翔サイド 13
「翔、悪いけど、見合いに付き合ってくんねぇ?」
今、なかなかややこしいことになってる理人に頼まれたら、断るわけにはいかない。
「かまわないよ。何だ?スーツで行けばいいのか?」
「そうだな。会場はホテルのレストランなんだが、その前に近くのカフェで待ち合わそう」
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そう言ってたのに、カフェに現れない。
ホテルの近くのガラス張りのカフェは、まだ時間が早いせいか客はチラホラと少ない。
ちょっと早めに着いたのは確かだが、いつも待ち合わせには俺より早く来ることが多い理人が、来てない時点で違和感があった。
自分で言うのもなんだが、背が高く金髪でスーツの俺は、ここに来るまでもかなり目立っていた。カフェでずっと待ちぼうけしてると、客のみならず、店員までがチラチラ見てくる。
さっきから理人のスマホに何度もかけているのに、留守電になるだけで出ない。
ついに『電波が入っていないか電源が切れている』と言われた頃には、これは尋常じゃないと、道香に電話した。
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結論から言うと、拉致られてた。
信じられないが、大の男が女性に拉致られてた。
何やってんだよ、理人ー。
日向さんにも来てもらい、彼方君まで付いてきて、道香と四人で救出しに行った。
確かに莉乃ちゃんは大学の時から、ちょっと変わった子……、という印象ではあった。
でも、まさかここまでやるとは思わなかった。
どこでこんなに歪んでしまったのか、父親である教授もわからないようだった。
「すまなかったな、如月君、神沢君……」
救出した数日後、仕事終わりに教授が事務所までやってきた。
飄々としたイメージだった教授が、数年会わなかったのもあるけど、すっかりくたびれて見える。
応接室で理人と俺とで教授と向かい会っている。
「今回のことは、私も莉乃さんの気持ちに対して中途半端に接していたことも原因だと思っています。警察沙汰にするつもりはありません。ただ、もう二度と莉乃さんを奈都……私の婚約者に近づけないで下さい」
理人は教授に向かってハッキリと言った。
「……。わかった。既に莉乃は秋田の実家に預けたんだ。私も、仕事を片付けたら行くつもりでな」
一呼吸おいてから、教授は続けた。
「私も、まさか莉乃があそこまでやるとは思わなかった……。親としてショックだよ…」
「理人、良かったのか?警察沙汰にしなくて。あそこまでやったら、完全に犯罪だろ?」
教授が帰った後、気になったことを聞いた。
「ああ、もう、いいんだ。どっちかっていうと、これ以上莉乃と関わりたくないから、な」
「そうか……。でもって、いつの間に日向さん『婚約者』になった?」
理人を見ると、幸せそうにニヤリと笑った。
「羨ましいなら、道香に言いな」
「くそ、羨ましくなんか……ある!」
とはいえ、今はまだタイミングじゃない、とは思っている。
*****
道香がやたらと忙しくなってきて、マンションでも顔を合わすのは寝るときだけ、みたいな状況になってきた。
それでも俺は平日は道香のマンションに帰った。そうでもしなければ、一週間道香に会えないとかになりそうだな、と思ったから。
疲れた顔で帰ってくる道香を「おかえり」と迎えられるのが嬉しい。
そんなささやかな喜びに浸っているというのに、横槍は入ってくる。
実は道香には言ってないが、宇梶さんからちょくちょく連絡が来るのだ。
仕事用とプライベートのスマホは別にしているから、仕事用の方に電話やメールが来る。
おいこら、企画は忙しいんじゃなかったのか?
電話はなるべく出ないようにしているが、メールは勝手に受け取ってしまう。
もちろん返信はしないし、内容を見てもいない。
いっそ、着信拒否してやろうかと思い始めた時、そういうわけにもいかない事情が出来た。




