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彼と彼女のなりゆき  作者: キョウ
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道香サイド 20

 いくら忙しいとはいえ、パタリと止んだ行動がおかしいとは思ってたんだよね。

 暗闇で、そこだけ四角に光ってる画面を見て、そっと手を伸ばした。

 仕事用のスマホには、すぐに使えるようにとロックをかけていないのを知ってる。

 画面には、メールが来たことを知らせると同時に誰から来たかも表示してある。

 その名前を見て、胃がすぅっと冷えた後、ズキンと傷んだ。

 狭いベッドの端で大きな体でスヤスヤ寝てる顔を覗きこむ。

 顔にかかる、伸びてきた髪をそっと退かすと、生え際が少し黒くなってる。安心しきった整った顔。

 仕事が忙しかったり、疲れてたりすると眉間にシワをよせて困り顔の寝顔になること知ってる。

 この顔を知ってるのが、ずっと私1人であってほしい。

 翔のことだから、宇梶さんからの連絡があることを私に言わないのは心配させないためだと分かってる。

 1人でどうにかするつもりなんだろうなぁ……。

 私、そこまでやわじゃないよ?


 ほっぺやら耳たぶやらをふにふにいじってたら、翔を起こしてしまった。

「……ん、……どした?」

「んん、ごめんね。起こしちゃった」

「……ちゃんと、布団入って……」

「うん。おやすみ」

 そっと翔の頬に口づけた。

 とたんに、翔の目がぱっちり開いた。

「……えっ?何?……いま、キスした?」

「おやすみ!」

 翔に背を向けて、布団に入ったら、すぐさま後ろから抱きしめられた。

「道香……、好きだよ」

 さっきまで寝てたくせに……。

 背中に翔の体温を感じて、優しくて暖かい腕の中で眠りについた。


 *****


『で?金髪野郎とはもう会ってないよね?』

 …………。

 昨晩も一緒に寝てましたが、何か?

 電話口の正兄は、キラキラしい笑顔が想像出来るような声で言った。

 我が兄ながら、正兄はカッコいい。

 理人の硬質なクールイケメンとは種類が違う、目鼻立ちがハッキリした王子様系イケメンで、背は翔ほど高くはないものの、ボクシングを長いことしていて細マッチョな躰だ。もちろん女の子にモテる。自分は彼女を取っ替え引っ替えしてるのに、私にはうるさい。

 うるさいから最近連絡をあまり取らないようにしているのに、たまに様子を聞きたがる。

 心配してくれてるのは分かるけど、翔のことを悪く言われるのは嫌。

「正兄、今は勤務時間なので後でもいいかな?」

 事務的に返答すれば、『嘆かわしい!』と叫ばれた。

『お兄ちゃんはみーちゃんのことが心配で電話してるのに、それを後回しにするの!?』

 本当に今はそれどころじゃないんだけど。てか、正兄も仕事中じゃないの?

 式典の日にちも迫り、企画はもう屍が右往左往してるようなカオス状態。向う側でなんか言ってるのを無視して通話を切ってやった。

 更にサイレントモードに設定して、スマホをカバンの中に突っ込んだ。どうせ仕事でかかってくる電話はこの時間は会社の方にかかってくる。


「三枝君、ちょっといいかな」

 タイミング良く部長から声をかけられた。

「トーカブランドの当日の発表の進行だけど、ご本人に説明した?」

「はい。でも、ご本人もちょっと変更したい箇所があるみたいなので、後日まとめてご連絡頂く予定です。あ、そんなに大幅な変更はない、ともおっしゃってました」

「分かった。じゃあ大まかでも流れはこのままで大丈夫そうだね。それにしても三枝君がトーカさんと友人で本当に助かったよ」

「いえ、友人故にやりづらいかとも思ってたんですけど……、要…トーカさんも遠慮なく希望を言ってくれたので、こちらも遠慮なく出来ないことはハッキリ断れましたし、すごくトーカさんの満足いくモノが作れたと思います」

「そうだね。本当に助かったよ」

 それまでニコニコしていた部長かふいに小声で言ってきた。

「ところで、神沢デザイン事務所の社長と宇梶君とは、その……お付き合い…というか、何かあるのかね?聞いてない?」

 止まってしまった。

「……え、と……なんで…ですか?。知らない……です……」

 ここで、私の彼氏です!とは言えるわけない。

「そうか。いや、こないだも会いに来ていたみたいだし、飲み会の時も二人で座ってていい雰囲気だっただろう?神沢社長は私から見てもイケメンだし、他の女子社員もなにやら噂してたから、そういうことかと……」

 さっきの、正兄といい部長といい、さすがにこれは凹む。


 いっそ公表した方がいいの?

 でも、突然そんなこと言い出すのも変だし。

 部長にだけは伝えておく?

 完全にプライベートの話だし、報告する必要ある?

 と、グルグル考えてたら、後ろから部長を呼ぶ声がかかった。

 否定も肯定も出来ないまま、部長は「じゃあ」と言って行ってしまった。


 *****


 ずっと翔の隣に立つことから逃げて逃げて、いざ隣に行ったら、周りからは認識されてない……っていうのが意外に堪える。

 そういや、学生の時は、翔に彼女がいるのかいないのか私なのか散々周りに聞かれてウンザリしてたっけ。

 今ならそれに堂々と「私が彼女です」と言える…………いや、言えないな。

 結局、そうか。

 私の問題なのか……。


 と、もんもん考えていたらデスクの方の電話が鳴った。

『三枝さん、3番に神沢デザイン事務所の神沢様からお電話です』

 えっ?翔?

 なんで?何かあったっけ?

 あ、スマホをサイレントにしてたから?

 と、思いながら電話を回してもらうと『おう』といつもの翔の声が聞こえてきた。

「ど、どうしたの?」

『今日も残業?』

「んー、多分」

『1回出てこれる?たまにはご飯一緒に食べない?』

 確かに最近ご飯すら一緒に食べてない。私は残業の帰りにお弁当買って帰ったり、翔は理人と食べてきたり、1人で何か作って食べてる時は私の分が置いてあったり……。

「うん、食べる」

 するりと言葉が出てた。

『じゃあ、7時頃迎えに行く』

「ん?迎え……、って、いや、来なくていいから……!」

 こないだのことを思い出して断ろうとしたら、通話が切れた。

 ああー……。

 なんでわざわざ会社まで来るのよ!翔が来ると目立つのに。

 ん?

 わざわざ?


 そこまでで、翔の考えてることがなんとなくわかってしまった。


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