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彼と彼女のなりゆき  作者: キョウ
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道香サイド 19

「理人と連絡が取れない」

 日曜日の午前中、あまり聞かない翔の緊迫した声がスマホから聞こえてくる。

 ちょっといつもと違う行動パターンをしていて、つかまらないだけなんじゃないかと最初は思った。

 でも、翔の声が固く、じわじわと現実感と不安が襲ってきた。


 翔は今日、例の理人のお見合いに立会人として一緒に行くはずだった。

 でも、約束の時間になっても待ち合わせのカフェに現れず、更に見合い会場となるレストランに問い合わせてもキャンセルされていた。

 スマホもメールも繋がらない、と言って私に連絡してきたのだ。


 とりあえずマンションの管理人さんに事情を説明した。日頃から、翔と私と理人がそこそこ出入りしてたのを見られていたのが功を奏したのか、同行する形で理人の部屋の鍵を開けてもらえた。

 何度かお邪魔したことのある理人の部屋は、理人らしくほどよく整っていてオシャレだ。

 よく使ってるのを見たことがある黒いカバンが、赤いソファーの上に無造作に置いてある。

 管理人さんに言って、証人になってもらって中をあらためた。

 財布にはしっかり現金もカードも入ったままで、スマホが入ってない。

 キッチンカウンターの端にある充電器にもスマホは刺さっておらず、部屋中さがしたけどなかった。

 隣の寝室を見ても、昨晩使った様子のないセミダブルのベッドがあるだけだ。

 でも、クローゼットのドアにスーツが1着掛けられているのを見て、ギクッとした。

 いつもスーツで出勤してる理人だから、スーツがあること自体はおかしいことではない。


 でも、このスーツは違ってた。フォーマルなのだ。

 いくら理人でも普段にフォーマルなんて着ない。

 これは今日のお見合いで着るつもりで用意しておいたものなのだろう。

 ということは、理人はスマホだけを持って、昨日の夜のうちにどこかへ消えてしまったということ?

「あの……、警察に連絡しますか?」

 不安げな顔をした管理人さんが聞いてきた。

「ちょ、ちょっと待って下さい!まだ、心当たりがある……かもなので」


 警察を呼んだら大事になる。これを大事にしていいのかどうなのかまだ分からなかった。

 管理人さんに、もし帰ってきた理人を見かけたら連絡してもらえるように私の番号を教えた。逆にこっちで理人を見つけても連絡すると約束して、ひとまず管理人さんには動かないでもらうようにした。


「どうしよう、翔!やっぱり理人いないの。部屋を見たら、昨日の夜からいないみたい。なっちゃんに連絡した?」

 自分の部屋に戻って翔に電話した。

『まだしてない。道香、日向さんに連絡してくれないか?俺は教授の方へ連絡取れないか、探してみる』

「う、うん……。でも、ねぇ、これって……、まさか……」

 私の頭に過るのは、ストレートの黒髪をなびかせて、理人の後ろをいつもニコニコ付いてきていた彼女だ。

 確かに、天然のわりに行動力があって、突飛なことをしていた。

『わかんねぇ。俺もあの二人がどういう関係だったのか、よくわかってない。でも確実に言えるのは理人の意思でいなくなったわけじゃない、ってことだと思うぜ?』

「……そう……、だよね……」

 部屋からもそれは伺えた。

『後で会おう。まずは日向さんに……、難しいことを頼んで悪いが……』

「ううん、大丈夫。多分、翔より私の方がいいわ。じゃあ、また後でね」

 通話を切って、一呼吸いれる。

 すぐさまアドレスの中からなっちゃんの番号を探した。


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