たら、泣きそうな顔になってる。それが、道香の泣きそうな顔とソックリで思わず笑いそうになって、あわてて手で隠した。

「何笑ってんの!?」

「す、すいませ……。道香と表情がすごく似ていて……」

 兄と妹が同時に赤くなった。

「正毅さん。今はまだ認めてもらえなくてもいいです。ただ、もう少し時間をもらえますか?」

「時間?」

「認めてもらえるよう、努力します」

 正毅さんに向かって頭を下げた。


「……。最初から、「義兄さん」とか呼ばない所は認めてあげるよ」

 拗ねた顔を伏せながら言う正毅さんは、なんだかかわいかった。

「正兄、私、本当に長いことかかって、やっと翔の隣に立てたの……。だから、いつか……、いつか認めてくれると嬉しい……」

 正毅さんの隣に立って、顔を覗きこんでた道香が、そのあとドスの効いた声で言った。

「でもね、正兄。私、今、本当に忙しいの。もういいかな?会社に戻らないと本当に仕事おしてるの。もう戻っていいかなあ?」

 あまり見ないブラック道香が新鮮だ。

「み、みーちゃん……。ゴメンね。あっ、ご飯食べる予定だったんだよね。もう時間ないかな?」

 キレた道香には弱いらしい。

「道香、会社の車で送ってやるよ。途中、何か買って向こうで食べな」

 俺が提案したことに同意して、理人を残して三人で車に乗った。


「じゃあ、……またね?」

 会社の前で降りる間際、道香が言い淀む。分かってる。正毅さんの前で「また後で」とは言えない。

「みーちゃん!忙しいのは分かってるけど、体には気をつけてね」

「うん。正兄もまたね」

 道香を降ろして、正毅さんと二人っきりになった。

「送りますよ。どこまで行きますか?」

「神沢君ち」

「えっ……!!」

「飲もうよ。酒くらいあるでしょ?」

「あー……りますけど……」

「たっぷり、認める時間もらおうかなぁ」

 俺は、今日はもう道香のマンションには帰れないらしい……。



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